- ナノ -

覚悟を決めろ!2
「だんっ、じゃなくてクレイ! 元気にしてたか!?」
「……囚人が牢屋で元気にしているわけがないだろう、ガロ」

有言実行。早速会いに行った先で、クレイは憮然と椅子に座って俺を見た。
今までは柔らかな笑顔で出迎えてくれていた。司政官としての顔で、俺が何かを報告するたびによくやったとほめてくれていた。その笑みや声を思い返し、今のクレイを見て――ぞわぞわという興奮というか、感動に内心身もだえした。いや、抑えられなくて顔を逸らした。
クレイから目線を逸らしてどうにか息を整える。やばい、これやばいぞ。
前世思い出しちまったせいで、クレイの顔がちゃんと見られねぇ。萌えとか尊さで死にそうだ。
ダメだ、俺はガロ・ティモス様なんだぞ。しゃんとしろ、前を向け! 自分を鼓舞して再びクレイを見やる。クレイは囚人服を着て、左腕のない状態でこちらを見ていた。目元は閉じているが、髪型は以前の王冠を模したような髪型ではなく、緩やかにオールバックになっているのみだ。

……本編後のクレイ・フォーサイトだぁ……!
見ていられなくて再び顔を逸らした。やばい、やばい。二度目はやばい。でも息が整わない。今度は口元を抑える。じゃないとにやけた顔を見られてしまう。それはそれでやばい。

「……何をしているんだい」
「いや! なんでもねぇ! 俺はいけるぜ!」
「何がだ……」

アッ!!!! 今ちょっと口調が違った!!!! うわ!!!うわ!!!
だが、駄目だ! 今度は顔を逸らさずに目を閉じて耐え抜く。流石に三度目はめちゃくちゃ失礼だ。旦那にそんなこと、いや、今はそういうあれじゃないかもしれないが、それでも司政官に、いや、元司政官だけど!
どうにか尊さの悲鳴を押し込んで、目を開く。すると眉間に皺を寄せたクレイがこちらを見ていた。うわーーー!眉間に皺!が!ある!!

「体調が悪いなら家で休んでいたらどうだい」
「え!? 別に、全然!?」
「先ほどから様子がおかしいのと、顔が赤いが」
「えっ!? そうですかね!?」

やばい、バレている!
いやでも無理だろ、クレイが目の前にいるんだぞ!? そりゃあ萌えと尊さで心拍数がおかしくなる!
だがこのまま体調不良と断定されて帰らせられるのはよくない。落ち着け俺、大丈夫だ。表彰式だって憧れの旦那から勲章をもらったときだってちゃんとできてただろう。よし、大丈夫だ。いける!
訝し気にこちらを見るクレイに、今度こそちゃんと目を見る。

「久しぶりにあって緊張してるのかもな」
「……あの日ぶりか」
「だな」

少し誤魔化しつつ口を開けば、神妙な面持ちになるクレイ。
クレイにとっても人生で一番の転機だったはずだ。いや、一番は――もしかしたら違うかもしれないが。

「気持ちの整理も、まぁちょっとは出来た」
「そうか」

うん。ちょっとだ。正直今生と前世の想いが交じり合って衝突したり癒着したりで大変なことになっているので整理は終わっていない。ただクレイ・フォーサイト! という気持ちは熱い。
クレイはただ俺の話を聞いている。そっちからなんか話しちゃくれねぇのかと、なんとなく残念に思った。

「そっちはどうだ。復興が先ってことで、裁判とかも保留になってるみたいだけどさ」
「私の対処どころではないのだろう。ある程度時間が経ったというのに音沙汰はないよ」

どうやら現状に少々不満があるようで、小さくため息をついていた。
そりゃあ、共和国と言っても実質クレイ司政官の独裁政権のような状況だったプロメポリスだ。その司政官がいなくなれば、混乱もするし、復興が最優先だからすぐに対応というわけにはいかないのだろう。
それは分かっているからか、それ以上は何も言わなかった。

しかし、これからクレイはどうなるのだろうか。
二次創作では色々あったよなぁ、訥々と考える。

「今後かぁ、罪状は、バーニッシュ、博士……、俺の家、はいいとして……司政官に戻る、はないか……。でも今の状況だと、知識が……バーニングレスキュー、リオと同じ……でもいいし、俺的には……」
「何をブツブツと言っている?」
「んえ?」

腕組をして考えていれば、いつの間にか閉じていた視界に険しい顔をしたクレイが映る。あ、ちょっと瞳が見え、見え……!
と、違う違う。どうやら考えが口に出ていたようだ。
二次創作だと色々みんな考えてから、クレイの今後についてもいろんなルートがあったのだ。どれもこれも本当に最高で最高の最高なのだが、俺的にはやっぱり。

「俺が監視員になって二人暮らしってことで、クレイはプロメポリスのために知恵を貸したり、研究をしたりすれば一番じゃねぇかな!」
「は?」
「エリス博士もだし、ビアルさんとかヴァルカンとかも!」
「お前何を」
「つーかフォーサイト財団みんなそうだろ! 今は財団自体活動停止になってるけど、それじゃあ復興も進むもんも進まねぇ! 罪は罪として償うとして、やるこたぁやんなきゃな!」

おう、これが一番いいな! 俺もクレイと一緒にいられるし、復興も早くなりそうだし!
グッと拳を作って明言すれば、唖然としているクレイの顔。
いいな、その顔。初めて見た!

「クレイ、覚悟しとけよ」

そして宣言する。

「このガロ・ティモスは。色々あったがあんたのこと、大好きだぜ」

ガラス越しに指を差し、胸を張る。
そう。そうなのだ。つまりこういうことなのだ。
俺は前世を思い出して、尚更あんたのことが好きになってしまった。もうどうにもならないほどに好きだ。
幸せになってほしい。幸せにしてやりたい。
あんたほど幸せになってほしい人なんか、もうこの世界にいない。
だからこそ、さっき言ったことを成し遂げてやる。
やっぱり会いに来てよかった。クレイと話すと、昔からやりたいことははっきりと分かる。
俺は宇宙一の火消しだ。そして宇宙一、クレイを幸せにしたい男だ!

ニッと笑うと、呆然としたクレイがほぼ無意識みたいな面持ちで「人を指さすのはやめなさい」と的外れなことをいった。

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bkm