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ホークス成り代わり
ホークス成り代わり、色々平和になった後。NO2やってる世界線。
原作は知らないけど、前世では長生きして寿命で死んだ人。なのでかなり達観しているし、周囲を全て年下だと思っている。
できるだけ苦しんでいる子は救いたいし、自分の力でやれることはやるような質。公安での仕事も、第二の人生なんて僥倖を得られたのだから頑張って平和に尽力しようとする人たちに協力してあげよう。という感覚。


「エンデヴァーさんお久しぶりです。今日もよろしくお願いしますね」
「ああ」

数年前の大きな戦いから多少の騒ぎはあったものの、比較的穏やかな日々が続いている。それでも犯罪は起こるもので、今日は前々から打ち合わせをしていたエンデヴァー事務所とチームアップだった。彼の管轄である地域での犯罪組織の一斉摘発だ。準備や段取りはすでに互いの事務所、サイドキックやヒーロー同士で打ち合わせが済んでおりあとはタイミングを計るだけだ。

「そうだ、せっかくだし今日の仕事が終わったら食事でも一緒にどうですか。みんなで打ち上げでもいいですし」
「まだ始まってもいないだろうが」
「そうなんですけどね、せっかくエンデヴァーさんと会えたんで」

ヒーロースーツに身を包み、炎を上げているエンデヴァーの瞳がこちらを向く。それににこりと笑みを返した。
No.1ヒーローとして君臨する彼は、今年で五十を超えた。しかし衰える様子は一切なく、寧ろその技術は更に磨かれており多くのヒーローが彼を目標にして邁進している。一応私もNo.2ヒーローとしての地位を守り続けてはいるもののその気力は本当に尊敬に値する。その執念が原因で色々と家族とこじれたこともあったようだが、今はそれらも落ち着いたと風の噂で聞いた。他人のことながらほっとしたのを覚えている。

「ふん、ヘラヘラとしおって」
「今更なんです? 通常運転じゃないですか」
「真面目な顔はできんのか」
「真面目って」

どうやらこの顔が気に障ったらしい。彼に会うと年甲斐もなく嬉しくなり笑みが増えるのだが、彼に取ってはヘラヘラしていると受け取られているらしい。
作戦が始まれば引き締まる――というより無になるだろうから、それまで待っていてほしいのだがそうもいかないだろう。何せ彼の前だと私はこの顔だ。私は他のヒーローと同じように彼を尊敬している。実を言えば、この人生は二度目の人生なのだ。この記憶が偽りなどでなければ、の話ではあるのだが。
だからこそ、彼のように目標に向かい挑み続ける姿や不器用にがむしゃらに進むような人物を見るとどうしても輝いて見えるし、応援したくなってしまう。
誤魔化すためにそう言われてもですねぇ、と顎に手を置いていればエンデヴァーは思ってもみないことを言ってきた。

「俺以外の前ではもう少しましな顔をしているだろう」
「……ありゃ、ばれてたんですか」
「貴様とももう短くない付き合いだ。わからいでか」

確かに初対面の時からは数年は経っているが。本人にばれるほどわかりやすかったか、と顎をさする。
隠すことでもなし、素直に言うかと口を開く。

「エンデヴァーさんのこと尊敬してるんで、近くにいると嬉しくなって笑っちゃうんですよねぇ」
「……」
「無言はやめてくださいよ」

無言で、しかも火力を大きくした彼に眉を下げた。スパイ活動からも身をひいたし別に嘘をつく必要がなくなったからいいか。と軽い気持ちで言ったのだがあまりこういうのは好かないのだろうか。同僚から尊敬されるというのはこの業界では良くあることだと思うのだが。
少しすると彼は火力を元に戻した。見えた眉間には前より深い皺が刻まれている。

「お前の言葉は嘘か誠か判断がつきにくい」
「俺、尊敬してる人に嘘はつきたくないんで、よほどの事情がない限り大体本当だと思いますよ」
「……なぜ今になってそんなことをペラペラと」

エンデヴァーが理解しがたい。という口調で聞いてくる。寧ろ今だからこそ言えることなのだが。以前はスパイ活動があったからそもそも言えるはずもなし。このタイミング、そして彼が私の顔の話題を出してきたから言ったのだが。
しかし、彼は未だに人の厚意に対してうまい反応の返し方を悩んでいるように思う。年を取ると、今まで行ってこなかったことをするというのはどんどん難しくなっていくものだ。といっても彼はファンサービスなどは以前に比べればよく行うようになっているので、ヒーローから、いや、私からこういうことを言われるのになれていない。ということなのだろうか。

