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花火の明かり4
八木さんにあんな大見得切った私は、悩んでいた。
何を悩んでいるのかといえば将来設計である。いや、ヒーローになるのは実益としても趣味としても理にかなっているので絶対になろうと決意しているのだが、それはそれとして中学である。
この世界にも当然進学校やらが存在し、中学にも当てはまる。ヒーローというのは人気職だ。サッカー選手や野球選手。YouTuber的な子供たちの憧れ、競争率のバカ高い職業なのだ。危険と隣合わせだが、市民からの人気も獲得できる、一攫千金も夢じゃない、しかも公職! 親としても誇らしいだろう。
いうなれば、競争率が恐ろしく高いため中学のころからヒーローになるための科目を設定している学校さえあるということだ。そして、ヒーロー自体、資格や知識が必要なため学力も必要となってくる。そしてそれらを中学校から実施している学校は須らく進学校であり、倍率が高い。私立だと金もかかる。
八木さんから学校に行けると聞いた時は喜びに飛び上がったが、全国数あるうちのどれに行くかは悩ましいところだった。
そもそもメールで「いけるよ!」ということしか聞いていないので、もしかしたらすでに行先は決まっているかもしれないのだが。
それでも将来に直結するような大事なことだ。私としてはいち早くヒーローになりたいので、正直海外で飛び級制度を使用して、とかも考えたりしていたりするが、さすがにそれは無理だろう。立場的にも。
なので、できるだけヒーローへの近道となる中学校へと進学し、ゆくゆくは数々のヒーローが通ったという国立雄英高等学校に!!

八木さんは三日後に帰ってくるとのことで、詳しい話はその時に。とメールに書かれていた。
三日間、それまでに私は八木さんへ有名進学校進学へのアピールを考えなくてはならないわけだ。
ふっ、困難だからこそ燃えるものがある。無理かもしれないと思っても、やってみなけりゃ分からない! というわけで、三日間たっぷり使って情報収集及び発表PowerPointの作成だ!!


「聞いて驚くなよ、君はまだ中学生だが、特別に雄英学校への飛び級入学が決まった!!」

……なん、だと?


まるで志願校の受験に受かったことを告げる親のような勢いの八木さん。だが私は一切反応できずにいた。
唖然というか呆然というか。私の三日間はなんだったんだというか。
雄英高校――勿論私が目指していた国立雄英高等学校のことだ。
広大な土地を持つ小高い山の上にある高校で、プロヒーローの養成学科を有する日本で一番有名な高校と言っていい。偏差値も恐ろしいほど高く、倍率も考えられないほどうず高い。なぜかといえば、驚くほどの充実した養成設備、プロヒーローの教師陣、そして数多くの有名ヒーローを輩出してきたためだ。
No.1ヒーロー、オールマイトも雄英を卒業しているという。過去にNo.2だった人物も通っていたといわれているが、その他にも数多くのヒーローがこの高校で研鑽を積んできている。通うならここだ、と決めてはいたのだが。

「あれ? 反応が薄いぞ火華少年!」
「いや、うん。まぁ……え、体験入学とかじゃないんだよな?」
「違う違う! 正式な生徒としての入学だよ!」

驚きのあまり何も言えずにいた私に八木さんが肩を叩いてくるが、なんともしっくりこない。
憧れの雄英。しかし入学試験もなしに、しかも異例の飛び級。
――ぜぇったい、裏があるだろ。

聞きたい。滅茶苦茶聞きたい。なぜ私が雄英という有名校に飛び級できる理由を、いや……させなくてはならない訳を。
むむむ、と眉間に皺が寄る。その様子に、八木さんが綻んでいた顔をはっとさせた。

「ど、どうしたんだい火華くん」
「……八木さん」
「な、なんだいっ!」

変に元気のいい八木さんに、もしやテンションで乗り切ろうしていたのかと邪推する。
だが、私はこういってはなんだが善人だ。聞かれたくないことがあるならば、聞かない。言いたくないのなら、言わなくたっていい。それが大好きな人ならなおさらだ。だからこそ、この問いには答えてもらおう。

「俺が雄英に通うの、嬉しい?」
「……それは、私が嬉しがっているかどうか聞いてるのかい?」

頷けば、八木さんはどこか困った顔になる。
それから言葉を選ぶように口を動かした後、先ほどまでの元気は潜ませて言った。

「嬉しいよ。君が雄英を出て、立派なヒーローになってくれると信じているから」

仄かな笑みを浮かべた八木さんに、その表情と穏やかでありながらどこか重い言葉に本心であることが伝わってきて、それならばと小さく笑みを漏らした。

「なら、いい」
「火華くん……?」

私の言葉の意味を理解できていない彼が目を瞬かせるが、分からなくていい。知らせたくない事情があるなら、こちらも知らせないまでだ。貴方を信頼しているからこの話を受けるなんて、話を持ってきた彼からすれば面白くはないだろうから。
それから、身に余ってどうしようかと思っていた熱をようやく吐き出せる時だ。
すーっと息を吸う、ぐっと拳を作りそのまま両手をバッと広げた。

「雄英に、行けるぞぉおおお!!」
「ぅおわ!? え、何!?」
「やったぁああ!!」
「えっ!? 今!?」

狼狽えてる八木さんにガバリと抱き着けば、頑丈な筋肉で迎え入れられ、当惑しつつもすぐに強く抱きしめ返された。
経緯がどうあれ行きたかった名門校。嬉しくないわけがない!
色々と思うところはあるが、それもこれも、全て蹴散らしてしまえばいい。
私が来たならぬ、俺が行く! 後ろぐらい何かがあっても、私が照らしてやればいい! 全て飲み込んで笑ってすませてやるさ!

「八木さん!」
「な、なんだい!」

目線を合わせればまだ僅かに困惑を残しつつも、嬉しそうな顔をした八木さんがいる。
そんな彼に、言おうか迷って――しかし耐え切れずに口に出す。

「大好きだぜ!」
「ッ、えっ、ぁ、ぇえ!?」

一気に真っ赤になった顔に、やっぱり直球は困らせてしまうかと内心頷く。しかしそれでも言いたかったのだ。
何か裏があっても、この人は私が雄英に行くことを、本気で祝ってくれているのだから。それが分かるぐらい、本気で私のことを想ってくれているのだから。
久しぶりにかましたデレ一直線の言動に、八木さんは頬を赤くして小さな声でボソボソと「わ、私もだよ」と答えてくれた。

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