- ナノ -

置いていかないで
ガロ成り代わり主

家事前まで記憶喪失してクレイと対面したときに前世思い出して、じゃあ両親火事でなくなったんだと思い出してギャン泣きするガロ主。



その顔を見て、まるで走馬燈のように記憶が思い出された。
どうやら私は記憶を失っていたらしい。バーニングレスキューとして職務を全うしていたら、頭に瓦礫が当たってスコンと抜け落ちてしまったようだ。
記憶を失った私は本当に何も知らない五歳児のころに戻ってしまった。前世のことも、その後の未来のことも何も知らない子供に。
レスキュー隊の仲間は心配してくれて、治療が終わった後はあれこれと思い出せるように手を尽くしてくれた。しかしどうやっても私が思い出すことはなく、最終手段としてあの人のところへ私を連れて行った。
あの人――クレイ・フォーサイト。
由縁のある物や匂い、場所、人を見ると脳が活性化され過去を思い出すことがある。だからこそ、ある意味で一番印象に残っているであろう人のところへ私を連れて行った。
直接話せた方が思い出すかもしれないという配慮か、私はあの人とガラス壁も何もない対面で出会うこととなった。話を聞いていたらしいあの人は、どこか複雑そうな顔をしていた。

そして私はあの人を見た瞬間に、思い出した――前世を、思い出してしまったのだった。

――私は、言ってはあれだが、幸せな家庭に生まれた。優しく大らかで、賢い両親だった。まだ前世も思い出しておらずやんちゃな私を可愛がってくれ、愛情を注いでくれた。
私は父と母が大好きだ。

あの人を見て刺激された記憶は、どうやら前世の記憶だけだったらしい。
けれど、一瞬にして今の現状を把握できた。なぜかって、前世で『プロメア』という映画を見ていたからだ。だから私が記憶喪失で、今が完全燃焼後で――私の家がとっくに燃え尽きて、両親が亡くなった後なのだと理解できてしまった。

「ぁ、う」

喉が詰まった。あの人の左腕は、当然のようになかった。牢屋に収監されているあの人は義手もつけることを許されていないのだろうか。あの手が、あの手から――私の家は。

「ひ、ぅあ」

幸せだった。愛されていた。愛していた。
何も知らない子供だった。何も知らない両親だった。ただ幸せに日々を過ごしていただけだった。
食事をして、写真を撮って、勉強をして、笑い合って、旅行の計画を立てて。
頭が追い付かない。私の身体はもう大人だった。左腕に火傷の跡があった。頭に瓦礫が当たって治療を受けたために巻かれた包帯があった。
五歳より後の記憶は、未だ戻らない。けれど、前世の記憶が戻ってしまったから、分かってしまう。理解してしまう。思い知ってしまう。

「お、とうさんと、おかあさんは……?」

何度も聞いた。レスキュー隊の人たちに、お父さんとお母さんはどこ、って。
皆、難しそうな顔をして、すぐに会えるからねと抱きしめてくれた。ああ、今頃わかる。それは幼い子供に真実を伝えられない大人の手段。記憶が戻ってすぐにわかる現実。

歯を食いしばった、けれど喉の奥から叫び声が響いて耐え切れなかった。目の前が擦れる、お父さんとお母さんの笑顔が脳裏をよぎる。
助けを求めるように足を進ませれば、瞠目したあの人の表情がぼやけて消えた。

「うぁ、ひっ、ぅあぁあああっ、うわぁああああん! おかあさぁああん! おとうさぁああん!!」

足がふら付いて、立っていられなくなってその場に座り込んだ。
部屋に響く叫び声はうるさくて、そして届いてほしい人には届かない。
お母さん、お父さん、嘘って言ってよ。ヤダ、やだよ。もう会えないの、死んじゃったの、やだ、やだやだやだ!
ただ現実を否定したくて泣きじゃくる。前世を思い出した頭ではそんなことをしても意味がないと分かっているのに、柔い心はどこまで信じたくなくて駄々をこねる。

手で擦っても擦っても涙があふれてくる。頭がぐちゃぐちゃしていて、何をどうしていいのか考えられない。ただ泣きたくて苦しくて、悲しさに体が耐え切れなかった。
そんな時、身体が何かに包まれた。次いで、締め付けられるような感触。そこから身体が温かくなって、人の温度だと理解した。暖かさに、また様々な感情がこみ上げる。大きな身体に、両親を見た。

「うえっ、うわぁあっ、あぁああああん! なんで、やだ、やだっ、おいてかないで、ひとりにしないで、いいこにする、いいこにするからぁ、ひっく、うぇえっ」

お願い、お願い、一人にしないで、置いていかないで。
一人にされるぐらいなら、いっそ、いっそ。
離さないように暖かさを両手で強く強く抱きしめる。布をぎゅうと握りしめ、額を押し付けた。

置いていかないでと縋りついて、泣き叫ぶ中で呟くような謝罪が微かに耳に木霊した。

prev next
bkm