- ナノ -

初めまして
「ジャスティース!!」
「うわっ!!」
「ば、番刑事!?」
「うむ! 初めましてだな! 王泥喜弁護士くん、希月弁護士くん!」

二本指を立てて敬礼を行えば、丸々と見開いた目で信じられないものを見るように見つめてくる二人に大きな笑い声を上げる。うん、ある種想像通りの反応だよ若人たちよ!
弱り切った身体をリハビリをして、鍛え直し、漸く刑事に返り咲いた。右腕は精巧な義手を大枚叩いて購入し、生身の腕のように動かすことが可能だ。この世界が変に近未来的で助かった。
そしてなんとか刑事として功績を上げたり、上に掛け合ったり、捜査官としての伝手を活用しまくり、無事に夕神刑事の担当刑事となることが出来たのだ。ちなみに捜査官としての役職は下りてしまった。元々が亡霊を捕まえる為だけになったようなものだし、担当刑事であり続けるためには不要なものだ。
そんなわけで、晴れて夕神検事が担当する事件の刑事としてやってきた現場で、初めて主人公たちに出会うことができたわけだ。いや〜〜〜〜〜感無量だ! 生きて彼らに会えるなんて! といって、希月弁護士は七年前の現場でチラリと見たことがあったりするのだが。それはまぁ、言わなくてもいいだろう。
「ほ、本物ですか……!?」
「ハッハッハ! ジブンが本物で無ければ誰が本物なのだね!」
ガッと拳を握れば、一歩下がる若人たち。うーん、これは亡霊のイメージが強いようだな! まぁ、そりゃあそうか。裁判所で突然変貌した刑事がそのまま目の前にいればな!
ということで、別人と理解して貰うために右手の手袋に手をかける。
「裁判では番轟三の指紋と一致する遺体が出たということだが、それは間違いなのだ。遺体、という部分がね。だが確かに、右腕はもうない」
「そ、それ、機械、ですか?」
「ああ。しかしこれもこれで、結構使い勝手がいいぞ!」
鉄で彩られた手を見て、王泥喜君が興味深そうに近寄ってくる。その後ろに隠れるように希月君が。
「触ってみるかい! このボタンを押せば腕が発射されるぞ!」
「ええ!?」
「ハッハッハ! 冗談だ!」
顔を引き攣らせる王泥喜君に笑い声を上げながら手袋を付け直す。
まぁ、これで本物だと分かって貰えればいいのだが。
後ろに隠れる希月くんに目線を向ける。ニカリと笑えば、そろりと出てきてくれた。
「あの、それ」
「うむ! なんだろうか」
「亡霊に、やられたんですか?」
――ああ、そうだよ! ちょっと、色々とね。ハッハッハ!
と、言おうとして、身体が動かないのに気付いた。
うーむ。これはいけない。この身体について、亡霊がらみであると知っているのは本当に極一部だ。夕神検事や御剣局長のように、亡霊の事件に関わった検事。そして今この場で理解したようである弁護士たち。他ごく少数。なので、それについて語ろうとする人々は少ない。正直、それで助かっていた。
他は治っているとは言っても、跡が残る程の拷問と、失われた右腕。
一応数ヶ月は経っているが、触れられたくない部分というモノはあるもので。
右腕の付け根が、ヒリヒリと痛み出す。
「ヒッ」
彼女の顔が恐怖に歪む。その大きな目に、自分の顔が映っていた。それは、全くの無表情でそこにいた。
あーこれは、よくない。早く笑わなければ――。

「おっさん」
と、そこに現れたのは担当検事――夕神検事だった。ああ、助かった。
直ぐに顔を逸らしてそちらを見る。何か言おうとして、同時に彼女の特技を思い出して口を閉じた。
「溜めンな。逆効果だぜ」
うーん、なんともまぁ、男前なことで。これで私より五歳も年下なのか。と思いつつ、一つため息を零した。
「……すまない」
そう、大丈夫。問題ない。
浅くなっていた息を何度か繰り返していれば、ゆっくりと肩に触れられた。
「番刑事」
いつもは呼ばない名前だ。つまり、無理はするなと窘められている。
情けないが、それに少し、頼るしかないようだった。
「……少し、痛みが……」
実際、少しどころではなかった。昨日徹夜をしたのが悪かったのか、それとも事件とは遠からぬ人物である希月弁護士に指摘されたのが悪かったのか。それともただ間が悪かったのか。なんだかとても腕が痛い。脳裏にかつて、腕が離れた時の記憶が蘇ってきて、正直立っているもの辛い。
「嬢ちゃん。カウンセリングイケるかい」
と、どうにか立っていれば聞き捨てならない言葉が聞こえた。
か、カウンセリングだって? というか、希月くんに? それは、なんというか、良くないのではないだろうか。今の脳裏、結構あれだと思うし。
どうにか大丈夫だと言おうと口を開こうとして、その前に鼓膜を叩く若い声。
「任せてください!」
い、いや、ちょ――。

「――具合はどうですか?」
「う、む。随分楽になった。感謝するぞ!」
私の想像とは異なり、希月くんはしっかりとカウンセリングをしてくれた。
対して私は、初めましての二人に恥ずかしいところを見せてしまって、正直落ち込んでいたりした。
あ〜ちゃんとした刑事だって思って欲しかったのになぁ!
「この醜態は働きで返すぞ! よし、捜査の続きだ!!」
「おい、病み上がりが無茶すんじゃねェよ」
「うぐ、それはそうかもしれないが。ジブンにもプライドというものがあるのだよ! しっかり調査して弁護士くんたちに情報を与えようではないか!」
「えっ、いいんですか?」
「ああ、カウンセリングのお礼なのだ!」
「勝手に裏取引してンじゃねェよ」
それはそれ、これはこれ! 結局裁判で共有することになるのだ。問題なかろう! それにこの二人だし!
「よし、いくぞ夕神検事!」
こんな醜態、二三ヶ月経てば克服している。今だけの我慢だ。
さぁ、元気いっぱいに今日も捜査して夕神検事、そして弁護士くんたちの為に励もうではないか!

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bkm