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花火の明かり9
書置き通りアパートに帰れたかというと、まぁ、帰れなかった。
私の問いは当然却下され、事情聴取され――る前に応急手当をされた。私を拘束した布に背中からの血が浮かび上がっていたらしい。
そして保護者を呼ぶように言われた。だが、呼べるわけがない。悟られないために書置きをして出てきたのに。しかし、警察まで現れては言い訳もできない。おとなしく八木さんに連絡を取った私は――八木さんへ私から電話をすることが滅多にないので、嬉しそうに電話に出てくれた――事のあらましを伝え、初めて八木さんの怒りの声を聴いた。
これは……やばいな。と本能で察した。「家に帰ったら、覚えておくんだよ」といういつもなら聞かない超低音の声色に、ちょっとヒーローと警察官の前で泣きそうになってしまった。いきなり落ち込み始めた私に、慰めに回り始めた周囲だったが、八木さんはあり得ないほど早くやってきた。
新幹線で一時間のところを、三十分。どういうことだというツッコミはできなかった。

「……」
「……」

八木さんが身元引受人で色々と対応及び根回ししてくれて、私はその日のうちに家に帰れることになった。
皮肉なことに、書置きの時間ピッタリにアパートへとつくというオチ付きで。

「君は、自分の立場を分かっていない」
「……」
「雄英に特例で入り、そしてようやく個性の使用を許可された。しかし、日常的な場面での個性は原則禁止になっている。そうだね」
「……はい」
「君は、馬鹿じゃない。とても聡明で、懸命だ。……なぜ、こんなことをした」

一人で、ヒーロー三人を重傷に陥れた犯罪者の元へ行った。それも誰にも事情を告げずに。
背には傷をこしらえて、当のヴィランは捕まらぬまま。

「……」
「火華くん」
「……」
「……私から、君への信頼を奪わないでくれ」

信頼。そうだ、八木さんは私を信頼してくれている。悲しませたくない、苦しませたくない。私のせいでそんな拳を強く握らないでほしい。

「あいつは、きっとこれからもっと多くのヒーローを、殺そうとすると、想う」
「なぜ、そんなことが」
「……勘だ。けど、絶対にそうだって、俺は思ってる」
「……だから、倒しに行ったのか。どんな個性かもわからない敵相手に」

無謀だ。あまりにも。けれど、体が動いたのだ。全身が訴えていた、今、行かなければと。
そして私は今、後悔していない。八木さんに対しての申し訳なさはあるが、あの目を向けられ、刃を食らったことに一つの悔いがない。
だからこそ本当に、八木さんには申し訳なかった。

「八木さん、ごめん、ごめん、俺」

目元から、感情の起伏があふれ出る。火花が飛び散り、焦げ付くにおいが臙脂色の火と共に漂った。

「俺が、あいつを捕まえたい」
「……火華くん」
「俺が、やんなきゃダメなんだ。俺が、やってやりたい。あいつを捕まえてやりたい」
「ッ、なぜなんだ。どうしてそこまで固執する!」

なぜ、どうしてって、それは。


「……ヒーロー、だから」

ヒーローだから――救わないといけない。手が、届くなら。
私しか、手が届かないから。

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bkm