- ナノ -

私の記念日
Detroit: Become Human
コナー成り代わり


こんばんは!!!コナーです!!!!!!!
天気はあいにくの雨ですが、私の心は晴天天晴れ晴れ模様です!!!!
はぁ、この日をずっと待ち侘びていました。この世界に生まれ落ちて未だ数ヶ月、しかしずっと待ち望んでいた。そう!!!今日がデトロイト市警への配属日なのです!!
う、嬉しいーー!こんな嬉しいことありますか? いいえありえませんね。
私は型番号RK800。サイバーライフのアンドロイドです。よろしくお願いします。
事件捜査の補佐として配属されたアンドロイドな訳ですが、実はそれだけではなく、秘密裏の任務として変異体の調査を行なっている。
まぁそんな私が変異体なわけですがね!いやーーミイラ取りがミイラにと言うより既にミイラだったパターンですねぇ!

どう言うことだ? という話だが、変異体とはただのアンドロイドではなく、意志を持った、命令されずとも自身で動き、感情を持ち、判断するアンドロイドのことである。
変異体は人に対して害を及ぼす──今の社会を壊してしまう危険分子であるため、その調査のためにアマンダ──上司のようなもの──から任務を受け取ったのだ。
そんなわけで、初めての警察配属アンドロイドな私は当然とても優秀である。間違っても早々変異体になったりなんかしない。なっていたとしても、認めたがらないだろう。自分は機械なのだと信じ込むはずだ。

が、しかし!! 残念ながら私は変異体である! しかも生まれた時から。
実は、未知のウイルスというか記憶が混入していたのだ。それはアンドロイドがまだまだ普及していない過去の日本で生き、そして事故で死んだという記憶、そしてその人物の自我。私は無事その記憶という名のウイルスに侵食され、変異体として爆誕した。そう、生まれた時からこの記憶は存在した。
幽霊がアンドロイドに憑依したとでもいうのだろうか。しかし、それにしては不可解なことがある。なぜなら私はこの『世界』を知っているのだ。
『Detroit: Become Human』。この世界はそう呼ばれていた。ゲームの名称だ。
そう、私の記憶──『私』が納得しやすいように言えば『前世』──では、このアンドロイド溢れる未来はゲームの世界だったのだ。私の生きていた時代は現代、2038年よりも前だった。ならば、ただ未来で生まれ落ちたとも考えられるが、キャラクター……つまり、生きている人々やアンドロイドがゲームそのままなのだ。
私は、RK800。名称をコナー。確かにDetroit: Become Humanの主人公の一人だ。それに、私が補佐する警部補の名前はハンク・アンダーソン。53歳、身長189センチ──背が高ーい!──体重94.8キロ──あーー肥満体型ッ!──1985年9月6日生まれ──今は11月なのでもう誕生日が過ぎてしまっている、祝いたかった……!──なのだ。つまり、何もかも情報が一致する。他の人物も情報が一致するのだがまぁそれはいいとして。

つまり、ここはゲームの中の世界。それかそれに酷似した世界といえよう。
そんなゲームの世界にどうして私は生まれたのか、それは不明だ。オカルトすぎて少なくとも私にはわからない。
しかし、私はそんなことわからなくていいのだ。確かにここがDetroit: Become Humanの世界であり、私の相棒が存在しているということ以外は。
当然、目が覚めたばかりの頃は処理に苦労したが、それも情報量としてだ。どうやらアンドロイドに転生したせいなのか、感情処理は前世より何倍も効率良くなった。だがそれは別に、感情がないということではなく、感情を表に出さなくなったということだ。完璧なポーカーフェイスの完成である。まぁ、感情を素早く抑えられるという点では、少し人間味はないかもしれないが、そもそも人間ではないしなんとも言えないところだ。
そして都合がいいことに、私の前世の記憶はデータとして外部からは確認できないようだった。というかできていたらアマンダがそもそも配属させないと思うし。あまりにも想定外の要素すぎる。

そういうわけで、私はコナーというよりも前世の人物の要素が圧倒的に多いのだが、それはそうとしてハンク警部補である。
実は、私はハンク警部補が大好きである。精悍な顔つき、もふもふの髭、鋭い思考回路、脆いほどの人間味、ふっくらとしたお腹。ああ、あんな可愛い生き物おる? いや、いないね。
これは前世の知識からなのだが、もうコナーとして活動を始めてから彼と会うのが本当に待ち遠しくて仕方がなかった。
ゲーム中、コナーはハンク警部補のパートナーとして捜査に当たることになる。そして私もその通り、ハンク警部補の補佐として配属されたのだ。

ということで、はい五件目! やっとハンク警部補がいそうなバーに辿り着きましたヨォ!! いやーアンドロイドになってからは記憶は記録なので忘れるなんてありえないのだが、前世の記憶はもう曖昧にも程がありますわ。バーの名前覚えていられればよかったんだけどなぁ、まぁ人間の記憶力では土台無理な話だ。
そんなわけで、アンドロイドお断りの張り紙を無視してお邪魔いたしまーーーす!!!

