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花火の明かり5
その日。私は運命と出会った。
雄英に無事入学した私は、初日に色々あって入学生徒の家族だと思われ入学式に参加させられそうになったりしたが(雄英高校の制服を着ているのに)(品のいいレプリカだと思われたらしい)、どうにか体操服を得て入学式をしないで個性把握テストなるものをしているA組がいるグラウンドへと向かった。
焦りどころではない。入学早々に遅刻とかどういうことなのだ。だが、私だって必死に教師の方を説得した。が、やはりプロヒーロー腕力がめちゃくちゃ強く抵抗できずに引きずられてしまったのだ。
B組の入学式に出席していたネズミの姿をした校長――根津校長だ――が騒いでいた私を発見して説明してくれて、ようやく解放された。あとで話は通しておくよと言われたものの、後とはいったい何時なのか。
「相澤くんか〜大丈夫。訳を言ったら除籍にはしないでくれるよ」と可愛らしい表情で言われたが、もう不安しかなかった。
だが、その不安は一瞬にして吹き飛ばされることとなる。

「すみませんっ、先生に、生徒の弟だと勘違いされまし、て」

体操服を着た生徒たちが、行っていた個性把握テスト――体力測定の個性使用版のようだ――を一時中断し、私の方を見た。相澤先生なる黒髪長髪の男性もこちらを鋭い目で見やったが……。私には一切それらが目に入らなかった。
生徒の中に、一人だけキラキラしている人がいた。
整った顔立ちに、左右で分かれた綺麗な赤褐色と白色の綺麗な髪色。整った顔立ちに、感情を感じさせない無表情。
他の生徒と同じようにこちらを見つめているその男の子の周りが、まるで星が輝いているように見えた。

「へ、あ」
「おい、お前は確か――」

相澤先生から私に向かって声が発せられる。瞬間、私はそちらへと全力疾走してその背中にしがみついた。
ざわっと生徒たちがどよめくのが分かったが、私がそれどころではなかった。
先生の服をぎゅうと掴んで、収まらぬ動悸に頭がぐわんぐわんとする。ぎろりと先生からにらまれても、気づかないほどだった。

「何をしている」
「すっ、ません」
「……」

動揺している私の耳にも聞こえるぐらいの舌打ちが鳴ったかと思うと、服にしがみついていた手を無理やり離される。
ああっ、待って! まだ気持ちの整理がついてないんです!!
必死で内心助けを求めていれば、会わないはずの目線があって思わず目を丸くした。しかも、目の前に先生がいる。

「何かあるなら言ってみろ」

先生は片膝をついて、わざわざ視線を合わせてくれていた。その姿に感動しながらも、未だに直らぬ動悸に自分の胸元を掴みながら、どうにかこの症状を訴える。

「か、顔が……!」
「顔?」
「いや、顔って言うか、もうオーラがッ……!」
「……オーラ?」
「あのっ、赤と白の髪色の人ってッ『魅了』の個性の持ち主なんですか……!?」

それならこの激しい動機、そしてどこかに集中していないと向けてしまいそうになる視線、同じ空間にいるだけでもざわついてしまう心にも納得できる。しかし、同時にここの生徒や先生は本当にすごいと実感する。あんな強力な魅了の個性を受けて、こんなにも平然としていられるなんて。私なんて一度目があってしまっただけでこれなのに……!
自分でもびっくりするぐらい、顔が熱い。熱を放出する熱さではなく、羞恥とかからくるものだ。とてもじゃないが慣れない。
相澤先生は驚くほどに眉間に皺を刻ませた後に、ゆっくりと立ち上がった。
縋るように見つめれば、深いため息をつかれる。

「あいつの個性は魅了じゃない」
「違うんですか!? じゃあ、まさか幻覚? いや、じゃあ感情を揺さぶるような……」
「それも違う」

違う!? 違うって、つまりもしかしてそんな馬鹿なと思うけれど、人の思考や感情を誘導するような個性ではないということか……!?
じゃ、じゃあこの衝動はなんだっていうんだ!? 目が離せない、近づきたいけど近づけない、話したいけど話せない、お近づきになりたいけどなれないようなこの甘酸っぱい衝動は――――!!

「……え、恋?」

齢13歳。八木火華。雄英高校で出会った男の子に、一目惚れをしたようです。

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bkm