- ナノ -

おや?部下の様子が……?A
ダミュロン君ヤンデレルート
人魔戦争の後



「だん、ちょう……?」
「……生き返ったか、ダミュロン」

ベットの上、枯れた声色で私の示す名を呟く若き青年。
きっと現状を分かっていないのだろう。虚ろな目は現を映しておらず、いまだ黄泉の中にいるのだろう。
彼は、これからどれほどの苦しみを背負うのだろう。今このときの、何も理解していないこの一時が、彼にとっての最後の平穏のときだろう。
絶望し、死にたがり、彼が解放されるのは10年後。それまで、彼はきっと抜け殻として道具に成り下がり生き続ける。

「団長、これは、俺は、どうして――」
「私が、蘇らせたのだ」

不安げに揺れる瞳が現実を否定しているのが分かる。
それを目を背けながらも、用意していた制御装置を拳に握る。
これで一応は彼の命は彼自身に託されたというわけだ。意味のないことだろうが。

「団長……」
「……すまなかった」

きっと何に対して謝罪しているのか分からないだろう。
しかし、今このとき謝っているのは、目の前にいるダミュロンにだけだ。
人魔戦争では、結局皆が命を失った。必死で戦った、生きろと命令した。最善は尽くした。
それでも意味はなかった。ただ死者を増やしただけだった。
きっと彼も生きたがらないのだろう。結果が分かった上での行為は辛いが、それでも未来があるのなら話は別だ。

「ダミュロン、生きろ」
「俺、は――」

呆然とした声で呟く言葉に、耳を塞ぎたい。きっと、この次に吐き出される言葉は――

彼は突然に顔を上げた。絶望にぬれているはずのその表情は、その頭に巻かれている包帯とは対照的に、強く、輝かしく、そしてどこまでも嬉しそうに綻んでいた――って、え?

「俺は、貴方がいればいいです」

そう言い切った彼の言葉の意味がすぐには理解できなかった。


「……!? い、いいのか、それで! わ、私は己の都合だけで君を――!」
「だって、それは団長が俺を必要としてくれたからでしょう? 俺だけ生き返るのは不平等だけど、それでも俺は団長の傍にいられて、嬉しいです」
「え、え? (分からない! どうなってるんだこれは!?)」


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bkm