- ナノ -

あなたの顔
設定(元ネタ)
クレイ成り代わりで、本編後に司政官モードでいたら「あんたの素を見せてくれ!」ってガロにめちゃくちゃ頼まれるんだけど、司政官モード、悪い顔モード、学生モード、前世モードと全部自分の素といえば素なので「お好みは……?」ってなる主
お好みは?でえっ、じ、じゃあ〇〇の時……って言うので順繰りやって言ってたら「あんたが誰にも見せたことがない顔が見たい」って言われてあーじゃあこれかなぁって「んじゃあこんな感じで。どうもガロ君よろしくね」「!? 誰だ!?」って前世出してくるやつ
長い割にはオチがないです。


消火後、投獄された私は牢屋で計画の詳細を語ったり、復興のために情報提供や時には指示を出したりとなんだかんだと忙しい日々を送っていた。
死刑になるかとも思ったが、市民の嘆願やガロたちの助力により今の処遇となっている。
確かに私も死ぬのは嫌だが、何がどうなってそうなったのか。特に市民の嘆願。本編を知っている身として、地球が崩壊しないと分かっていたから政治もそこそこ頑張っていたが、それを評価されたのか、それとも今までのプロメポリスの成り立ちを知っている私がいなくなれば立ちいかなくなるとでも思ったのか。

地球を滅亡させないためにやったこととはいえ、非道なことを多く行った。生温い気もするが、生き永らえながらこうして償いもできる今の環境は悪くはないのかもしれない。

司政官のころと比べることもないぐらい、穏やかな日々。忙しいと言っても徹夜が一週間続くほどでもないし、プロメアの声も地球の未来で胃が痛むこともない。天国とさえいえよう。
そんな場所に、時雄やってくる人物がいる。それはビアルだったり、ヴァルカンだったり、エリスだったり、そして――。

「よう、また来たぜ。クレイ」
「ああ。元気そうでなりよりだよ」
「おう、いつでも俺ァ元気だぜ!」

太陽のように笑う青年に、同じように笑みを向ける。
ガロ・ティモス。今や英雄と呼ばれるにふさわしい青年だろう。私の計画を止め、地球を完全燃焼させた。それが私の狙いだったわけだが、彼やリオ、そして周囲の人々がいなければ成し遂げられなかったことだ。
彼には感謝している。申し訳なさもある。だからこうしてやってくる彼に対して、できるだけ穏やかな顔を見せている。

「B2地区の復興はほぼ終わったぜ。あんたが調整してくれた機器のお陰だ」
「私は何もしていないさ。作ったとしても使うのは現場の人間だ。よくやったじゃないか」
「へへ、リオたちも頑張ってるんだぜ。そりゃあ時々、民間人と嫌な雰囲気になったりもするけどよ。そんなことしてる場合じゃねぇし、リオたちも働きで見せてくれるからな! 俺も口を出しやすい」
「そうか。本当によくやってるんだな」

本当に立派になったとは思うが、こう話を聞いていると心からそう思う。
思わず立て続けに褒めれば、嬉し気な顔からへにゃりと眉がたれて、どうしたのかと首を傾げた。

「なぁ、クレイ」
「どうかしたのかい」
「いや……あんたさ、すげぇ穏やかだよな。司政官のころみてぇだ」
「まぁ、そうかもしれないね」

しれない、わけではない。意識してそうしている節もある。
散々悪役顔をしたはしたが、今はそんなことをしても意味がない。
それに、ガロはこの顔のほうが好きだろうに。

「それがどうかしたのかな」
「なんつーか、俺は今まであんたのそういう面しか見てこなかった。見ようとしたなかったんだと思ってよ」
「何が言いたいんだい」
「……俺に対して怒りを向けてたあんたも、あんただってことだよ」

どこかこちらを伺うような表情のガロの言葉に思考を巡らせて、つまりこの顔だけではガロは不満なのだと巡りついた。不満というより、不安というのだろうか。
本性を見せていない、仮の姿だと思われているのか。

