- ナノ -

君と共に正義の道へ!2
手鏡で軽く自分の姿を確認する。頭に被った帽子を調整して、マスク――変装のための他人を模したもの――をちょっとだけ引っ張って、うん、完璧。
今日は新しく作ったマスクを被って、街角へやって来ている。とある人物に会うためだ。と言っても、相手は私のことなど知りもしないのだが。
対象が訪れるであろう場所で待っていれば、その姿が見えてくる。力強い足取りで道を歩く姿を見て、微笑みそうになる顔を制御した。

「すみません」
「ん? なんだい? 自分のことかな」
「はい。番轟三さん、ですよね」

名前を当てられて驚愕の表情をするのは、番轟三。今の時点ではまだ新人刑事である男性だ。そして将来、亡霊になり代わられて殺される予定の男。

「会えて嬉しいです。貴方とお話がしたいのですが」

帽子の下、彼と全く同じ顔でそう告げた。


すげ〜〜〜〜私服も白だ〜〜〜〜ぱねぇ〜〜という感想はマスクの下に隠して、早速驚きを隠せない番刑事を人目のつかない所に連れて行った。
監視カメラ、人の視線、声、盗聴の心配のないことを事前に確認した廃ビルである。目的地に近づくにつれて流石に警戒してきた番刑事に申し訳なく思いつつ、そのまま誰もいないビルへ案内した。
それから話したのは国際的犯罪者の亡霊についてである。端的に言うと、私は彼に協力して欲しかったのだ。
原作に出てくるキャラクターと同じく、いや、それ以上に白確定な彼に。原作のキャラが信じられるのは当然として、それ以上に死人というのは信じるに値する。被害者ほど犯人でないという保証はないだろう。

「その亡霊を捕まえるのに協力して欲しい、のだね?」
「ええ。亡霊の存在について信じられないのなら警察のデータを探してみてください。貴方が手にいれられる場所にあるかは分かりませんが……何か情報の一つぐらいは掴めるかもしれません」
「うむむ……。仮に、君がそのスパイを捕まえたいというのが事実だとしても、なぜ私に協力を仰ぐのだ? それに、君はどこで私のことを知ったんだ? いや、そもそも君は一体何者なんだ?」

真っ当な疑問が出てきて、答えるために被っていたハットに手をかける。
口で言うより目で見た方が分かりやすいだろうから。

「私は『元』亡霊なのです。今活動している現亡霊を、捕まえたいと思いまして」

ハットから出てきたのは、目の前の番轟三と全く同一の顔。彼を見つけてから、一から手作りをしたお手製だ。
笑いかければ、目を見張った彼が叫び声を挙げるまでそれほど時間はかからなかった。うん、廃ビルにして良かった。



「亡霊ということは、君も極悪人ではないか!」
「元、と言ったでしょう。今は善人とまではいきませんが一般人ですよ」
「一般人が亡霊を捕まえようとはしないだろう! また何かの犯罪なのではないかい!」
「まさか。これは世界平和のため、正義のためですよ。私は活動を辞めましたが、新たな亡霊は今でも世界に様々な悲劇を起こしている。あなたも知りませんか? 大河原宇宙センターで起こった悲惨な事件のこと」
「大河原宇宙センター……」

どうやら覚えがあったらしく、うるさい口がようやく静かになる。しかし直ぐに驚きに表情筋が動いて、忙しなくて可愛い顔だなぁと眺めた。

「あの現役検事が殺人容疑で逮捕された事件か! もしやあれも亡霊の仕業なのか!」
「かもしれない、と言うだけですがね。ただ、日本の宇宙開発の最先端。亡霊が狙うにはうってつけでは?」
「む、むむむ……!!」

頭を抱えて考え込んでしまった番刑事に微笑むのを自重しながら、言葉を畳み掛ける。

「私は元亡霊という身ですから、やはり動ける範囲も限られる。だからこそ、貴方に協力して欲しいのです。これ以上亡霊による悲劇を繰り返さないために」
「……なぜ、ジブンなのだ? もちろん気持ちは誰にも負ける気は無い! だが、まだまだ新米刑事なのだよ」

