- ナノ -

私の名前は番轟三というらしいI
「よォ、おっさん」
「夕神検事……」
いや、しかし――こんなことがあるか?
満を持して復帰した職場。同僚たちも喜んでくれて、意気揚々と仕事に取り組もう、とした矢先。
検事の担当刑事になれというお達しが来て、相手が誰かも伝えられぬまま急げと送り出された。待たされていると言うことで、出たとこ勝負だとやってきた検事室で、あまりにも見知った姿の検事がいた。
「君が担当検事なのかい!?」
「あァ。なんだ不満か?」
「いや、不満なんてものはないが……」
純粋に驚いたというか。確かにまた、とは言われたけど、つまりこういうことだったのか? いやでもそんな話、今日まで聞いていなかったし。むむむ、と眉を寄せていればにやりと夕神さんが笑う。
「まァ、よろしく頼むぜ。カン」
「んあ!? あ、ああ。よ、よろしく、お願いするよ……」
「なんだ、元気がねェな?」
「え!? いやっ、そんなことはないぞ! 元気なのはジャスティスだからね!」
うわこれ、もしかしてちょいちょいあの名前で呼ばれるのだろうか。
嬉しいような、困るような。このノリの時にあの名前を言われると、なぜだかもの凄く調子が崩れてしまう。内側を見透かされているような、おかしな感じだ。
だからといって、自分からお願いしたのに撤回することも出来ず、短くなった髪をかき混ぜる。
「じゃあ早速現場だ。行くぜおっさん」
「ああ。分かったぞ夕神検事!」
「夕神でいいさ。カン」
「うっ!」
あ、そ、そうですか。分かりました夕神さんですね。いや、それはいいんですが。
「あ、あのだね、夕神くん」
「なんだ?」
「えーっと、その、名前なんだが」
口が回らずごにょごにょしていると、夕神さんからの視線を感じて変な汗が出てくる。
「そ、外で言われると。ちょっと困ってしまいそうだから、二人きりの時に、お願いしても良いかな」
今はまだ夕神さんしかいないからいいが、外でこの調子だと私が恥ずかしくて穴に埋まりたくなってしまう。こうやって頼むのも、正直滅茶苦茶恥ずかしいのだが。
顔を上げると、悪い顔をしている夕神さんが。うわ、凶悪顔なんですが。
「あんたがしっかり捜査してりゃあ外では呼ばねェさ」
「なッ、ジブンは完璧に捜査するぞ!」
「そうかい。期待してらァ」
うぐぐ。確かにやる気が過ぎて手落ちな部分が時々あったりすることもあるが……!
なんだか機嫌の良い夕神さんの後ろについて現場へと向かう。ちょっと心配だが……でも、楽しみだ。私はまたここに戻ってきた。ならばやることは一つ。人々のために尽力するのみ。
その相棒が、彼ならばとても心強い。

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bkm