- ナノ -

#6
廊下側の窓を見ると、そこには学校にはやってこないはずのサングラスをかけた怪しい宅配人がおり、大きなプレゼントボックスを担いでいた。それを見て間根山は「そういえばそんなこともあった気がする」と呟いて、その宅配人が去っていった後に隣の六組へと足を運ぶ。
『主人公』――桜木花道はつい先日からバスケ部にやってくるようになった。だが間根山は彼と部活動で出会っていない。理由は単純で、不良で破天荒な桜木の入部をキャプテンである赤木が認めずに体育館まで足を運べていないからだ。他の部員より早めに着替えて体育館へやってきていた間根山と桜木はすれ違っていた。

「赤木、バナナある?」
「お前……気づいてたならやめさせろ」
「まぁまぁ、一房ちょうだいよ。そんなに食べられないでしょ」
「ったく……」

赤木は机の上に置かれた特大プレゼントボックスの中に詰められた大量のバナナを一つ適当に掴み、間根山に投げるように渡した。
危なげなく受け取った間根山は満足そうに匂いを嗅いで、赤木に視線を送る。

「どう? 桜木くんは」
「ふん。あんなメチャクチャなやつ入れられるか」

そう言って鼻を鳴らす赤木に、間根山はニコニコと笑みを浮かべながら、そう、とだけ相槌を打った。
否定も肯定もしない間根山に、訝しげな視線を送った赤木だったが、相手の視線が下へと落ちる。

「そういえば、その封筒は何?」
「あ? いや、これは……」
「宮沢りえか〜。いい俳優……いや、アイドルだよね。私も好き」
「なっ! 違う! これはあいつが勝手に……!」
「え? じゃあ好きじゃないの?」
「そっ、そういうわけでもないが……!」

一気に慌て出し、頬まで赤くさせ出した赤木に笑い声を上げる。
それに揶揄われたと察した赤木が、悔しげに顔を歪めながら咳払いをして、話題を変えさせるためにとりあえず思いついたことを口にした。

「そういえば、どうして箱の中身がバナナだと分かったんだ」
「え?」
「それに、封筒の中身も……。仕舞ってたよな、雑誌の切り抜き」
「……」
「……マネ?」
「会話が聞こえてきたんだなぁ、これが。じゃ、私は次の授業の準備があるから〜」

美しい容貌をこれ以上ないほどに完璧な微笑で彩り、間根山は軽く手を振って六組から優雅に出ていった。
その完璧さに誰も声をかけることはできなかったが、間根山が出て行き、周囲に放たれていた光の跡も無くなったあと、赤木がボソリと呟いた。

「あいつ……実はエスパーなのか」

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bkm