少し自信なさげに語る彼に、目を真っ直ぐに見つめて告げる。

「私にとって、あなたが一番信頼できた。あなたしかいないのです」
「……理由になっていないのだが」
「人を信じるのにそんなに理由が必要でしょうか?」
「元スパイの言動とは思えないな! だが……いいだろう! 私を信じてくれた君を信じよう。私と共に正義を追いかけようでは無いか!」

そう力強く拳を握る彼に、単純でよかった! と安堵しつつ、内心でほっと息をつく。
どうにかするつもりではあったが、どうにかなったらなったで安心はするものだ。
さて、これからやることは沢山ある。頼りになる仲間も増えたことだし、頑張っていきましょうか。






一応説得には応じてくれた番刑事であったが、もちろんその後に色々と説明をしたし求められた。主に私の情報と、亡霊について。
自分に関するものは出せるものだけ出させてもらった。何せ自分でもわからない部分が多すぎて何を話せるものだろうか。というぐらいなので。
なので純粋に何ができるか――指紋さえもコピーできるレベルの変装術や戦闘術等――を伝えさせてもらった。実際に彼自身を演じてみたらものすごく顔を引き攣らせていた。まぁ目の前に意図しない鏡があるようなもんだもんな。気持ち悪いだろう。
それから亡霊について。これは実は私も持っている情報は多くない。先代であり散々追いかけられていたところから得た知識しかない。だが、私と同程度のスキルを備えているのは確かだったので、それを伝えさせてもらった。つまり、私と同じような変装技術に戦闘技術。ああ、それから――恐怖を感じぬ心理か。まぁ、今の私は普通に恐怖は感じるので、自制して押さえなければほぼ一般人と変わらないのだが。比較してみたことはないので多分、なのだが。

「しかし、そんな相手をどうやって捕まえるというのだね。君がいると言っても」
「地道に情報を集めていくしかないでしょう。ただ、お願いしたいことがあります」
「お願い? なんだろうか。正義に反しないことであれば受けよう!」

うん、まだちょっと警戒しているようだ。正義に胸を張る彼に、じっくりお願いを伝える。

「君には夕神迅と仲を深めてもらいたいのです」
「夕神検事と? それはなぜだい」
「大河原宇宙センターの件に亡霊が関わっているとしたら、彼は亡霊について知っている可能性が高い。少しでも仲を深めておいた方がいい」
「それならば、直接本人に聞いた方が早いではないか」
「亡霊は何にでも成れるんですよ。彼がそれを知っていたら、会ってすぐの人間を信用するはずがない。まずは仲を縮めなければ」
「ううむ、そうか……」

腕を組んで考え込む番刑事に、畳み掛けるように続ける。

「それに」
「それに?」
「君と夕神迅が仲良くしているのが見てみたい」
「うむ。仲がいいことは正義だからね!」

うーーーーん深刻なツッコミ不足!! だがそれでいい!!
二人で深く頷き合って、話を進める。話をするのが楽しい。脱線しそうになる気持ちを抑え、続きのお願いをする。

「私を君に成り代わらせてほしいのです」
「なるほど、君をジブンに――って、ど、どういうことだい! やはり成り代わることが目的だったのか!?」

いい反応だ。まぁそれぐらい驚いてくれなければ困る。

「そうじゃありません。君の刑事としての立場を借りたいんです。私のスパイ技術でなければ得られない警察の情報もあるだろうし、私はこれでも元スパイの身です。簡単に動けない」
「だっ、だからと言って成り代わられてしまってはジブンは刑事を続けられないではないか!」
「それもそうですね……」
「それもそうですね、ではないぞ!!」

ひどく焦って汗を流す番刑事に、もう一声。とため息を吐いて声を低くした。

「しかしただの刑事であるだけの君に、正義のための情報をかき集めるのは荷が重すぎる……。相手は国際的なスパイです。情報統制もしっかりされているだろうし、下手に首を突っ込めば君は刑事の立場を追われてしまうかもしれない」
「う、ううっ、し、しかし……!!」

