- ナノ -

私の名前は番轟三というらしいA
お医者さんは涙を流して喜んでくれた。これで記憶も戻ってくるだろうと、優しく肩を叩いてくれた。
私はそれを否定することなど出来ず、頬を引き攣らせながらどうにか『良かったです。ありがとうございます』と返事をした。これまで散々世話になった人に、身元が分かって嬉しくないなどと言えるだろうか。いや……流石に言えない。
この身体の人の名前は『番轟三』というらしかった。なかなか特徴的な名前だ。
そしてこの番さんは、警察官をしていたらしい。公務員じゃないか。しかし、なら直ぐにでも身元が判明しそうなものだが……実はこの人、なんというか、別の人が番轟三として過ごしていたらしい。
な、なんだそれ。と思ったが、話を聞いてみると別の犯罪者が番轟三として成り代わりっていたのだそうだ。番さん、滅茶苦茶犯罪に巻き込まれている。その成り代わりの課程で、本物であった番さんに怪我を負わせ山に放置したのだろうと教えてもらった。そう考えると目覚めた時に負っていた傷にも納得できるかもしれない。あれってもしかしてナイフとかで刺された傷だったのか……? しかしその犯罪者はかなり凶悪らしく、生きていたのが奇跡と言われた。奇跡て……。でも、お医者さんも山で目覚める前は仮死状態だったんじゃないかって言っていたし、そういった事情で生き延びたのだろうか。
「番、番轟三」
この人の名前。当然、私の名前とは全く異なる。
そもそも女だったので、こんなにカッコイイ名前ではない。
でも、名前が判明したので皆そう呼んでくる。元々の『カン』はお医者さん含め誰も呼ばなくなってしまった。
数日警察で話を聞かれ、やはり記憶喪失ということで処理された。成り代わっていた犯罪者が所持していた諸々がこちらに戻ってくるらしい。アパート、所持品、そして立場。
警察では、私の知り合いという警官の人も来てくれて無事を喜んでくれた。どんな顔して良いか分からなかった。番轟三という人は、とても陽気な人だったらしい。記憶がないと知って、その人が教えてくれた。
陽気で、喜怒哀楽が激しくて、仕事熱心で、正義のために燃える男。写真を見せて貰ったが、滅茶苦茶スーツが白かった。すげぇ、こんなの着る人居るんだ。でも似合っているのが凄い。
成り代わっていた犯罪者も裁判で裁かれて捕まったらしい。青空裁判だったというが、どういうことなのだろうか。
疑問に思って話を聞いてみると、先日爆破された法廷を使って裁判をしていたらしい。なんだそれ……そういえば昨日はテレビを見ていなかったけど、そんなことが巷では起こっていたのか。何が起こるか分からないなぁこの世界は。

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bkm