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花火の明かり7
高校生の波の中に入るのは一苦労だが、ようやく最近は慣れてきたように思える。
八木さんも雄英高校の教師をしていることが判明し――ぜぇったいそれだけじゃないだろうなぁ――身近なところに知り合いがいたことが分かったり、ようやく轟君も普通っぽくは話せるようになってきた――未だに目を合わせ続けると顔が赤くなってしまうが――。まぁ簡単に言うといい感じのスタートダッシュが切れた。最初の大遅刻から考えれば上出来にもほどがある。

そんな私だが、実はちょっと一人で遠出をしている。しかも、これは八木さんには伝えていない。
新幹線に乗って日帰りだ。いやはや、ずいぶん遠くまで来たものだ。絶対に怒られるだろうな、とは思っているのだが仕方がない。体が勝手にチケットを購入していたのだから。
中学生には痛い出費で、やってきた場所でろくに食事もとれないぐらいだ。だってそうじゃないと帰りのチケット代が無くなってしまう。
八木さんは常識の範囲内の中学生へのお小遣いしかくれないので、しっかりやり繰りしなければならない。いい教育方針だと思うけどね。

さて、そんなわけでどうして一人旅に来たのかといえば、とある新聞記事を読んだためだ。
『●●県でヒーロー襲撃。3名重傷』そうそこまで大きくない見出しで書かれていた記事に、ふと目が留まった。刃物で切り付けられヒーロー三名が倒され、犯人はまだ捕まっていないらしい。
この記事に、なぜか酷く惹かれた。別に、その地を訪れてどうにかなるわけではなかったけれど、それでも気になってしまったのだ。
やられたヒーローの内、一名はいまだ意識が戻っていないらしい。今日の朝刊で出ていた記事で、事件は昨日。
まだこの付近にいるかもしれない。――いや、いる。なぜかそう断言できる。でも、いつまでもいるわけじゃない、相手も馬鹿じゃない、ヒーローを襲撃して警戒が強まったことは分かっているだろう。逃げられる前に来なくてはならなかった。

ヒーローは路地裏で発見されたらしい。狭い場所へ誘い込むということは、広い場所よりそのような場で有利な個性を持っているのだろう。
テープが張られ、立ち入り禁止になっていた現場も外から確認して、それからはヒーローがいそうな場所を重点的に回る。
アパートには書置きで十時までには戻ると言づけてきた。それまでに、彼と出会わなければ。

しかし、そううまく行くわけもない。
時間は刻一刻と過ぎ去っていき、そろそろ新幹線に乗らないと十時に間に合わない時間になってきた。
一瞬、自分で騒ぎを起こしてみようかとも思ったが、それだと本末転倒だ。私はヴィランになりたいわけじゃない。けれど、どうしても彼に会わなければならない、そんな背中をじりじりと焼く感情があった。
なんだろうこれは――焦り、いや、違う。……悔しい、のか。これは。

「……会いたい、ヒーロー殺しに」

ぼそりと呟いた言葉に自分で驚く。
ヒーロー殺しだって? 何を言っているんだ私は。ヒーローは重傷を負っただけで死んでいない。縁起でもないことをなぜ。


一つため息をついて、仕方なく路地裏への散策へと戻る。
大通りでヒーローがいそうなところを歩き回っていたが、どうにも上手くはいかなそうだ。
けれど、事件があってからまだ時間もそこまで経っていない。まだ、まだいるはずだ。
けれどなぜ――そんなことを確信できる?

「――いた」

それは、『正しい』と分かっているから。

「……子供か?」
「違う」

拳を突き出し、その姿をしかと認める。
襤褸切れのような赤い布を首に巻き、体中に刃物を纏わせた不気味な男。
裏路地を照らすように手を燃え上がらせ、空気を強く震わせる。

「俺は、ヒーローだ」

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bkm