「……確かにあれは私の一部だ。だが、今の私も間違いなく私だ」

誰にでも穏やかで、公正で、分け隔てない。そうあるようにしていた。実際がそうでなくとも。今の生活もこうしていれば過ごしやすい。
しかしガロは納得していないようで、懇願するようにこちらを見つめてくる。

「そうだとしても、俺はあんたのこと、ちゃんと知りてぇ。受け止めてぇんだ」
「……そうは言われてもね。なら、ガロはどうしたいんだ」
「どうって」
「理解したいという気持ちはわかった。けれど、具体的に何をしてほしいか言ってくれないと私も動けない」

ガラス越しに、目を瞬かせるガロは「いいのか?」と確認してくる。
何がいいのか、なのかは分からないが、それをガロが希望しているのなら多少は無理をしてもかなえてやりたいと思う。
頷けば、ガロは腕組をしてうんうんとうなる。具体的に、と言われるとは思っていなかったのだろう。私から自分語りをすればいいのかもしれないが、そうするには少々隠し事が多すぎた。そしてそれを白状する度胸もないのだ。

唸りが数分続いた後、ガロは勢いよく目を見開いた。

「アンタの素を見せてくれ!」
「素?」
「ああ! 今は司政官って顔だろ? 俺の前だからそうなら、本当の姿が見てぇんだ」

素。とは、また難しいことを言う。
この顔だって、素といえば素だ。長年馴染んだこの性格や考え方は、私の一部といって過言ではないのだ。
それに、素など人によって定義が異なる。一番長く外に出しているのが素なのか、感情が高ぶったときに出てくるのが素なのか。それとも昔のリラックスしていたころが素なのか。
顎に手を当てて暫く考え、コホンと咳をして指を三本たたせてガロに見せた。

「3?」
「一つ、司政官」
「え?」
「二つ、プロメア放出時」
「え、え?」
「三つ、出会ったころ」
「なんだ? どういうことだ?」

順に説明していくと、ガロが眉を八の字にして首を捻る。
まぁ、分からないとは思ったが。

「長年生きていると、どれが素なのかなど分からなくなるんだよ。ガロ」
「いや、そんなことないだろ……」
「ガロはそうではないかもしれないけれどね。私は違うんだ。どの私も、確かに私だ。確かに偽っている部分もあるかもしれないが、人は誰でも何かを偽って過ごしているものだ。そして、発露する感情だけで過ごしている者もいない。いつでも家にいるような感覚で人と対面している者も少ないだろう」
「う、それは、そうかもしれねぇけどよ」
「だから好きに選びたまえ。君のお好みはどれかな?」

悪戯を仕掛けるように問うてみれば、未だに納得いかなそうな顔をしつつも、ガロが口を開く。

「じゃあ、三つ目?」
「ああ、それなら――学生時代の僕だね」
「へ」
「あれから考えてみれば、随分と大きくなったね。あの時は胸に収まるぐらいだったのに」
「へ、あ、く、クレイ?」
「なんだい?」
「ふ、雰囲気が全然、ちげぇんだけど……」
「そりゃあ、難しいことは何も考えていないからね。出会ったころは未熟だったから、あれから考えれば司政官なんてびっくりだよ。自分でも信じらない」
「え、あ、お、俺も、司政官になるって聞いて、滅茶苦茶ビックリした……」
「あはは、だろうね。ガロの丸い目、今でも覚えてるよ」

学生時代といえば、将来のこともまだ深く考えていなかった頃だ。
前世の記憶は戻っていたとしても、まだまだ自分が司政官になるなんて信じ切れていなかった頃。ガロを引き取って、子供の世話なんて初めてだから悪戦苦闘しつつ、それでも可愛いこの子を大事に育てようと躍起になっていた。
懐かしい思い出だ。だがその想いも、その性格も、だんだんと計画を遂行しなければいけない義務感に、焦燥感に食いつぶされていった。いつしか思い出さなくなって、司政官として高い塔の上に立っていた。
久しぶりの張りつめない思考や感情に、自然と表情筋が崩れる。ガロは私の変化に追いつけていないのか、目を白黒させながらも会話をしていた。

