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ふわふわひらひらは正義
エンデヴァー成り代わり主、転生後話
滅茶苦茶色もの。
フリルとかスカートが好きな主が女装するか!ってなる話。


「何度見てもエンデヴァー」
毎朝顔を洗うために鏡を見る度に思う。本当に何度見てもエンデヴァー。もとい轟炎司。
前世で略称ヒロアカという漫画のキャラに成り代わったら、次の人生でも同じ容姿でした。こんなことってあるのね……。元々一般女性だったわけなので、来世は女でもいいなぁ〜久しぶりに化粧とかもガッツリしたいなぁ〜とか思ってたから期待外れとまでは言わないけどさすがに驚きましたね。
それはそうとして、今生では冷さんと出会うことも無かったのでこの年齢(45歳)まで独り身だった。全く寂しいとか無い。生まれ変わってからさすがに三度目なので、しっかり人生設計立てて二十代の内に稼いで三十になったら隠居して楽に生きる。と決めていたので、その設計通りに生きてきた。無事に今は二十代の内に築いた資産を運用することで生きていけている。あ〜二十代の内に死に物狂いになって働いてよかった〜〜〜!
そんなわけでなんかよく分からんほど高いビルで地上を見下ろすというTHE金持ちみたいな生活をしてるわけですが、外に出る機会なんてジムぐらいしかないので――身体は資本なので一応前世ぐらいは鍛えてる。鍛えてた方が舐められんし――基本的には家では上下スウェットなわけだが、今日は面倒な資産運用に当たっての取引先との会食があるので滅茶苦茶仕方なくスーツである。面倒すぎる。ウェブ会議でいいだろう時代と逆行するな。

「いやクソ面倒だったな……」
マジ金持ちになると厄介な性癖しか持たないのか? ケツ触ってこようとすんな手首複雑骨折させられたいのか? 本当に意味の無い会食だった……。
クソ高いビルのクソ高そうな食事とシャンパンを嗜みながら話してきたのだが、必要な話は最初の五分で終わった。その後はキャバクラだった。私がスタッフ、相手が客。二度と行かん。
自分のご機嫌を取るために、コンビニでアイスと脂っこい揚げ物を買おうと自動ドアの前に立つ。左右に開いた先で、店員がこちらを見てぎょっとしたのをちょっと申し訳ない気分でスルーして、そのままアイスコーナーへと足を進めた。まぁ突然スリーピースの身長ほぼ二メートルほどの強面おっさんが入ってきたら吃驚するよね。大丈夫無害な怖くないおじさんだよ。
そのままアイスコーナーでハーゲンダッツにするかガリガリ君にするか迷っていたところで、後ろから腕を叩かれた。え、何? 警察は勘弁して欲しいんですけど……。
「……ホークス?」
「やっぱり、エンデヴァーさんや……!」
そこにいたのは元同業者であり、前世で既婚者の自分に絶えずアピールをしてきた若い青年がいた。
ってお前も前世の記憶あるんかーい。

