- ナノ -

綺麗な瞳(弾丸論破 石丸)
「石丸君」

彼女から名前を呼ばれた。
それは共に日直をしており、黒板の最後の掃除をしているときだった。
彼女は見た目は少し服を着崩していて、パーカーを羽織っておりだらしないが他は規則正しい勤勉な生徒だ。
なので僕は彼女に指導をすることも(服以外では)ないし、彼女も僕に常に笑顔を向けてくれる。

そんな彼女から声がかかった。
黒板を擦っていた黒板消しがピタリと止まる。
その代わりに鼓動がドクリと強まる。
彼女と関わっていると謎の症状が発病する。病気かと思い兄弟に聞いてみたが、変な顔をされて大丈夫だと言われてしまった。
兄弟が言うのならそうなのだろう。しかし、少し困る。

「なんだろうか」
「石丸君の目って綺麗だね」

彼女は何を言っているのだろうか。
僕の目が綺麗? なぜ、そんなことを言い出すのだろうか。
そんなことを言ったら生江君の方がとてもとても綺麗な目をしている。
平均と変わらない目をしているのに、どこか宝石が詰まっているようなキラキラした瞳をしていて、それを包む目の輪郭ははっきりとしていてまるで花を包む茎のようで鮮やかだ。

「瞳が赤い人は他にもいるけど、石丸君のは燃えてるみたいに情熱的」
「そう、だろうか」

僕を形作る言葉が生江君の唇からどんどんと出てくる。
その言葉は形をもって僕の頭に入ってきて、そのままバラ色の世界を形作るようだった。
彼女の周りには僕の風紀さえも通じないような異世界が広がっているようで、世界が歪むようだった。

気づけば涙があふれていた。



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bkm