- ナノ -

2話D
この野郎こいつマジお前ほんとこいつらほんといい加減にしろやぁ。
おっと、本音が口から洩れる所だった。危ない危ない。
いや、誰に怒っているかと言ったら勿論ダミュロンなわけなんですけれども。もちろんもう一人にもだったが。
いや、どちらもね。そりゃあ心に深い傷を負っているでしょうよ。死んで生き返って、どうしようもないと思いますよ。
でもね。そんな不快な気持ちにさせる笑みを浮かべて「お望みのままに」とか言われてぶち切れそうになりましたよ。

くそ、二人ともほんとどうにもならんな……!
そうしたいのはこっちだ馬鹿野郎。

だが、どうにか心を落ち着かせる。こうなってしまったのは全て己の所為だ。苛々してもぶつけちゃいけません。二人は心の傷に苦しんでいるんです。そして私がそれを更に広げたり治りつつある傷を抉ったり塩塗ったりします。

「その言葉、確かに聞いたぞ。そうすると決めた以上、私は意地でも君に働いてもらう」

と、そのあとに続く言葉が喉に詰まった。
詰まって、そのままその場を去ることを選んだ。
気のない笑みを浮かべる死人のような顔の彼に、自らの心臓が軋んだ気がした。
彼は――後にレイヴンとなる青年であるダミュロン・アトマイスは、自らを死んだと言い、その生を装置(カラクリ)のまやかしだと述べた。そして私はそれに全面から反論した――君は生きている。生きているのだと。
そして、それでも己(ダミュロン)の生を否定するのなら、別の生を生きてもらうと。装置を使い死なぬというのなら、それでも死んだというのなら、新たな名を与える。私に力を貸せと、帝国の未来の為に尽力せよと。
怒鳴った。
途中から何を言っているか分からなくなって、言い終わった後に、良かった、馬鹿なことを言っていない。予定通りだと安堵した。

私は彼に言った。私たちは死んでいないと、生きている者は死んだ者に対する義務を負っているのだと。
手に感覚がないことを感知し、それを見てみれば、酷く震えていた。心臓の――機械の脈動が聞こえる。ああ、そうだ、私も生きている。偽りの心臓で、息を、している。
義務がある。そう、生きている限り、私には義務がある。
やらなくてはならない、しなくてはならない。
死ねない。生きなければ。義務を果たさなければ。

「っ、ぁ、はぁ」

息がし辛い。ダミュロンに吐いた言葉がすべて自分へと返ってくる。こんなことをもう一人とも繰り返しているのだから不毛だ。
ダミュロンに言った最後の言葉には、続きがあった。
――“それが嫌なら、さっさとその装置を使う事だ”。
自分で彼の心臓魔導器の制御装置を渡したくせに、それを使えと言いきれなかった。

「死な、ないで、くれ」

駄目だ。
まだ、無理だ。
まだ、嘘でも死ねとは、言えない。
あの惨状は、中々人の心に傷を負わせるようで。

震える手で、心臓部分にある機械を辿る。
ああ、大丈夫だ。まだ、生きている。
大丈夫、生きて義務を果たして。そうすれば、彼らはきちんと生き返ってくれる。
私を裏切ってくれる。私は裏切られて、そうして。


いつの間にかその場に座り込んでいた身体を起こす。
本当に、ガラスのハートか、私の心臓は。ある意味機械だから、近からずとも遠からず?
息をゆっくりと吐いて、整える。考え込むと、足止めされることが多い。
テンションを上げていこう。何も考えないで行こう。しかし慎重に、しかし目論見通りに。
過ちを、繰り返さないために。

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