- ナノ -

紅白餅
私は今の職場に感謝していた。何しろ、直属の先輩がとてもいい人なのだ。
ジャスティスが口癖の、正義に一直線の熱血漢。逞しい身体とケツ顎に似合わぬどこか抜けた所のある人で、しかし刑事という仕事を誠心誠意務めている。抜けてはいるが、仕事が出来ないわけではないので後輩である私が時々フォローを入れれば完璧だ。そう言う意味で、私たちはいいコンビであると言えた。
「しかし、君が警察を辞めてしまうとは。寂しくなるな……!」
「すみません、俺も先輩に一生ついて行きたかったんですが……」
「家庭の事情なら仕方があるまい! なに、活動する場所が違えども正義のために務めればいいのだよ!」
「くっ、先輩……!」
肩をバシバシ叩いて応援してくれる先輩に、涙がちょちょぎれそうになる。うう、なんていい先輩なんだ……!
先輩は、正義に拘る人で、後輩の世話も「これまた正義!」ととてもよく見てくれていた。一から色々なことを教えてくれたし、プライベートでも仲良くしてくれた。本当にいい人で、出来ることならこの人と離れたくなんかない!
「ううっ、先輩、寂しいです……」
「泣くんじゃない! 今生の別れというわけではないのだ。それに」
「それに?」
「君がそんな顔をしていたら、ジブンも悲しくなってしまうだろう!」
そう言って色つきのサングラスを持ち上げる先輩は、隠しているつもりだろうがその奥の瞳が潤んでいる。
うう、先輩……! 泣いてくれるんですが、俺のために……!
「番先輩〜〜〜!」
思わず抱きつけば、固い胸にぶち当たり、痛いぐらいの抱擁をしてくれる。先輩に抱きしめられながら、ずっとこうしていたいと心から思う。ああ、仕事なんて放っておいて、番刑事とずっと先輩後輩のコンビでいられたらいいのに! いや、もうそうしてしまおうか。仕事なんて綺麗さっぱり辞めてしまって!
「俺、新しい場所でも、頑張りますから……!」
涙を啜りながらそう言えば、番刑事は「ああ! 応援しているよ!」と力強く頷いてくれた。
ああ、そうだよな。こんなに先輩が応援してくれてるんだ。私も弱音なんて言っていないで頑張らなければ!
大丈夫。番刑事、私、新しい顔で、貴方の立場で、精一杯頑張りますからね!!

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bkm