「司政官になってからは、会う頻度も少なくなってしまったよね。寂しい思いをさせたかな」
「え、あ……いや……俺は」
「うん? どうしたんだい、ガロ」
「……く、クレイは、俺と、会いたかったか?」

恐る恐る、といった風に尋ねるガロ。どこか髪型もしょげているように見えて、思わず噴き出した。

「複雑だったけど、あいたかったよ」
「ほ、ほんとか!?」
「うん……。目を離すとすぐに無茶をするから、君は」

昔の危なげな様子を思い出す。今でも変わらないか、全くいつも無茶をする。
ガロは感極まったように拳を握って、それから照れたように笑った。

「クレイが叱ってくれるの、実は嬉しかったんだ」
「叱られるのが?」
「ああ、心配されてるって分かってよ」
「……全く、心配する身にもなってほしいんだけどね」

ごめん、と謝るガロはそれでも嬉しそうだ。
司政官の時は、しっかりと自立した子供としてガロと接しているからこうしたお節介は言わないようにしていた。互いに個々の人物として対峙できるようにしていたのだが、こんなガロの表情を見れるのならば、昔の自分であるのもいいかもしれないなとも思う。
まぁ、どれにしても私なのだけれど。

ガロはいくつか会話した後に、じゃあ次は、あと指で二を指示した。

「プロメア放出時、か」
「ああ。その、ちぃと不安だけどよ」
「ふふ」

無意識に笑みがこぼれてしまった。会話で私の変化への緊張も解れてきていたガロ。
だからこそ、次へと進もうとしたのかもしれないが。
真っ直ぐな目は、次の変化に惑わないようにとこちらを見つめている。
だが。

「その不安――当たってるぞ」

笑みが確かに歪むのが分かる。
プロメア放出時――つまりは、感情の発露時だ。抑えていたものを全て開放するのは、とてつもなく気持ちがいい。感じていた抑圧も、そうてなければならないという使命感も、目の前の子供へ対する罪悪感も全てを薙ぎ払って感情を露出する。
ガロは目を瞠り、無意識のうちか、身を引いている。それが可笑しくて笑った。

「何を怖がっている。今はお前を焼く炎も何もない。牢獄の住人だぞ」
「っ、か、わり過ぎだろ……」
「当たり前だろう、どんなものになると思っていたんだ。気に食わないならもとに戻ってくれと頼めばいい。何事もなく前の私に戻るぞ」

意地悪く言ってやれば、ガロは目元を吊り上げて、ずいっとガラスへと身を寄せた。

「それもあんたって言うんだったら、俺ァひかねぇぜ」
「……度し難い、目を逸らせばいいものを」
「あんたを知りてぇんだ。今更逃げられっかよ」

鋭い瞳。力強い声。曲げない信念。
ああそうだ、私は――私は昔からこれが羨ましくて、憎らしかった。

「目ざわりなんだ、お前は」
「ん、だよ、いきなり」
「私を英雄視する瞳が、妄信するお前が、それでも己の信ずる道を歩むお前が煩わしかった」
「……」
「お前の瞳に反射して、私の罪を訴える。何もかも私のせいだと告げるような目が」

そう、見ていられなかった。けれど、目をそらすこともできなかった。
何度も何度も重ねて塗られる私の罪を、全て暴くその瞳が苦しかった。恐怖だった。何もかもを知っていながら、けれどその通りにしか動けない、動こうとしない、それが最善だと信じて進む私を、罪人なのだとお前の瞳が訴えた。
愛しいさ、大事に思っているさ。けれど同時に、憎いと思うこの気持ちは確かにあった。
物語の主人公、世界を救う英雄。私はそれにはなれない。なってはいけない。救世主にはならない、なれなかった。それでよかった。けれど、この気持ちはどうすればいい。望まずに人を傷つけて、苦しめて、そのたびにガロの瞳の尊敬が、敬愛が私を追い詰める。

「そうだ。私は英雄ではない、ましては救世主でもない! そんなこと、理解していた!」
「クレイ……」
「……情けないだろう。無様だろう。これが私だ、私の一部だ。醜い、長年煮詰められた感情だけの男だ」
「俺は……」
「不安に従って、見なければよかったんだ。こんな男の胸の内などな」