動揺で目線が揺れている。こんなに素直で大丈夫だろうかと心配になるが、そこも彼の長所なのだろう。私もそういうところが好ましく思う。
なので、こうして利用してしまうのは申し訳ないのだが……。

「……わかりました。こういうのはどうでしょう。数日ごとに『交代』するんです」
「こ、交代?」
「ええ。互いに得たことを情報共有して、番刑事という立場を共有するんです。我々はすでに運命共同体、相棒というものでしょう。つまり、二人で一人になるんですよ。そうすれば君は刑事を続けられるし、私も刑事の立場から情報を集められる。どうでしょう?」
「二人で一人……」
「ええ。もちろんバレるようなヘマはしません。どうです、二人の要望を叶えられる素晴らしい案だと思いませんか」
「確かに……そうかもしれない!」

うーーーーん、美点ではあると思うけど、本当に大丈夫だろうか。この人は。
そんなわけで雑な作戦会議の元、私は数日おきに彼に成り代わり、番刑事に成ることになったのだった。
もっと警戒するように教えた方がいいのかな。いや、でも私にとっては都合がいいし。うう、良心が痛むなぁ。

「そうだ。交代で成り代わるのだから家は一緒ですよ」
「え!!?? なぜだい!?」
「情報共有もしなければならないし、別の家から同一人物が出てきたおかしいでしょう? 大丈夫、私は掃除も料理も得意ですから」
「む、むむむぅ」

難しい顔をして黙ってしまった。了承ってことでいいのかな。本当に大丈夫か番刑事。





私がお願いした通り、番刑事は私が彼に数日おきに成り代わること、そして彼の自宅で過ごすことを了承してくれた。それどころか「家に住むのなら色々必要だな!」と二人で買い物にさえ出かけた。この人本当に大丈夫か? いつか殺されないか? いや、原作だと殺されてはいるんだけど。
はぁ、私が守らないと……などと誰目線かわからぬことを考えつつも、要求通りの生活が始まった。
キャラクターのプライベートが見られるとか最高すぎるな、転生してよかった。などと邪なことを考えつつ、もちろんそんなことのためにこの生活を要求したわけではない。
当然、亡霊の情報を手に入れることも重要だ。だが、どちらかというと彼自身の保護のためであった。現状、常に共にいることは叶わない。そのため、できるだけ近い距離でと考えた際にこの選択になったのだった。彼は原作で亡霊に成り代わられる。その時に私が彼に成り代わっていれば戦闘に持ち込めるし、仮にそうでなかったとしても彼の異変にすぐに気がつける。――そうならないように私がいるのだが。
亡霊が出現する機会――HAT-2の打ち上げが近づいてきたらまた別の作戦を実行するつもりではあるのだが、今は彼を守る上でも、彼のことを詳しく知っておきたい。いや別に番刑事について事細かく知りたいファン心理とかじゃなくて本当に彼のことが心配だからこうなっただけであって私は無罪です。いやスパイだったから実際有罪なんですけど。

そうして彼に成り代わる生活が始まったのだが、案外どうして、問題は一つも起きていない。
職場では元亡霊の技術を生かして何も問題が起きないようにしているし――刑事の仕事も楽しいものだ――家でも彼ができるだけ不快に感じないように、むしろ居心地良く過ごせるように掃除や料理をさせてもらっているし。と言っても、「一人に任せるのはジャスティスではない!」と番刑事に言われてしまって、交代制でしているのだが。はぁ、本当に正義の味方……。
彼と過ごしている間、というか彼と出会ってから基本的に男性体――彼の姿を使わせてもらっている。女性体にも成れるが、一緒に暮らすとなると彼も困惑するだろうし、何かと気を遣われないから私も楽なのだ。
ちなみに、気を許しすぎた彼は「同居する仲なのだし、敬語はなしで大丈夫だぞ元亡霊くん!」と言ってきた。いいのかそれで。もちろん厚意に甘えさせてもらいますが。
あと一応、それなりに警察で情報を得ている。それから彼の評価も上げるように行動したりしている。自由に動けないと夕神検事に会えないからね。番刑事は昇進とかには関心は無いみたいだが、頑張って階級を上げていこう!

