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ホークス成り代わり2
共同で行う任務のために出会った紅白饅頭を想わせる髪色をしている焦凍君。学生自体に比べて身体もしっかりしてお父さんに似てきたように思える。そうはいっても焦凍君はどちらかというと細マッチョでありエンデヴァーのように筋骨隆々という風ではない。そして顔の美しさに相まって女性人気がとても高い。確か前にテレビで彼氏にしたいヒーローNo.2になっていた気がする。

「今日はよろしくお願いします」
「うん。よろしく。活躍はこっちにも聞こえてるよ、頑張ってるね〜」
「はぁ……ありがとうございます」

どこか訝しげな表情でお礼を言ってくる焦凍君にからかってると思われてるかなと内心頬をかく。素直に頑張ってる、偉い。と思っているけれどそうも言っていられないキャラなので軽い口調になってしまう。ヒーロー活動では好ましいこの態度もこうした時は残念に思う。本気なのにな。
そうはいっても慣れているのでニコニコと笑みを返しておく。

「でも息子がこんな立派になってくれてエンデヴァーさんも嬉しいんじゃないの?」
「別に……。変わらないです」
「へぇ、そうなんだ」

変わらない。という焦凍君の顔は嘘を言っているようには見えない。以前の食事の席で彼の父から相談されたこともあったのでうまくいっているようで良かった。
焦凍君は息子だからと特別視されるのを嫌う。家庭で色々あったから仕方がない。エンデヴァー事務所に入ることに決まった後、食事の時に相談された時の深く眉間に皺が寄っていたあの人を思い出して一安心する。

「そういえば、前にニュース見ました」
「ニュース?」

どのニュースだろう。私に話を振ると言うことは私をニュースで見たと言うことだろうか。直近だと電柱に上っちゃって降りられなくなった猫を助けたのがお昼のニュース番組で放映されてたけど。
目で続きを促せば焦凍君は口を開く。

「親父とチームアップしてたときのです」
「ああ。先月の。結構大物取りだったやつだ」
「はい」

私がエンデヴァーに顔を焼かれかけた時のニュースだ。あれから彼と会ってはいないが結局私は素――というか気にせずに彼と接していいのか悩むところだ。以前の『ヘラ鳥』の方が彼もやりやすいのではなかろうか。そんなことをなんとなしに考えていれば、わずかに口ごもったそぶりを焦凍君が見せる。
何か言いにくいことでもあるのだろうかと首をひねればしかし問いを向けられた。

「ホークスは親父のことが好きなんですか?」
「好き?」
「はい」

好き。とは。若い子は直接的な表現を使うなぁ。
一応私も現状の身体年齢の年は若いので、SNSや若い人との会話で流行をくみ取ることができてはいると思うが、やはり地域の違いや身内感での言葉の使い方とかもあるからなぁ。そうはいっても動揺などはせずに、自然に言葉を返す。

「うん、(尊敬的な意味で)好きだよ」
「やっぱり(恋愛的な意味で)好きなんですね」

……ん? なんだろう、何か違和感が。
どこか真剣な瞳をしている焦凍君にそんな重い話題だったかと内心頭をひねる。彼に取っては複雑な感情を持つ父に対しての言葉だからだろうか。
いや、しかしなにか……と思考を巡らせていれば焦凍君が言葉を続ける。

「あいつ、あんなやつですけど……ホークスならうまくやってける気がします」
「それは……ありがとう?」

ニュースの話題からだし、チームアップのことだろうけれど、改めてそう言われると嬉しい。違和感はありつつもお礼を言えば、左右で色の違う瞳にじっと見つめられる。なんだろうか。

「ホークスは、親父のどこが好きになったんですか」
「ええ……そうだなぁ」

言ってしまうと、あげればきりがない。努力家なところ、上を目指し続けるところ、不器用なところ、過去を償おうとしているところ、決して逃げ出さないところ、頼もしいところ、けれど同時に心配になるところ。支えたいと強く想うところ。私の素をみたいと思ってくれたところ。いいところはきりがないし、客観的に欠点だと思われるところも結局は老婆心でえぐぼになってしまう。
腕を組んで悩み、一つの答えを出す。

「全部かな」
「……」
「あはは、すごい顔」

言葉通り、すごい顔になっていた焦凍君に思わず乾いた笑いが出る。一般的な家庭でも自分の父のことを全て好ましい。と答える同僚がいたら信じられない顔になったりもするだろう。焦凍君だから尚更だ。
場を軽くしようと「ほら、恋は盲目っていうし」とヘラヘラと冗談を飛ばせば、焦凍君は深く思い悩んだ顔をして「そういうもんですか……」と難しい顔で言った。
そうそう、そういうものそういうもの。と丸め込んで、今日の仕事についての話を始める。
お互いに仕事モードに切り替えて、先ほどまでの話は流れていった。


仕事もうまくいき、焦凍君と最後に挨拶を交わす。
反省点や改善点なんかも軽く話し、お父さんによろしく。と言って分かれようとすれば手を引かれる。
なんだと振り返ってみれば、真面目な顔をした焦凍君がそこにいた。

「親父のことなんですけど」
「エンデヴァーさん?」

なんだろう、何か伝言だろうかと仕事モードで顔を合わせれば真剣な口調で語られる。

「母さんと離婚してもう二年経ちますし、俺はいい頃合いなんじゃないかって思います。ホークスが遠慮してるなら、気にしなくて大丈夫です」

焦凍君のご両親――エンデヴァーと奥さんは二年前に離婚した。それは知っている。知っているが、『いい頃合い』ってどういうことだろう。
なんだか変な雰囲気に仕事用の顔が若干歪む。遠慮って、私は遠慮しているつもりはないけれど。いや、違う。一体焦凍君は何のことを言っているのか。
しかし理解が追いつく前に焦凍くんは告げる。

「親父のこと、よろしくお願いします」

そして、頭を下げた。
………なるほど。これは。
気づくのが遅かった、らしい。しかし、なぜそう至ったかが不明すぎて気づいた今でも信じられない気持ちだ。色々と聞きたいことはあるが、その前に。
そっと焦凍君の肩に手をおいて、それにきづいてこちらを見上げた彼に笑みを浮かべながら断言する。

「勘違いです」


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