- ナノ -

可愛い幼なじみ
・炎司にょた
・個性のない世界
・冷成り代わり主は普通の少女

私の幼なじみは、もの凄く可愛い。
髪型は短髪で、正直男子より短いんじゃないかっていうほどだ。サッカー選手みたいに髪の毛をツンツンとさせていて、ちょっとやそっとの刺激ではへこたれない毛根を持っている。身長は中学生にしては高くて、私よりも十センチも身長が高い。しかも合う度に身長が高くなっている気がして、隣を歩いているとどんどん目線が上がっていくのを感じる。それから、筋肉が男子に負けないぐらいにある。力こぶなんてもの凄く硬くて、私は良く触らせてもらってだんだん大きく更に固くなっていくそれを楽しませて貰っている。手も大きくて、柔道をしているからなのか元からなのか――幼なじみの私からすると、たぶんどちらもだ――節くれ立った逞しい手のひら。
彼女は女子に結構人気だ。あと、男子からも、ほどほどに人気だ。
みんな私の幼なじみを、カッコイイという。キリッとしてるし、困ってたら助けてくれるし、運動もできてイケメンだって。
男子も尊敬とか、羨望みたいな目であの子を見る。一緒に学校に行っているので彼女の靴箱にラブレターが入っているのを何回も見たことがある。差出人は女子だったり男子だったり。まぁ、モテるわけだ。強請って見せて貰ったラブレターには「カッコイイ姿に好きになりました」とほぼいつも書いてある。
けど、みんな分かってない。私の幼なじみは、滅茶苦茶可愛いのだ。

ツンツンとした髪の毛は、お風呂上がりはお湯に屈してちょっとへにゃってて、おでこにかかっていてちょっと顔が幼くなって可愛いし、私が身長差に首をあげていると、気を遣ってちょっと腰を屈めてくれて、屈みすぎてちょっと見上げるようになっていて可愛い。凄い筋肉に喜んで触っていたら、くすぐったかったのか身をよじって顔を赤くしながらやめろって注意してくるのも可愛いし、逞しい手も小さな爪が可愛くて、肌は触るとすべすべとしていて気持ちが良い。そして、彼女は中学生とは思えないほど立派な胸を持っている。彼女は筋肉だと言い張るけど、そりゃあ無理な説明だ。あんなにもっちりふわふわとしている筋肉なんて絶対にない。
確かに私の幼なじみはカッコイイ要素もたくさんあると思う。けど、それよりなにより、とても可愛いのだ。

「全く、みんなえんちゃんの可愛いところ、何も分かってないよ」
「可愛い? はぁ、そういうのはお前ぐらいだ」
「なんで? こんなに可愛いのに!」

自室で隣に座っている彼女の顔をまじまじと見やる。つり目だけど、睫毛に縁取られて綺麗な目元にある瞳が私を上から見下ろしている。
じーっと見つめていると、数秒後にぷいと逸らされる。ほら、可愛い。

「ねぇねぇ」
「なんだ」
「抱きついていーい?」

驚いたようにこちらに視線を戻した彼女に、期待の籠もった目で見つめれば、少しして長いため息をはかれた。

「好きにしろ」
「やった!」

ギリギリ触れるか触れないか程度の距離を飛びつくように縮めて、彼女の胸に顔を埋める。
もちもちとした感触に、日頃のストレスや考え事が全て吹っ飛ぶような感覚が脳内を埋め尽くして、感嘆の息が出た。
チラリ、と伺うように彼女を見てみれば複雑そうな顔で私を見下ろしていた。
ほら、ちょっとむくれちゃってアヒル口になってる。こんなに可愛いのに、みんなは何を見ているんだろう。
手を伸ばして、その唇をつまめば「ふぉい」とちょっと戸惑った声。
可愛い。可愛いけど、でもみんなが可愛いと思っていなくても、いいかもしれない。そうしたら可愛いえんちゃんは私が独り占めしていることになるから。

prev next
bkm