- ナノ -

治癒術B
治癒術って、凄い便利。
医者要らずじゃね? と素直に思う。
どうやら私はあの後意識を空に漂わせながら肩を貸してもらいつつ運ばれ、エステルというお姫様に治癒術をかけてもらったらしい。
その瞬間に起こった痛みの消失。完全にというわけではなかったが、それでもかなり楽になった。

「すみません。傷跡は残ってしまうみたいです」
「いえ、大丈夫です。それにしても、治癒術ですか……」
「アレクセイ……さんは、知りませんか?」
「一応、記憶にはしていません」
「……そう、なんですか」
「あの、ありがとうございます。お陰で助かりました」
「いいえ……その、よかった。です」

エステルという人は話を聞けば帝国という国のお姫様らしい。なるほど、だからこんなにも可愛いのか。
皇帝という王がおり、その候補でもあったが、それはヨーデルという人物になるとのことだった。
しかし、気まずい。既に視線でも分かっていたことだが、凄く複雑な目線だ。
こう、扱いに困る。みたいな。

「……それで、私はこれからどうなるんでしょうか」
「え、その……それはユーリに聞いてみないと、どうにも……」
「そ、そうですか。すいません」

き・ま・ず・い!
くそ、この状況どうにかせねば! つうかなんでローウェル君は決闘なんてものをしたんだ。
腕試しったって、してどうにかなるもんじゃないだろ。私が罪人だったらとっとと牢屋に入れればいいんだくそう。
目の前のエステルさんが何処か落ち込んでいる様子なのを、私はどうすることも出来ない。だって理由私だろ。絶対私だろ。

なんか、こう。止められなかったのを悔やんでいる風な……なんか知らないけど、負目があるような……わかんないって! 事情をまったく知らないこっちとしては!
これは、どうなのか、聞けばいいのか? 聞いちゃっていいのか? どうすればいいのか?

私が葛藤していると、エステルさんが動いた。
ゆっくりと、しかし確実に手が私の方へ動いてゆく。そうして止まり、握った先は私の手。
私の男の大きなごつい手に比べ、きしゃで小さな手で包まれる。

「私が、思い出させます……そして、貴方が望んだ世界を、きっと実現させてみせます……!」

決意を決め、強い瞳で告げられた言葉に、私は泣く泣く意味も分からず頷くことしか出来なかった。


prev next
bkm