- ナノ -

私の名前は番轟三というらしいD
「おい、成の字」
成の字ってなんだ。
夕神さんって時々面白い人の呼び方するよなぁ。などと思いつつ夕神さんの後ろから呼ばれた人を見やる。目に痛い真っ青なスーツを着た人物で、胸元に弁護士バッチを付けている。流石に何度も通ったので、どのバッチがどの職かは分かっているつもりだ。
ということは彼は弁護士なのだろうが――彼のことは流石に知っていた。何せニュースで何度も見ているので。恐怖のハッタリ男やら、伝説の男やら言われている凄いのか凄くないのかよく分からない人だった気がする。けれど基本的に裁判では無罪を勝ち取り続けているらしい。
「ああ、ユガミ検事……って、貴方は……」
あれ、私の事だろうか。驚いた顔をしている成の字――成歩堂さんに軽く会釈をする。
「初めまして、番轟三といいます」
「は、初めまして……えっと、彼はつまり」
「本物ってわけだ。ただし、記憶はねェがな」
「記憶がって……もしかして、記憶喪失ってことですか?」
おお話が早い。
「はい、そうなんです」
「それは、大変ですね。確かに、見た目もちょっと違うし、性格も……かなり……」
上から下まで見られつつ、神妙な顔で性格について口ごもられ、なんとも言えない気分になる。ま、まぁ確かに話に聞く番轟三さんはかなりこう、開口一番元気よく挨拶をするタイプみたいだし。
苦笑いを浮かべれば、夕神さんが取り次いでくれる。
「なんでも事務所に、確か霊媒師がいたよな」
「え? ああ、春美ちゃんのことかな? でも、あの子は事務所に手伝いに来てくれてるだけだから……。何かお困りですか?」
「俺じゃねェ。こいつが除霊できるやつ探してるんだとよ」
「は、はい。ちょっと、事情がありまして」
「はぁ……除霊ですか……」
成歩堂さんは悩むように顎をさすっている。しかし、本当に霊媒師がいるのか。あと、なんでも事務所ってなんだ? 弁護士事務所じゃないのかな。疑問に思いつつも回答を待っていると、成歩堂さんが一つ頷く。
「丁度今事務所に来ているので、話だけでも聞いて貰いますか?」
「え、いいんですか?」
「まぁ……困ってる人から頼られて嫌がる子じゃないと思いますし……。ただ、その子も修行中なので、本当に簡単な相談になるかと思いますけど、それでもいいですか?」
「はい、もちろん!」

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bkm