「聞かれたからですね。いやならもう言いませんよ」
「……お前は言いたいのか」
「俺ですか?」

意外な問いが帰ってきて面食らう。あしらわれると思っていたから驚きだ。
しかし、言いたいかどうかと聞かれると。

「どうでしょう。仕事上、ずっとできるだけ誰にも言わずに来ましたし。でも、そうですね、貴方が喜んでくれるならいくらでも」

褒められて喜ぶ子なら、いくらでも褒めて伸ばしてあげたいし。かわいがられるのが好きな子ならいくらでも猫かわいがりをしてやりたい。前世の影響か周囲全ての人々が自分より年下に見える癖がついてしまっていて、誰に対してもこんな感情を抱く。それは彼に対しても同様で、背中をなでて労ってやりたい気持ちをいつでも持っている。
そうは言っても身体年齢は二十代だ。若造にそんなことをされて喜ぶ相手も少ないだろう。だからこそ相手が望む形で支えてやりたいと思う。

「その目」
「目?」
「……お前がよく他の者たちに向ける目だ」

目、といっても、何を指すのか。わからなければ良かったが、指摘されて気づいてしまった。
活動をしやすいように、人と関わりやすいようにと人によって対応を変えることがある。それを私は基本的に常に行っている。サイドキックには多少威厳がでるように、一般市民には親しみが感じられるように、そしてそこには必ず「年下を見る目」が入っている。だが鋭い人にしか分からないであろうその慢心とも言える思い。そしてそれを私は彼の前では出さないようにしていた。慎重に行動した結果とも言える。本心ではそう思っていたとしても見た目は違うし、相手が感じることも異なる。私は年下であり、エンデヴァーは二回りも上なのだ。できるだけ無礼のないようにそういった慢心は映さないようにしていたつもりだったのだが。
この人は意外と鋭いのだ。それがどうして今だったのかは分からないが、以外と以前から気になっていたのかも知れない。
あげていたゴーグルを目元に下げて、申し訳なさそうに笑ってみせる。

「すみません、癖みたいなもんで」
「それが」

ふ、と彼の炎が小さくなる。こちらを映した瞳は空と同じ色をしていた。

「それが本当のお前か?」
「……嘘をついていたわけじゃありませんよ」
「だが取り繕っていたのだろう」
「そういうわけじゃあ」

そういうわけでは、ないとは言い切れない。射貫く空の瞳に嘘はつけないと一つ息をついた。

「努力と言ってください。嫌でしょう、年下の若造のこんな顔」

こんな顔、といいつつも自分ではどんな顔をしているかは分からない。ただ、前に地元の子供に言われたのは『おじいちゃんみたいな顔』だ。前世でありがたいことに百年以上生きていで、妙に納得してしまった思い出だ。
そうはいっても見抜かれた上で隠す気にもなれず、彼を見上げる。努力が人間の形をしているような人。その肩をどれほど労りたかったか彼は知らないだろう。抱きしめて頑張っているねと声をかけたかったのを知らないだろう。今だって作戦は私一人でやるから休んできなさい、このところ休みはとったかい。と聞きたい気持ちさえあるのだから。

「いつもの顔よりはましだ」
「……そういうとこですよ」
「おい、戻すな」

ハハハと笑えばギリリと彼がにらんでくる。彼の気遣いなのか、本心なのか分からないが、どうしたものか。
彼を尊敬しているのだ。相手を気にする爺心は相手への想いに比例する。だからあまり崩してしまうと――まぁ、いいか。

「エンデヴァーさんは、優しい子やね」

心と共に弛緩した顔で言えば、風に吹かれたように彼の炎が消え去った。
それにどうしたのかと聞こうとすれば、ガッと顔を捕まれて個性を使ってもいないのに足が宙に浮く。おや、これは……。

「……照れるならやめますけど」
「照れてなどいない!」
「いや、照れ……」
「うるさいぞ!」

うーん、これはなんというか。分かっていたけど手のかかる。
けど、そういうところもえくぼと感じてしまうのが爺心というやつで。思わず捕まれている手の中でクスリと笑えば、一気に温度をあげた手のひらに悲鳴をあげることとなったのだった。

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bkm