- ナノ -

回りだす歯車
たか成り代わり、仁に助けられて前世含め記憶を思い出す


蒙古軍から助けられた先、馬に乗っていればお侍がこちらを向いた。

「たか? 寡黙だな?」

いや、そうですね。はい……つい先程貴方に出会って前世の記憶が全部思い出されたので喋るどころじゃなくてですね……。

「死なないんだってことがまだ信じられなくて……」

というか、一度死んだのにまた人生歩んでることが信じられなくて……。
と、そんなことを言っても恐怖で頭がおかしくなってしまったとしか思われないだろうから、口には出しませんが。

今まで俺こと『たか』は鍛冶屋として姉さんと共に生きてきた。幼い頃は酷いものだったが、大人になってようやくまともに生活ができそうになってきたところだった。そんな最中、対馬が蒙古軍に侵攻され、俺も捕虜として捕まってしまったのだ。
そんな俺を助けてくれたのが姉さんこと『ゆな』と、主君をとらわれてしまっているお侍こと『境井仁』である。

であるのだが、無茶振り過労死推薦労働で弱り切った俺のもとにやってきた二人を──というより、お侍を見て、俺の中にあったパンドラの箱が火薬が爆発するように開いた。
そう、俺は──生まれる前、今よりもっと未来の人間だった。信じられないほど平和な日の本で生きており、そうして事故で死んだ。
その中で、ゴーストオブツシマというゲームがあった。
時代は蒙古襲来、元寇が行われた時代の武士の生き様を描いたストーリーだった。そしてそのゲームの主人公が──境井仁という人物だった。
叔父のために武士として行動し、しかし物語が進むにつれ、武士としてではなく、冥人として島を守ろうと決意する、勇ましくそしてままならない人と世を描いた作品である。
そして、そのゲームには登場人物として『たか』という人物が出てくる。鍛冶屋で、ゆなという人物の弟だ。彼は蒙古軍に捕まっているところを姉と境井に助けられ、境井に鍛冶屋として必要な道具を作り、そして彼に憧れて勇ましくなっていくが、最終的に敵捕われて殺される。
そう、殺されるのである。

もう、全てがすべてゲームと合致する。むしろ違うところを探したいレベルで同じだ。
助けに来てくださったお侍を見て、前世の記憶とめちゃくちゃ重要そうなゲームの記憶が思い出されて、もう私は助かったとかなんだとか、それどころではなくなってしまった。
自分、一回死んで生まれ変わってたんかい。というか前世が未来ってどういうことだよ。そもそもこの世界はゲームの世界だったんかい。とか、もう考えることなどいくらでもある。

だが、一番重要なのは

「死なないんだってことが、信じられない……」
「何言ってんだよ、たか! 助かっただろうに」

いや、うん。そうだね。今回は助かったし、助けてもらったし、感謝しかないんだけど。
その、次の死亡フラグは確定なので、確定死なんですよね。俺。
むしろ、逆か。死ぬってことが信じられない。俺は死ぬのかぁ。

って。そんな簡単に納得できるか。
未来に起こることがわかっているのだ。諦めてたまるか。俺には姉さんがいる。俺がもっと早くに記憶を思い出してさえいれば、幼い頃にあんな酷い目に合わせずにすんだかもしれない。ここまで育ててもらった恩返しをしなければ。
作中、俺は姉さんを置いて死んでしまっていた。姉さんは心の底から悲しんでいた。そんな顔、させられない。そんな想いをさせたくない。
なら、変わらなきゃ。ただの鍛冶屋じゃなく、未来を変えるんだ。

「……境井様、ありがとうございます」

ただ、まずは礼を。
俺は、ただの少し昔の記憶があるだけの男だけど、それでも家族のため──そして命を救ってくれた貴方のために、出来ることをしますから。

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bkm