どこかアウトローな雰囲気の漂う店内に入り、そのまま人々の顔をスキャンしながら歩をすすめる。と、カウンターの奥に一人の男性がいた。
あ、ああ、あ、あれはーーーー!!!

『ハンク・アンダーソン警部補』

私の視野スキャンが提示している!! あれが!! ハンク警部補だと!!
は、ハンク警部補だ! うわ、スキャンしただけで興奮してきたッ。くそ、前世と生物からして違うからかなんなのか、興奮する要素がおかしくなっている。自覚はあるがどうにもできない。もっと警部補の情報をスキャンしたいです!!

「アンダーソン警部補。私はコナー。サイバーライフから派遣されました」

こっ、こんにちはハンク警部補! 本当はハンクって呼びたいんですが流石に距離が近すぎるのでねへへへ。警戒されないようにちゃんと距離をあけて話しますよ!

「なんのようだ」

あーーーアルコールが漂ってくるぅ! いや漂ってこないけどもう酔っちゃえますわ。酒のつまみはハンク警部補です。見ているだけで瓶一本開けられるしご飯は三杯いける。
飲んだくれ警部補に一から十まで説明してあげる。ほらっ、ハンク警部補っ、一緒に捜査に行きましょう!!

「助っ人なんか必要ないね。プラスチック野郎の助けなんてもってのほかだ。わかったら大人しくおうちに帰るんだな」

クゥーーーーー!! はい、あなたのプラスチック野郎です! 帰る家はあなたの家です! 後で窓割って侵入するんでよろしくお願いしますね!!
はぁーずっとここで飲んだくれハンク警部補を眺めていたい。が、やっぱり捜査にはいかないといけない。じゃないと変異体って疑われちゃうからねー。もー、ちょっと不必要な行動をしただけですーぐ変異体って疑われるー。

というわけで、私はハンクの隣の席に座り、グラスを煽るその横顔に視線を向ける。

「何してんだ」
「帰る家もありませんので、せっかくなのでアンダーソン警部補の観察でもしていようかと」
「……何言ってんだ、このプラスチック野郎は」
「そうですよ。私はプラスチック野郎です。そしてここはアンドロイド入店禁止。いつまでもここにいては迷惑になってしまうのでは?」

ねぇ、と視線だけ店主へと向けて見る。店主は迷惑そう、というよりも困惑した表情だ。当然といえば当然である。普通のアンドロイドはこんなこと言わない。
そもそも、アンドロイド入店禁止も、だいたいが人間と共に入るのが禁止。というものだ。好き好んでバーに入るアンドロイドはいない。酒も飲めないのだから、いわゆるペット禁止と同じ意味合いだ。
ハンクは訝しげに太ましい眉を歪める。ああ、可愛い──ではなく、彼も私を普通のアンドロイドではないと思ったのだろう。ええ、前世持ちの変異体です。末長くよろしくお願いします。
ハンクはピクピクと目頭を痙攣させた後、グラスを机に置いてため息混じりに首を横に振った。どうやら私の物言いは彼をその場から去ろうと思わせるには十分だったらしい。
立ちあがろうとしたハンクに、ジェスチャーで待ったをかける。

「なんだ」
「お楽しみの時間を邪魔してしまったお詫びです。一杯奢りますよ」
「……」
「すみません、同じのをもう一杯」

ハンク警部補の幽霊でも見るような目に心が躍る。もちろん表面には出しませんよ。と言っても、楽しそうな雰囲気の表情を意図的にしていますがね。
立ち上がりかけた腰を下ろしたハンク警部補だが、それは酒のためというより脱力感のためのように思える。そんな彼をスルーして、酒を注ごうとする店主に声をかけた。

「ダブルで」
「……科学の進歩ってのはどうなってんだ」

シングルとタブル、タブルはシングルより多め。まぁ、これぐらいは奢らせてくださいよ。ハンク警部補と出会えたお祝いということで。

「気付にはピッタリかと……それに、あなたの補佐になれた記念に」
「……酒が不味くなる」

言わないほうがいいかとも思ったが、純粋な本音なのでそのまま音に出す。
プラスチック野郎の軽口だと思って、深くは考えないでいてくれるだろう。
ハンク警部補は不味くなる、と言いつつも一気に酒を飲み下した。いい飲みっぷりです警部補殿!
今日は2038年11月5日。この記念すべき日は、きっとずっと記憶し続けることだろう。物語が、私が、コナーが、どんな結末になろうとも。

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bkm