- ナノ -

女の子って怖いB
外食の為に町を歩く、そんな中で出会ってはいけない人たちと出会った。

「あっ、アレクセイ!」
「え、エステルさん……」

桃色髪に、明るい笑顔。
剣や魔法という攻撃的なものが似合わない気品さを持つ彼女を街の飲食店で見かけた。
それだけならよかった。少し話をして、そのまま別れればいい。
だが、その両脇にいた女性たちが問題だった。

「……」
「あら、捕虜の人じゃない」

一人は無言。もう一人は堂々と捕虜と呼ぶ。
その二人から放たれるオーラがどうも怖くてどうしようもなく逃げたくなる。なるほど、敵認定ですねありがとうございます。我々の業界ではご褒、すいませんなんでもありません!
思わず一歩下がりそうになるのを抑えつつ、エステルさんに頭を下げてとっとと逃げようと口を開けようとすると。

「アレクセイも一緒に食べませんか? ご飯はまだですよね」

エステル様ぁああああ! もうやめたげて! 私のヒットポイントはもうゼロよ!
この世界ではグミというもので回復やらなんやらするようだが(きっと回復薬と同じ原理なのだろう)それでも無理なぐらい値が削られる。主に心の。
全身全霊の遠慮で断ろうとすると、両脇の女性たちからのオーラが何故か一気に増幅した。

「まさか、エステルからの誘いを断るんじゃないでしょうね……」
「私、捕虜さんとお夕飯をご一緒したいわぁ」

なるほど、拒否権はなしと。またですか。
内心涙を流しつつ、背中に冷や汗を垂れ流しにして、重い足取りで飲食店のオープンテラスにいる女性たちの下へ行く。

「アレクセイ、少し痩せたんじゃありません? いっぱい食べてくださいな」
「い、いえ、そんなに入りませんよエステルさん」
「まぁ、そんなことを仰らずに」

テーブル席に座ると、エステルさんが色々世話を焼いてくれる。
痩せたのではなくやつれた、が正解だろうが、きっと彼女の知っているアレクセイと比べると貧弱になったのだろう。純粋に心配してくれる彼女に、中身が実際違うものなので申し訳なくなる。
引け目を感じつつ、注文してくれる品数に目が回る。おいおい、そんなに頼んでも喰えないんですけど。

因みに席はエステルさんの目の前。つまり両脇にあまり良い雰囲気ではない女性二人がいるわけなのですよこれが。

「男の人はいいわね。どんなに食べても気にする必要ないものね」
「何? あんたあてつけ? 当てつけなの?」

え。そっち? 元敵が近くにいることの不快感でなくて、食べ物に関する嫌味ですか。
こんなファンタジーな世界でも、女性の悩みは三次元と一緒なわけか。まぁこの世界が太っている方が美しい。とかいう常識でなければ切っても切れない女性との関係だろうなぁ。
その点に関しては男でよか――よくない! 女から行き成り男というのは不自由で敵わない。
いくら身体が勝手に慣れてくれている(今までの行動でよく意識と身体が繋がっているのは確認した。疑問に思うほどこの身体はしっくりきている)わけだが、それでも女の時の羞恥心とかはあるわけであって、やはりトイレとか色々いいわけもあるわけがなく。

という悶々とした悩みをいえるわけがないので、睨みつける女性陣に苦笑いを返すしかない。

「しかし、お二人方は美しい体型をなさっているので、あまり気にせずともいいのでは」

ザ・男の意見である。本当、こういう関連の意見は男しかいえない。
ちょっと前までは女だったのにも関わらず、よくこんな言葉が出てくるものである。
と、言った後で怒られっかなぁ。と冷や汗をかいたが、そんなことはなかったらしい。

「う、美しいって……!」
「……なぜかしら、あまり頭には来ないわ。おじ様の言葉だと説得力があるからかしら」

あら。意外と初心な二人の反応。
どうやらこの“ダンディーなくせして結構美人”の顔が役立ったらしい。
きちんと見たのは宿屋についてからだが、この身体の主は結構見れる顔をしている。最初に出会ったデュークさんほどではないが、こっちもこっちで美人だった。
中性的というわけではないが、男のくせして肌が白かったり、睫毛が長かったりと。まぁそれを言ったらローウェル君もそうなのだが。というか、彼もそうとう美形だよなー。というか、美人。
そのお陰でどうにか女性陣の逆鱗には触れなかったらしい。よかった。凄くよかった。

「と、とりあえずさっさと食べなさいよ!」
「そうね。これから一緒に旅をするんだもの。慣れないとね」
「はい。まだまだいっぱいありますから」

どうやら少しだけだが警戒心は取り払ってもらえたらしい。
リタさんはツンデレで、ジュディスさんはお姉さん系か。いや、しかしこのメンバーの中では外見年齢だけだとはいえ私が一番年上なのだから、しっかりしなきゃな。ああ……面倒だと思ってしまうのはいけないだろうか。
共に旅をするということを一応は認められたのは嬉しいが、目の前にある料理の数に眩暈がする。

しかし三人の反応からして食べなくてはならないのだろう。
吐く覚悟をして、料理に挑む。
……女心が分かる身としては、女性よりいっぱい食べなきゃだしな。

その後、(陛下からの手紙の中で)元騎士団長だったらしい私の財布は結構潤っていたので、4人分勘定をさせていただいた。
リタさんとエステルさんは純粋に喜んでくれたが(リタは警戒しつつだったが)、ジュディスさんの目が私をいい鴨として見ていたので、今後は十分な注意を払って外食をしたいと思う。

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bkm