- ナノ -

美味しくお食べ
ガロがM?


その日はガロのバーニングレスキュー配属祝いだった。
お祝いに何か上げようと言ったら、久しぶりに家で二人で話したいといわれ、そうかそうかと内心複雑な思いを抱えつつも家へと招いたのだった。
これから敵同士になるのだからあまり慣れ合ってはその時が悲しいだろうに。そうはいってもガロにはまだ分からないことだ。私が勝手に複雑になっているだけなのでそれはおいておくとして。
ただ、複雑になる理由はそれだけではない。これはなんというか、私の教育が悪かったのだろうかと頭を抱えてしまうのだが昔からガロは私と二人になると少し行動が可笑しくなる。昔からというか、昔はただ気を遣ってくれているとかそういう範疇だったのだが、年を経るごとにだんだん首を傾げることが多くなってきた。特に共に過ごさなくなってからは顕著だった。

そして今まさに、内心で首を大きく傾げている最中だ。
なぁガロ。なぜ約束の二時間前から家の前にいるんだい。
玄関についている監視カメラをふと見てみたら発見してしまった。以前に家に招いた時は一時間前にいたからまさかな、となんとなしに見てしまったが最後だ。気づきたくなかった。二時間前だから全然用意できてないんですがガロ君。
こっちにも一応用意というものがあってだな……。あと普通に玄関前に立たれていると不審者だからね。

存在に気付いてしまったが、玄関に迎えに行くことはしない。
約束の時間は私が司政官の職務が終わった後、つまり夜だ。そして昼間は過ごしやすい気温だとは言え、夜になると寒い。頑丈なガロも二時間待っていたら冷えてしまうだろう。
そう考えると、ガロを中に入れてやりたいが、入れられないのだ。
何故かといえば――ガロが申し訳なさそうな顔をするからだ。以前一時間前に来た時に発見して中に招いたら、明らかにしょんぼりした顔をしたのだ。なんだそれ、だったらそんな早く来るな。と言いたい気持ちを抑え、慰めた意味の分からない思い出だ。
ということで今回は家に招きたい気持ちを抑え、二時間準備に費やす。一応これガロのお祝いなんで……複雑ではあるけどちゃんと可愛がってるんで私は……。

きっと早く来たけど二時間前だしちょっとコンビニでも寄ろうみたいな、玄関前でずっと待ってるわけないやろ、二時間も。と希望的な憶測をしつつ食事の準備などを終えて、約束の十分前になったので再び画面を見てみる。
そこには変わらぬ様子で立っているガロの姿が。
う〜〜〜〜んまさかね〜〜〜〜まっさかね〜〜〜!
抱えた頭をもとに戻して、司政官顔で玄関まで迎えに行く。ガロの前では完璧でなければならない。というか一人以外の時は完璧じゃないといけないから司政官は大変だ。

「ガロ、来ていたなら声をかけてくれればいいのに」
「旦那! すまねぇ、楽しみすぎて少し早めに来ちゃいました!」
「はは、そうかい。さぁ、中に」
「はい!」

鼻と耳を赤くしたガロが元気よく返事をする。
うーーーん少しかぁ。二時間前は少しとは言わないかなぁ〜〜〜〜。
そう言いたい気持ちを押し込めて、ガロを中に案内する。と言ってもこの家に来るのは初めてではない。祝いの時はいつも家で話したいとガロが言うので以外に多くの回数、彼はここに訪れている。
勝手知ったるなんとやらで、靴を脱いで綺麗に整えた後に私の後に着いてくる。あと、何故か私の靴までそろえてくれた後に履いていない靴を靴箱に入れてくれた。うん、確かにそれは履く予定はないけど、そこまでしなくていいんだよガロ。

リビングまでやってきて、机の上に並べられている食事にガロが目を輝かせる。
せっかくの就職祝いだ。豪華にしてやりたいと色々頑張った。元料理趣味の女を舐めんな。
七面鳥からピザ、スパゲッティにステーキ。ちゃんとサラダもあるぞ! まぁ男二人なので素直にお洒落というわけではないが、お腹いっぱい美味しいものを食べるのが良いのだ。
で、目を輝かせていたガロだが、すぐにしょんぼりとした顔になる。出た、しょんぼりガロだ。
何故かといえば、理由は分かっている。すでに用意が終わっていたからだ。
これも前にやった。というか今まで気づかなかった。このガロ、やって来た時に準備が全部終わっているのが気に食わないようだった。なので、今回はちゃんと用意しておいたのだ! これはガロのお祝いだからな。致し方ない。

