- ナノ -

重なりあう思惑B
あの副隊長に腹をぶっ刺されてから、下町の自分の家で目が覚めた。
助けてくれたのがデュークだというのには驚いたが、そこでの会話に更に驚愕した。

「アレクセイが、生きてる、だと……!?」
「ああ、私が生存させた」

アレクセイは確かに俺が斬って、その上巨大な魔核に押し潰されたはずだ。
だというのに、何故生きているのか。ギリギリのところで逃げ出したのか。それとも、目の前にいる男が助け出したのか。
絶対に死んでいるであろう状況だが、こいつが助けたというのなら納得できてしまう。それぐらいならこなしてしまうだろうという確信があった。

アレクセイを見た最後の姿が目に浮かぶ。
何もかも悟って、諦めたかのような表情に、自らを道化と嘲笑う姿。
アイツも世界を救う――正そうとはしていたのだろう。だが、結局は星喰みを世界に出現させる結果になった。
そうして魔核に押し潰された。レイヴンが最後まで助けようとしていた声も、印象に残っている。

「アイツは世界を制する力を手に入れようとし、間違って星喰みを出現させた。そう考えているな」
「違うのか!?」

存外に違う。と伝える言葉に頭がこんがらがる。
アレクセイが星喰みを出現させた原因は、そう考えなければ辻褄が合わない。
レイヴンの語っていた言葉からも、昔は正義に燃える男だというのがなんとなく分かった。そんな男が道を踏み間違える原因など、それぐらいしか考えられない。
真っ直ぐ過ぎた故の狂気。それが真実でなくて、なにが真実なのか。

だが――デュークに言われた言葉が引っかからないといえば、そうでもなかった。
呆気なさ過ぎたのだ。最後。全てが打ち砕かれ、自分の希望や理想、何もかもが無くなったアレクセイ。
だというのに、いさぎよ過ぎたのだ。まるで、その展開が見えていたかのように、見えた上での、死だったように。

「……詳しく説明しろ」
「フェローの歪で治療を施した。動いていなければそこにいるだろう」

デュークはそれだけ言うと、剣を持ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
詳しくといったのにまったく説明しない無愛想さにため息をついて、走って姿を探してみたが、一瞬のうちに消えてしまっていた。どんな芸当なんだか。

「アレクセイが、生きている」

そうして、星喰みを出現させた本当の理由。
アイツは悪人のはずだ。だからこそ、皆の制止を聞かずにザウデを起動させた。
何も知らなかったとはいえ、それは赦されることではないし、それまでに行ってきた所業も許されることはない。
だが――封印を解いた理由が俺たちが考えているものと違うなら。

「おっさんにも伝えねぇとな」


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bkm