- ナノ -

来世の彼氏
「エンデヴァーはいつになったらホークスの告白を受けるんですか?」

マイクを突き出されつつ問われた内容に、『別に家族仲の悪くない妻子のある46歳男性に尋ねることじゃないよなぁ』と眉間に皺を寄せながら思った。
事の発端は一年ほど前にホークスが放った一言だった。

『俺、エンデヴァーさんのこと好きなんですよね』

その時はヒーローとしてか? と思い、そうか。とだけしか答えなかったのだが、それがいけなかったのかなんだったのか、その後ホークスからの猛アピールが始まった。
花束やプレゼント、公衆の面前で恥ずかしげも無くラブコールをする姿はあまりにも異常に見え、ホークス事務所のSK達と協力し、無理矢理病院に押し込んで個性事故に遭っていないかを診察してもらったこともある。
が、結果は正常。しかしあちらのSKたちは「やっぱりか〜」などと困った風に呟いており、本気で個性事故だと思っていたのは俺だけのようだった。
そうなるとホークスの甘ったるい愛の告白は当然本心からの物……ということになってしまう。どうにかそうなのだと理解してからはひたすらに告白を断るイベントが続いた。

別の話になってしまうが、俺――いや、私は前世を覚えている。それは普通の一般女性として暮らしていたもので、娯楽として読んでいた漫画の中に『僕のヒーローアカデミア』というものがあった。
それは公務職として『ヒーロー』が存在し、世界の大半の人々が『個性』と呼ばれる異能力を持つ世界が舞台となり主人公がヒーローになる道筋を描いていくものだったのだが、今私が過ごしている世界はそのまま『僕のヒーローアカデミア』の世界だった。
つまり、世界の流れを先んじて知っているという反則的な技があったために、漫画でおこったであろう悲劇を先回りして回避などをさせていた。人々の運命を勝手に変えるのはどうなのか、と悩んだ時期もあったが知っているのに何もしないなどできず行動に移した。
それが結果的に正解だったのかは分からないが、原作で起こっていたような大騒動は起こらず、比較的平和な日本となっていると思っている。
――と、長々と語ってしまったが、それは私自身『エンデヴァー』自身にも言えることなのだ。
原作ではエンデヴァーこと轟炎司の家庭内は悲惨で『地獄』などと形容されることもあった。で、私が生まれ変わったのが何の因果かその轟炎司だったのだ。色々と思うところもあったがそれは置いておくとして、原作でのままならなさを知っているために、俺は努力した――主に家庭を守る方面で。
その甲斐あって、妻との仲は悪くはないし(結婚記念日には休みを取って旅行に行っている)、子供たちとの関係もこじれていない(父の日にプレゼントをもらえる程度にはこじれていない)。

つまり、何が言いたいかというと、どうして俺なんだホークス。ということだ。
幾ら断っても断っても笑顔で告白してくる若者に、正直こちらはどう対処していいか頭を悩ませっぱなしだ。若者特有の軽い好意の表現かと思えば、隙をついて抱きついてきたりとスキンシップを狙ってきたり。
そしてそれを公衆の面前でやるからか、お約束のように聞かれるこの質問。
メディアにとってはNo.1ヒーローにNo.2ヒーローが愛の告白。しかもどちらも同性。片や四十代で妻子持ち。片や人気絶頂中のイケメン。それは質問の一つでもしたくなるだろう。
だが、毎度毎度これを聞かれる身にもなってほしい。
一つため息をついて、口を開く。今までは『あり得ない』『馬鹿らしい』などと突っぱねてきた。だが、ふと一つの考えが思い浮かんだ。そしてそれがなんだか名案に思え、はっきりと口に出した。

「来世なら考えてやらんこともない」

つまり、諦めろということだ。
苦笑いを零したレポーターを見ながら、これを聞けば懲りるだろうと腕を組んだ。

――数日後、レポーターに向かって『どうも〜〜! No.1ヒーロー、エンデヴァーさんの来世の彼氏です!!!』と宣言するホークスをテレビ越しに見て、持っていた箸を落とすことになるとは思いもしなかった。

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bkm