そうだ。これは未だに駄々をこねる男の妄執だ。
そして私も、指定されたからといって出すべきではなかった。だが、私が彼に出来るのはこれぐらいだ。醜い姿を、感情の思うがままを、確かにガロに炎を向けた姿を現すだけ。
なにせ、これも私なのだ。ガロと愛しく思うのと、ガロを憎む私は両立している。ただそのどれを外に出しているかというだけの話だ。

ガロは神妙な顔をした後に、それでも前を向いた。
傷ついたろうに、それでも目をそらさずに。

「俺は、嬉しいぜ」
「何を言っている」
「あんたはずっと優しかった、温かかった。けどさ、それだけなハズねぇんだよ。俺はあんたのそういう面しか見てこなかった。クレイはそういう面しか見せなかったんだろうし、俺も見ようとしなかった。人ってよ、優しいだけじゃねぇんだ。俺だって、クレイに対して複雑な感情だってある。だから、あんたも同じだって改めて分かって嬉しいんだよ」
「……理解に苦しむな」
「大事な奴の気持ちをちゃんと分かっておきたいってのは、誰だってそうだろ」

なんだそれは、お前だけだそんなもの。
それに、大事など。今更だ。
一つ息を吐いて、睨むようにガロに視線を向ける。

「もう別に変えろ。この顔は疲れる」
「なんでだよ。もっと話聞きてぇよ」
「感情を表に出すのは疲れを伴う。だからこそ人は平穏を求めたり、心の安定を測る。私を労わる気持ちがあるのなら、別の顔を指定しろ」
「む……そういうことなら、仕方ねぇか」

そうだ。この時は、酷く疲れる。
自らの罪と真っ向から向き合うのは、憎しみを肥大させるのは、あまりにも体力を消耗する。
確かにある感情であり姿だが、見つめ合うには負担が多すぎて私の一部だが、胸にしまっているものなのだ。それに、こんな姿あまりにも外聞が悪いだろう。

「他にはねぇのか?」
「他だと?」
「おう。あんたがまだ見せてくれてない素。誰も見たことねぇ姿とか」
「……はぁ、業突張りが」

もっと知りたいのだと如実に現す瞳が忌々しい。
けれど、お前がそう願うなら。

「せいぜい混乱するんだな」
「え?」

間抜けな声を出したガロをしり目に、徐々に感情を落ち着かせる。
途端、疲労を感じ深い息をつく。やはり、あれは身体に悪い。
そう、どんな時も平穏にのんびりと、何も考えずに過ごすのが一番いいのだ。平々凡々、普通が一番だし、長いものに巻かれるまま生きていければいい。
張りつめていたものが抜けて、ふぅ。と声を上げた。

閉じていた目を開ければ、観察するように見つける青年がいて、あー。と声を上げた。

「どうも」
「……ど、うも?」
「誰にも見せたことがない顔、こんな感じ」
「え、え?」
「よろしくね、ガロ君」
「だ、誰だ!?」

誰だって酷いな。クレイ・フォーサイトの前世だよ。
前世といっても、意識は続いているからそんな気はしないけど。元々は私はこんなやつなのだ。子供を育てたりなんてしたことないし、司政官なんてポスト一ミリたりともなりたくないし、なれと言われたら引きこもってパソコンとお友達になる。
でも流石にそうしてはいられず、どうにかしなくてはと必死こいて司政官になったわけですが。こんな性格じゃあやってけないから、色々と考え方を変えていった感じなのだ。

「クレイですが」
「そ、それは、知ってるけど」
「じゃあクレイ・フォーサイト」
「いやそれも知ってる!」
「説明が面倒だからそろそろ司政官モードに戻っていい?」
「モード!?」

あ、そこに反応するのね。
感覚的にはこう、切り替えレバーがあってそれに合わせる感じなのだ。一度切り替えたらそれに固定されるから、早めに戻ってしまいたい。一人の時にこれなら別にいいんだけど、ガロ君いるしなぁ。
にしても本当に整った顔してるなぁ。流石二次元。いや、私も二次元なんだけどさ。ははは。