「そういえば夕神くんに会うことが出来たぞ!」
「おお、そうかい。彼はどうだった?」

彼に成り代わるようになってから半年経ち、ようやく夕神検事と出会えたらしい。もちろんそうなるように尽力させてもらったが、こうして報告を聞くとたいそう嬉しい。
私が最初に会うことも出来たが、やっぱりファーストコンタクトは本人同士がいい!!
ニコニコとしていた番刑事だったが、私の問いに直ぐに人差し指同士をつつき始めてしまった。落ち込んだ時の番刑事の癖なのだが、ほんと可愛いなそれ。

「それが……とっっっても冷たかったのだよ……」
「まぁそうだろうね。検事でありながら罪を犯したんだ。警察からのあたりも強かっただろう」
「うむ……。ジブンは彼と仲良くなりたい! 信頼されるように頑張ろうと思う!」
「うんうん。その調子」

真っ直ぐ過ぎるほど真っ直ぐな番刑事に思わずにっこりと笑みが浮かんでしまう。そうそう、そういう二人が見たかったんだよ私は!!
番刑事は清々しく胸を張っていたが、真剣な顔をして私を見てきた。そうするとカッコイね番刑事。

「しかし……夕神くんは亡霊に嵌められた。ということであっているかい?」
「私の想像だ。あのHAT-1計画で亡霊が関わっていた可能性は高い。だが、だからといって彼が本当に殺人を犯していないかは分からない」
「むぅ……ジブンは……夕神くんを信じられるだろうか」

正義に熱い刑事が悩んでいる。彼を無罪と信じるか否か、か。

「……無理に信じなくともいいんじゃないか?」
「どういう事だい?」
「君は夕神検事をまだよく知らないだろう。これから知っていって判断をしてもいいし、彼が殺人を犯していたという前提を持って、そこから彼を信じるかどうか決めたっていい」
「殺人を犯したのに、かい?」
「ああ……。私はスパイとして数々の悪行に手を染めてきた。だが君は私を信じてくれているだろう」
「それは、そうだけれど」
「たとえ悪に身をやつしていたとしても、これから善行を詰めるかもしれない。そう信じようとすることも出来るんじゃないかい」
「……!! なるほど!」

両手を上げて驚く大袈裟な仕草に内心で微笑ましく思いつつ、納得する理解にたどり着けたらしい番刑事を眺める。
彼はガッと拳を顔の前で作ってから、相変わらず大きな声で宣言した。

「夕神くんが罪を犯していたとしても、そうでなくとも! 私は彼を信じたい! だから、彼が罪を犯していたというのなら更生をさせてみせるぞ!!」
「そうそう、いい調子」

いつもの熱いテンションに頷きながら、私も直ぐに出会えることになるであろう夕神検事に思いを馳せる。
私も是非とも仲良くなりたいものだ。



私と彼との共同生活が始まってから一年が経過した。あ、この言い方だと同居が始まって一年経ったみたいな言い方ですね。亡霊に関する共同捜査を初めて一年です。どうしても邪念が混じりますねこれが。
調子としては上々だ。相変わらず私は彼に成り代わっていても怪しまれないし、彼は彼で私の協力もありつつ実績を積み重ねていっている。あと少しで巡査部長に昇格するだろう。
彼自身に対しての調査も進んだ。簡単に言うと亡霊に狙われているかどうか、の調査だ。結論としては、彼は今現在は全く目をつけられていない。亡霊の資料を漁っても彼がなり代わられる要因を見つけられなかった。となれば、恐らく彼が亡霊に気づかれるのはもっとあとなのではないだろうか。確か亡霊はHAT-2計画の妨害工作もしていたはずだし、夕神検事にも何かこう……あった気がする。そうすると夕神検事が検事として再び表舞台に立つようになる頃、そしてHAT-2計画の実現が近づく頃に亡霊は夕神検事の近くにいた番刑事に目をつけたのでは――という仮説が立つ。
それならば、私が行う計画は早めに進めた方がいい事になる。
そろそろ、私の次の作戦も初めていこう。

