「どういうことなのよ!」
いったい誰に一番最初に絡まれるかと思ったが、意外なことに一番乗りはルリナだった。一回戦でカブとあたり、惜敗したようだったがまさかルリナがやってくるとは。
憤慨したような様子の彼女に、思わず目を瞬かせてしまう。そこまで怒らせるような試合だっただろうか。
彼女は拳を握り、私に迫ってくる。
「カブさんがあんなに取り乱したところ見たことないわ! なにしたの!」
「……取り乱してた?」
「そうよ! ずっと様子もおかしかったし、バトルの後だって放心してたじゃない!」
放心、か。言われてみればそうかもしれない。
確かに、死んでいるはずの人物が異なる姿でポケモンバトルを挑んできたのだから動揺はするだろう。しかし、一応事前には通達していたのだが。
返答をしない私に憤りが収まらないらしいルリナがさらに言葉を続けようとしたところで、緑の男が間に入る。
「ルリナさん、そんなに捲し立ててもキバナさんが困ってしまいますよ」
「っでも!」
「僕も気になりますが、キバナさんのほうにもなんかありそうですしねぇ」
「うーん、ヤロー人間できすぎてて好き」
「馬鹿なこと言ってる暇あったら説明しなさい!」
どうしても気になるらしいルリナがヤローのディフェンス越しに怒りの声を浴びせてくる。阻止してくれているヤローもだが、やはり気になるようで目線はこちらへ向いている。できれば話してほしいという顔だろう。
さて、なんと言おうかと考えて口を開く。
「俺様とカブさん、昔に知り合いだったみたいだったからよ。その時のメンバーで行っただけ」
「知り合いですかい?」
「そうそう。カブさん気付いてなかったみたいだからビックリしてたみたいだけど」
「にしたって驚きすぎじゃない? それに知り合いならバトルであんなに驚かなくたっていいじゃない」
私の説明に納得のいっていないルリナが追加で質問を投げかけてくる。それに確かにその通りだと納得しながらもその場から立ち上がる。
ヤローが、あ。という表情で見てくるがジェスチャーだけで謝罪した。
「色々あんの。あと俺の相棒たちを元気にさせなくちゃいけねぇからポケセンいってくるなー」
「あ、待ちなさい!」
「まぁまぁルリナさん、落ち着こうな」
そそくさとその場から早足で去る。背後ではいまだ納得いっていないルリナの声と、抑えようとするヤローの声が聞こえた。すまないとは思うが、どう言われたとしても話せるものではない。私の今後の人生にも影響しかねない問題だ。信じてもらえればまだいいが、理解されなかった時、私はただの狂人だ。
ルリナとヤローはジムリーダーの中でも交流があるのだろう。話すところなども時折見るし、そう考えると身近なカブの様子がおかしくなったのを誰よりも気にかけていたのかもしれない。
そう思うと申し訳ないが、事情が事情だ。そう簡単に話せるものではない。
スタジアムの外へ出て、ポケモンセンターでポケモンの回復を頼む。プロの店員は笑顔でいつもどおり回復してくれるが、ポケモンセンターにいる一般人はもちろんそうでは無い。
「キバナさんだ!」
「さっきの試合のポケモン回復してるのかな」
「あのポケモンたちってなんだったんだろ、ドラゴンタイプじゃなかったよね」
ちらほらと聞こえる声を聞こえぬふりして回復の終わったポケモンたちを受け取る。それからさっさとその場を後にした。
今回のポケモンにドラゴンポケモンは一匹もいなかった。ナマエの時は縁がなかったのだ。だからこそ、この人生では縁のあったドラゴンタイプで勝負していこうと決めたのだが。
歓声の聞こえるシュートスタジアムの外観を眺める。
少し立ち止まった後に、また歩き出した。
今回のトーンメントはいろいろな事が起こる、いわゆる伝説の日だったらしい。
チャンピョンダンテが倒された。ジムチャレンジャーによって。
当然、驚いた。私はまだダンテを倒せていない。だが、同時に納得もしていた。新しいチャンピョンであるマサルという少年はローズ委員長がおこした事件の際にともに戦った子供だ。彼のライバルであるホップも同様に。
それらを考えればたどり着く答えがあった。彼は、主人公なのではないか、と。
だが、主人公云々ではなくダンテに勝利したのは彼の実力だ。彼が強かったからチャンピョンに勝った。それだけだ。そして私にとっては倒すべき相手が一人増えたというわけだ。いや、二人か。
現チャンピョンのマサルと、私が完敗した炎のジムリーダー。
時代の転換期というやつなのかもしれない。先人たちは若人に倒され、若人たちが道を歩み始める。だが、私だってまだやれる。譲ってばかりではいられない。
ダンテともども倒してやろうではないか。
記録に残る日も終わりが訪れる。閉会式だ。
ポケモンたちによるミュージックという刺激的な閉会式だったが、最後まで観客は楽しみ、新しいチャンピョンを祝福して終わった。