「え、じゃあエンデヴァーさんもここら辺に住んでるんですか!?」
「ああ、あそこだ」
「うわ超高層ビル……」
とりあえずアイス売り場の前で長話もあれだったので、コンビニ内に併設されたカフェみたいな空間で話すことになった。家で食べるのではないのとスーツを着たままなので、アイスはハーゲンダッツにした。うーん、変わらぬおいしさ。私はバニラが好きです。
小さいスプーンを駆使して食べていれば、見上げた先の我が家兼ビルから視線を戻したホークスが真剣な目でこちらを見つめた。と思ったらちょっと破顔した。どうした。
「どうかしたのか」
「いや、エンデヴァーさんが食べてるとアイスも小さいですね」
「そうだな」
「もう一つ買いましょうか?」
「まぁ、そうだな。帰るときに自分で買う」
さすがに二十以上もしたの青年に集る神経はしていない。今生も有り難いことに生きるのに苦労しているわけではないし。そう言うとホークスはクスリと笑ってから、私に告げた。
「エンデヴァーさん。好きです」
うわ、ちょ、アイス零れるだろやめてください。
さすがに動揺してスプーンを落としそうになった。どうにか歯で捕まえて、お高いスーツを汚すことはなかったが、このタイミングでそういうこというか普通。訝しげに見てやれば、真剣な瞳がこちらを射貫く。うわ、本気の目してる……。そう、前世でもホークスは既婚者だというのに死ぬまでアピールをしてきていた。何がどう魅力だったのか分からないが……いや、前世はちゃんとエンデヴァーを演じていたから、そこに惚れたのかも知れないが……にしてもそれが今生まで続いていたとは。さすがに困る。
「……お前、年齢は」
「二十二です」
「まだ学生だろう」
「高校卒業してから会社立ち上げたんで、立派な社会人ですよ。前世ほどじゃないですけど貯蓄はあります」
いや出来る男過ぎる。
「エンデヴァーさん。今生だと結婚してないですよね。個性がないのに指輪してないですし」
「……鋭い奴だな。そうだな、結婚はしていない。妻とも出会わなかったしな」
「そうですか。ならフリーですね」
「俺は生涯独り身の予定だ」
「俺も、貴方に出会うまではその予定でした」
つ、つよ……。メンタル鋼か? 前世だと既婚者で全部さくっとスルーしてたから既婚者ステータスがなくなった今どうやってスルーしていいか分からん。将来有望、容貌中身ともにイケメンなホークスは、一般からみたら最高な相手なのだろうが、いかんせん私はおじさんだし、中身は三度目人生の老人だし、ホークスが想像している中身じゃ無いのも相まって普通に遠慮したい。付き合って幻滅されるのは人生三度目でもキツいんですわ。ごめんなホークス。
しかし正直に言える内容でもないし、だからといって嘘をつくのも後々整合性を図らないといけないので面倒だ。とすると、言える内容で嘘では無いものを選んで、ホークスが自ら私を諦められるような情報を言えば万事解決なのでは? そうすれば毎度スルーするための話を考えなくて済むし。
しかし、言える内容で嘘では無い、とはどういうものがいいのだろうか。うーん、家ではいつも上下スウェットですとか? いやなんかインパクトに欠けるな。インパクトが強くてホークスがエンデヴァーへの恋心をなくしそうなもの……。あ。
「話は変わるが」
「え!? 変えちゃうんですか!?」
「まぁ聞け。俺はこの人生になってから、新しい趣味を見つけた」
「そ、そうですか。それは良かったですけど……」
「女装だ」
「……?」
ホークスは聞き取れなかったのか小さく首を傾げた。二十二の男でその動作が許されるの凄いよな、と思いつつ再度言ってやる。
「女装だ」
「助走……スポーツですか?」
「そちらの助走ではない。女性の服を着る方だ」
「……?」
また首を傾げる。いや今度は聞こえただろ。
「可愛らしい服を着るのが楽しくてな」
「かわいらしいふく……」
「ああ、フリルとか」
「ふりる」
「スカートが好きだな」
「すかーと」
フリルとかスカートとか、やっぱり憧れるよなぁ。元々、ちょっとメルヘンなものも好きだったので、そういう服も憧れなのだ。一度目は照れて着れなくて、二度目は論外だった。まぁ購入してないし着てもいないので嘘と言えば嘘なのだが、これから集めれば嘘じゃ無くなるし。
そもそも、外見とか気にして買っていなかったけど、外に滅多に出ないのだからそれもそれでいい。家の中で楽しめばいいわけだし。サイズは特注すればいいだろう。正直着衣したあとの姿を鏡で見る勇気は無いので着るだけ着ることになるだろうけど。そういう楽しみ方もありだろう。
と、そう考えながらアイスを食べていればいつの間にか空になっていた。ふむ、良い頃合いだろう。
「そういうわけだ」
どういうわけなのかは聞くなよ。
アイスの空箱をゴミ箱に捨てて、そのままコンビニを出ようとする。ホークスは衝撃が大きすぎて動けないようなので、そのまま置いていくことにする。一応、好きだった相手の趣味が女装だったのだ。傷を癒やす時間をくれてやった方がいい。そういう配慮という言い訳で逃げようとしていたのだが、後ろから腕をガシリと捕まれる。
「こ、この目で見るまでは信じられません……!」
いやホークス……自ら死地に飛び込むのかお前……。
血走った目で腕を掴んでくるホークスを振り払うことは難しそうだったので、仕方なく後日家に招待というなのお披露目会が開催されることになった。自分でも見たこと無いのに他人に見せるとかなかなかハードルクソ高いが、まぁ諦めさせるためと思えば我慢も出来る。

「うーむ、何を買うか……」
会社の社長をしているホークスの予定もなかなか詰まっているらしいのと、私も発注しなければならないので、お披露目会は一ヶ月後となった。それまでに届けてくれる企業を探さなければならない。
サイトを眺めていれば、特大サイズを扱っている可愛らしい店舗があった。フリルにスカートだ。可愛い。
「よし、これにしよう」
ルンルンで購入ボタンを押す。いやーーー楽しみだな!!

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bkm