「え!? この家を出ていく!?」
「ああ。別の身分を作って、もっと自由に動けるようになろうと思ってね」
「な、なぜだい? ジブンたちは一心同体。二人で一人なのでは……」
「それは今でもそうさ。けれど、将来的には私も現場に入って亡霊を追えるようにしたいのだ」
「現場に入って? それはジブンに成り変わるという意味ではないのか?」
「ああ、別の人間として警察に潜り込みたいと思ってね」
「な、なに! それは犯罪ではないか!」

それを言ったら君に成り代わって警察の情報を閲覧していたことも十分に犯罪なのだが、それはいいとして。
確かに犯罪は犯罪であるのだが、正攻法のルートを使おうと思ってるのだ。この一年間、彼に成り変わり、さらに別でその「対象」を探していた。
――私が成り代われる、別の人間を。

「一般人に成り変わり、その人物として正式に警察として就職するんだよ」
「む、むむ? すでにいる警察の人物に成り代わる訳ではないのかい?」
「ああ。だから番刑事が心配するようなことは何もないさ」
「それは……しかし……」

まぁ、彼が心配するのもわかる。警察関係者に成り代わることはない。しかし、一般人に成り代わることにはなるのだ。

「大丈夫。成り代わる人物に迷惑はかけない。君の正義に誓おう」
「むむぅ……ジブンの正義に……」
「ああ。私の正義は心許ないだろうが、君の正義は強く、盤石だ。君に顔向けできないようなことはしない」
「……信じてもいいのだね」
「ああ……私を信じてくれ。二人で亡霊を捕らえよう」

番刑事は難しそうに顔をしかめて、それから真っ直ぐに私を見つめた。目がキラキラしていて、本当に綺麗だなぁ。後ろめたいことが何もない、純粋な瞳だった。

「ジブンは……すでに君を信じているよ」
「……それは、どういうことかな?」
「最初に協力を申し込まれた時は、信じると言っても心の底から信じることはできなかった。けれど、一年間同じ人物として動いていて、共に生活していて理解できた。君は、優しい、いい人だ」

優しい、いい人。
成り代わっていた対象にそう言われることはあれども、私自身にそう言ってきた相手はいない。そんなことはあり得なかった。私は自我があってないようなものだったし、私はずっと他人に成り代わってきた。

「君のことは、相棒で、二人で一つで、友人だと思っている」
「友人……」
「ああ! いや、同じ顔だから、友人というよりもはや家族のようだ」

家族。
この人生で、私が忘れ去ってしまったものの一つ。
前世のものは思い出せるのに、今生の家族は欠片も思い出せなかった。名前も姿形も、声も、どんな性格だったかも。何もかも思い出せない。最初からそこになかったかのように暗闇の奥に沈んで消えてしまった。

「……君が家族なら、それほど嬉しいことはないだろうね」
「本当かい!? いや、実は前から思っていたのだが、君に笑われてしまうかと思って言えなかったのだ。そうなら、もっと早く言えばよかったな!」

はっはっは! と元気に笑う番刑事に、胸がぐちゃぐちゃになるようだった。
久しぶりだった。こんな感情を感じるのは。この人生では、きっと感じたことはなかっただろう。前世ではあったかもしれないが、ああ、これはこんなにも、生きているということを実感できるものなのか。

「番刑事」
「ああ」
「……私はまた君の前に戻ってくる。君と共に亡霊を追うために。だから、待っていてくれるかい?」
「もちろんだとも! その時まで部屋はそのままにしておこう。寂しくなったら、いつでも戻ってきてくれたまえ!」
「はは……それはありがたい。わかった。寂しくなったら会いにくるよ」
「ああ、いつでも大歓迎さ!」

目的を果たすまでは君の前には現れないとは思うけれど、その言葉だけで信じられないぐらい勇気をもらえる。
やはり、ただ生きるために生きるのではなく、正しいことをしようとして正解だった。
そして何より、君に出会って私は救われた。

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