「そ、それも素なのか?」
「素っていうか、モードの一つだけど」
「何モードなんだよそれ……」

そう言われると困るな。前世モードですとか言っちゃうと、前世!?って食いつかれそうだし。

「あー、生まれたてモード?」
「生まれたてモード!?」

あ、駄目だ。適当に回答したら変に驚かれてしまった。適当なことを言うもんじゃないね。
それからいくつか質問され、全て適当に答えたら、ガロ君が信じられない者でもみるような顔でこちらを凝視してきた。そりゃあ司政官モードや学生モード。悪役モードでは答え方は違えど、ちゃんと答えていたからね。誠実なんですよ私は。今の私は違うけど。

「もう全然あんたのことがわっかんねぇ……」

ついには頭を抱えてしまったガロ君に、とりあえず笑ってみた。

「あはは」
「いやなんで笑ってんだよ」
「え、意味はないけど」
「なんなんだよあんた!」
「クレイですけど……」
「そうなんだよ、クレイなんだよ……」

再び頭を抱えた彼に少し同情する。この顔は出さないほうがよかったかな。これ出てくるの滅多にないからなぁ。司政官時代に徹夜が一週間続いた後にひょっこり現れて、流石にやばいと思って仮眠をとった時ぐらいだからなぁ。いやはや一人だからって計画も地球ももうしーらね!って叫んだのはやばかったね。

「混乱するのはわかるからさ。そろそろ司政官モード戻らせてほしいんだけど」
「なっ、まだあんたのこと全然……!」
「いやこれわかんなくていい部類のやつだと思うよガロ君。あと話一向に進まなそうだし」
「うっ」
「まぁまた機会があったら話せばええやん」
「ほんとあんた誰だよ……」
「クレイですけど」
「クレイ〜〜〜〜」

名前を呼ばれてもなぁ〜〜〜。
というか、別に指示されることもないか。今までのモードは生真面目でしたけど、私はそんなことないので。
一つ目を瞑って、再び開ける。
目の前には頭を抱える青年が一人。それにふと笑みを浮かべて、声をかけた。

「ガロ」
「っ、クレイ!?」
「ああ。なんだか悩ませてしまったみたいだね」
「く、クレイ……クレイだ……。司政官モード……」
「……自分で言ったこととはいえ、改めて聞くと酷いな」

苦笑いを浮かべれば、ガロが呆然とこちらを見つめてくれる。
自分でも急激すぎる変化に困惑しているから、そんな顔をされてもどうにもできない。
前世では結構なるようになれ、という性格だったからな。それもその考え方では何もかもを失うと矯正していったから、なんというか、懐かしい。
深いため息の音が聞こえ、視線を向けてみれば、ガロが椅子の背もたれに背中を預け、天を見上げていた。

「理解はできたかい」
「わかった気がしてたけど、最後で完全にわかんなくなった……」
「あれは……あまり意識しなくていい。幻みたいなものだ」

出すべきではなかったな、と僅かに後悔していればガロが姿勢を戻す。
その顔に既に困惑はない。

「けど、あれもあんただろ」
「……確かに、私の一部だ」
「なら、理解する。そうしてぇんだ」

あれをか……。
少々疑問を覚えつつ、しかしそれを嬉しく思う私もいる。
私はそうとは思っていないが、傍からすれば私のあれらは多重人格のようなものだ。しかも、最後のは人さえ違うようでさえある。それを理解しようなどと。滑稽だが、楽しみでもある。

「別に、人の全てを理解する必要はない。向ける表情は人それぞれだし、だからこそ人間関係は成り立っている。今回のは、ガロが見たいというから見せただけで、本来ならば私は今の私を『本当の私』としているよ」

そもそも全てを理解するなど不可能だ。
誰にだって秘密があり、無意識の嘘があり、意識的な顔がある。

「分かってる。でも、もっと知りてぇんだ。あんたのこと」
「……そうかい」

少しだけ笑って、次にガロに見せるのはどの顔だろうと夢想した。

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