- ナノ -

花火の明かり2
当面の目標は違和感の追求と、記憶を秘密裏に思い出すこと。
しかし、実はもう一つ目標がある。それは――ヒーローになること。
ヒーローとはヴィランという個性を使用した犯罪者を捕まえるのを主な役割としている公職だ。私からすればフィクションのようなだが、確かに存在し、しかも世間になじんでいる。ニュースではヒーローのことがせわしなく報道され、CMや雑誌で見かけない日はないぐらいだ。派手な職種なので――なにせ町中で鳳物が行われたりする――人の目にも止まりやすい。芸能人的な面もあるのだろう。
だが、私が何よりも憧れたのは「人を助ける姿」だった。最高じゃないか。
人助け、カッコイイ。漫画やアニメでしか考えられなかった存在が手の届くところにあるのだから伸ばさないわけにはいかないだろう。

なぜ憧れたか、勿論それは純粋に尊敬という面もある。しかしどちらかというと実益を考えた上でだった。
憧れたのは「人助けをするカッコイイヒーロー」ではない。「大手を振って人助けができ、人を救うことができる姿」なのだ。
憧れであり、羨望である。一般人は個性の使用が制限されている。勿論家の中や日常での危険のない使用ぐらいは「個性」という名なのだから行われて当然ではあるのだが、大規模なものや目立つものは法律によって禁止されている。また私に関しては、個性を縛るのはそれだけではない。
そういうが時折窮屈になるのだ。

例えばヴィランによって半壊したビルから幼い子供を救出しようとするときに、せっかく役立ちそうな個性があるのに使用できず、生身の身体でどうにか助け出すときなど。また、逃げていくヴィランを捕まえようとしても、個性を使用しないとなると太刀打ちが難しいことなど。
まぁ、そうだとしても体が勝手に動いてしまえば仕方がないのだが。
だが、そうして八木さんに心配をかけるのもたいがいにしなければと思うところもある。だから、今回は僥倖だった。

「君! 何をしようとしているんだ!」
「……ヴィランを追おうとしたんですが」
「ヴィランを!? 怪我どころじゃすまないぞ! ヒーローを待つんだ!」

私の腕をつかんで鼻息も荒くそう叫ぶ少年に、その通りだなと内心で頷いた。
しかし体はヴィランの方へと行きたがっていて、やはり体は正直なのだとどこぞのエロ同人のようなことが思い浮かぶ。いや、エロ同人て。
だが、彼のお陰で少し落ち着くことができた。どうにか走りだしたい衝動を抑え込み、少年に向き直る。

「お、落ち着いたかい」
「落ち着きました。ありがとうございます。俺、ちょっと猪突猛進なところがあって」
「ちょっとどころではないが!?」

ビシッィ! と正確無比な直角ツッコミを入れてくる少年に一人頷く。いいツッコミだ。
実は先ほどまでヴィランによって半壊したビルから幼い子供を救出していたのだ。個性が使用できないので服はところどころ千切れているし、救出するときに崩れたビルから逃れるためにスライディングしたため左腕がコンクリートにこすれて無残なことになっていたりする。
確かに、ちょっとではないかもしれない。むしろ無謀というべきか。
しかし少女は助かったのだし、これはこれで一件落着ではないだろうか。人間生きていればどうにかなるのだ。

「そういえば」
「そういえば?」
「俺、買い物の途中だったんで、これで」
「ま、待ちたまえ! 病院に――!」
「保険証ないんで!」

さっとそのまま踵を返し、逃げるように立ち去る。実際に逃げているわけなので、彼が追い付けないように狭い道を通り、更に人ごみの中へと入りこむ。
恐らく彼は足に関する個性持ちだろう。ふくらはぎ付近がズボン越しにも膨らんでいたので一応彼が素早くても逃げられるように逃走経路は考えた。
どうやら彼は私を追ってきたようだが、途中で巻けたらしい。背後からの追手がなくなり、回り道をして買い物袋を置いていった場所へと戻る。

買い物途中でビルが破壊される音を聞いてそちらへ赴いたため、大量のエコバックを路上へ置いてきてしまった。
生物もあったため悪くなっているかなと心配しつつ戻ってみれば、商店街の知り合いの方が涼しい店内に入れておいてくれていた。神か。
更に、腕の傷を見とがめられ応急手当までしてもらってしまった。深々と頭を下げてエコバックを回収してアパートへと戻る。

今日は久々に八木さんが帰ってくるので、大量の夕飯を作らないといけないのだ。私もそうだが、八木さんはよく食べる。
沢山食べる君が好き、というように私は八木さんが手料理を美味しく沢山口に運んでくれているのが大好きなので、八木さんが帰ってくるときは決まって大量に料理を作っておくのだ。

八木さんの帰りを楽しみにしながら、アパートへと戻り、料理の下準備を始める。
帰ってきた八木さんに腕のことでめちゃくちゃ心配され、叱られるのだが、それはそれこれはこれ。

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bkm