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求めていたもの
ホウ徳成り代わり于禁大好き主

生まれ変わりというのは、過去に生まれ変わることもあるとは知らなかった。
ちょっとした事故で死んでしまって、次の人生はスマホも車も、そもそも電気すらない時代でした。最初は驚いたが数年も経てば生きていくために無理矢理納得せざるを得なくなり、前世と性別が異なり男であった私は色々考えた末に兵士として生きていくことに決めた。
戦に出ないという選択肢もあったが、いざというときに武器が振るえる立場の方が何かとこの時代は都合が良い。なにせ命はそこらへんにいる虫と同じぐらいの価値しかないのだ。
元々身体が頑丈だったこともあり、猛将などと言われるぐらいには強くなることが出来た。若い内は雇ってくれる主君の下で色々働いたりもしたのだが、どうにも仕えていた方々の旗色が悪くなり、奮戦したものの負けたり逃げたりして、主君が次々と変わっていった。
そして最終的に、張魯殿の下にいた際に覇者といってもいいほど勢力を拡大していた曹操殿に降り、能力を買って貰えたのか将軍として働くことを許可して貰えた。
やはり上に立つ人は懐も深いのか。などと思いつつ、曹操という名は前世に聞いたことがあった。確か三国志という話で出てくる人物だったように思える。結構長いようだが、残念ながら劉備、関羽、曹操ぐらいしか知らない。詳しく知っていればもしかしたら生きやすかったのかなぁと思いつつ、知らないものは仕方が無い。
しかし、覚えている名前の主君の元へやって来られたのだから、このままずっと仕え続けたいと思っていた頃だった。あの人に出会ったのは。

「張魯軍からの降将とはお前の事か」
開口一番、それが真っ先に聞こえて驚いた。自分はかなり背が高く、二メートルほどはある。しかし彼も背が高かった。といっても、頭半分ほど私よりは低かったが。
鏃のように鋭い瞳、睨まれたら一般兵などひとたまりも無いだろう気迫。低い声は硬く、彼の性格を表わしているようだ。
拱手を行い、改めて彼を見やる。噂には聞き及んでいた。曹魏には優れた猛将、名将が多くいるが、そのうちの一人。自他共に厳格な姿勢に、仲間達にさえ恐れられる将軍。
「ホウ令明と申す。この命、曹魏に尽くす所存」
「口では好きなように語れる。行動で示すのだな」
見定めるような眼、威厳に溢れた姿。そう易々とは信頼が勝ち取れぬ空気に、胸が酷く苦しくなった。

――どうしよう。本当に困ったことに、滅茶苦茶好ましい。
人を寄せ付けないように雰囲気もたまらないし、厳しさの中にある曹操殿への忠義心も最高に萌える。将軍としての立ち振る舞い、思慮、そしてこちらを見つめるその瞳。
なるほど――私はもしかして、ここに至るために生きていたのかも知れない。

「私は于文則だ。規則に触れれば、厳罰に処する。心して励め」
「存じております。于禁殿、某はこの地で士の本分を全うすると誓おう」
私はここで腕を振るい、そして命を燃やすこと。それがきっとこの時代に生まれてきた意味なのだろう。
余生も少なくなってきたと感じられるこの頃にこうして意味と出会えるとは。人生とはなかなかに面白い。
出来るならば、全うするときは貴方の元で果てたいものだ!

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bkm