- ナノ -

所謂現実逃避@

あったたた。痛いわー凄く頭痛いわー。あと寒いわー。
身体の感じる体温に物凄く違和感を感じつつ、意識覚醒。なんだここは。
かなり困惑しつつ、得意の鉄仮面で表には出さずに脳内会議を開始する。
んで、どうなった? 記憶がはっきりしない。寝起きのようだ……。最後の記憶はなんだったかな。
えーと……確か……家族が……殺されて……私も……ころ――。
きっと夢だな。そうしておこう。いやぁ、私の中二病もここまでくると頭可笑しい人だよね。自重自重。夢だとしても洒落になれないわー。怖いわー。
現れた記憶は確かな鮮明さと現実味を持って内容を伝えたが、当然受け入れられなかった。
うーん。不吉だわー。とりあえず、一番最近の記憶を探ってみようか……えーっと?

赤い紅い赤赤赤。死ぬ仲間たち、部下達、敵、味方。そうして閉じ込められる自分。そうして消えていく命。死。
ここで私は彼としての記憶を思い出した。全て。濁流が流れ込んでくるように、しかし河が正確に流れ込むように。
そうして思い出し、死を悟った。
つか、そうか……死んだのか。思えば長かったなぁ。転生してから……30年以上か。長いわー。凄く長いわー。
っていうか。ん? 転生? 何言ってんの私はwww 三十路になっても中二病ってwww って……そうしたらこの世界そのものが中二病じゃないのか? 魔法、剣、騎士、貴族――なんだこの世界観は。
そうだ、何故私は私が一度死んだと錯覚している? 何故転生したと述べている?
なんだこれは、意味が分からない。
駄目だ。一度考えることを放棄しよう。そうしよう。所謂現実逃避だけどそんなこと関係ないから。
とりあえず目を覚まそう。そうしよう。それからだ。周りから情報収集して、それからちゃんと自分のことを組み立てよう。大丈夫だ。
確かこの散々たるアレクセイの記憶でも、二人の生存者を確認している。あの後生き残れたのかは疑問だが、それでも記憶の中には笑っている二人の部下の姿がきちんと記憶されている。出来れば生きていて欲しい。情報源が全てなくなることを含めて。

「――ア、――団――!」

んん?なんだか複数人の声がする。二人だろうか。男の声。
その声がさきほど思い出した二人の顔に重なって、塞いでいた瞼が無意識に押し上げられた。

「「団長!」」

そこにはどこかイメージの変わった、さきほどの二人がいた。
悲しみと喜びに濡れたような顔をして、こちらを見ている――そう、忘れるわけが無い部下二人。
あの戦争を生き延びた、ダミュロンとイエガー。
その二人を眼前にし、溢れる喜びを前にして、違和感が襲った。
心臓部だろうか。強烈な違和感。自分の物が自分のものでない、そんな気味の悪い嫌悪感。
ゾクリと寒気が満ちる。そうして己の死んだ瞬間も。
そうだ。私は死んだはずだ。なのに何故生きている? 部下達は死んだというのに、自分はどうしてこうして心臓を鳴らしている?

喜ぶ部下を置いて、私の目線はすぐ下にある胸に落ちる。
横たえられた自らの身体。衣服の無い上半身。そして――心臓部にある紅い――。

「……」

よっし、とりあえずもういっちょ寝るかー。
情報収集は放って置いて再び眠りの中に逃げることにした。そうだ。ここは現実逃避をしておこう。
大丈夫だ。部下二人が血迷って自分を蘇らせたとか、そんな馬鹿げた妄想とかしちゃいけない。心臓部を魔導器に差し替えたとか考えちゃいけない。知ってる。知ってるよ。なんとなく記憶にあるんだ。そのおかげてギリギリ二人を助けれたとか、分かってるんだけど、死人を生き返させたい気持ちも、家族がいなくなったあの喪失感とかから理解できるんだけど。

とりあえず、寝とけ。

闇に落ちる意識を呼び止めようと叫ぶ部下二人の声が聞こえた気もしないでもないが、全力でスルーした。


(記憶を思い出した瞬間に受難の予感)

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bkm