「ガロ、食器と飲み物の準備を手伝ってもらっていいかい」
「!――分かった!」

ぱっと顔を上げたかと思えば、嬉しそうに頬を綻ばせたガロに内心でガッツポーズをとる。
ほらな、やっぱりこれだ。ガロはお手伝いがしたかったのだ。昔のことを思い出してよかった、ガロは手伝いが好きな子だったからな、前にしょぼんとした理由はこれだと思っていたのだ。
本来ならば祝われる側のガロにさせるべきではないのだが、本人がこれで喜ぶのならやらせてあげたほうがいいだろう。うん、そう思うことにしたのだ私は。
ガロに手伝ってもらいつつ、食事の用意を終わらせる。机の前にある横長のソファに座り、ガロを見てみるとガロもそそくさに私の隣にやってきて――なぜか床に座った。

「……ガロ?」
「ああ。何食べたい? 俺がとるぜ」

……いや、ソファに座ろうよ。
そういえば前の時と部屋のレイアウト変えたんだよな。前は普通の高い椅子だったけど、ソファに変えて床にカーペットを敷いたんだ。
ガロは……地べたに座りたい派なのかな? いやでもソファあるし……ソファふわふわだよ……?
食べやすいようにと小皿を二人分用意していたのだが、そのうちの一つを持って待機しているガロ。目がキラキラしている。

「……じゃあ七面鳥を少し」
「了解!」

鼻歌まで歌いつつ、七面鳥の肉を切り取って乗せてくれるガロにものっすごいこれでいいのか感で胸が痛む。
いやこれ祝われてるの私なのか? 違うよな。ガロだよな。就職祝いのはずなんだけどな。
よそってくれた小皿と一緒にフォークを渡してくれるガロ。複雑なまま受け取ると、何か伺うようにじっと見つめてくるガロ。なんだ、今度はなんなんだ。

「食べないのか?」
「あ、ああ。食べるよ」

あ、食べるのを待ってたんですか。はい食べます。

「お、美味しいよ」
「そっか!」

いやそうじゃなくて。美味しいからガロも食べなさいって。
流石に目を瞑って空を仰いでしまう。元々細目なので違いは特にないけど。
内心、深い深いため息をついて、再びガロに向き直る。
ガロは相変わらず目をキラキラさせてこちらを見ている。うーーーーーーーーーーん。

「ガロ、これは君のために作ったんだよ?」
「作ったって、旦那が?」
「ああ、だから君に食べてほしいんだ」

ほら、君のためだから。はよ食べなさい。
目を瞬かせて驚いているらしいガロに、一口食べればそのまま食が進んでいくだろうとフォークで自分の皿に乗った七面鳥の肉を一欠けら刺し、それをガロへと差し出した。

「ほら、食べてみなさい」
「え、あっ」

口元へフォークを伸ばせば、なぜか背が反らされて若干の距離が開く。
それに表には出さないものの流石に眉間に皺を寄せたい気分になった。これは!ガロのために!腕によりをかけて!作ったものなんだよ!いいから!食べなさい!
苛立ちの中で出した声色は思ったより固くなってしまった。

「口を開けなさい」
「っ、は、はい……」

ビクリと揺れた肩と、畏まった言葉にやってしまったと顔を覆いたい気分になりつつ、大人しく命じられたままに動いたガロの口の中にフォークの先を入れる。
口を閉じた後にフォークを差し引けば、彼はゆっくりと顎を動かした。喉仏が動いて飲み込んだのを確認した後、ガロの顔を見てみればなぜか赤らんでいて室温が高いのかとバレない程度に首を傾げる。

「美味しいかい?」
「お、美味しいです……」
「そうか、それは良かった」

自分はソファに座っていて、ガロは床に腰を下ろしているために丁度良い位置に頭部があった。ので、なんとなくそこに手を置いて頭を撫でる。
ガロは少し声を上げた後に黙って撫でられ続けている。と思ったら傍にあった足へと抱き着いてきた。うお、なんだなんだ。

なんだか体温の高いガロと、その行動になんとなく昔を思い出す。今は座っているせいだが、昔は身長差からガロはよく足へ抱き着いてきたな。もしかしてガロは甘えたかったのだろうか。それならそれと言ってくれればよかったのに。
とりあえず今のところは頭を撫でるのを継続して、少し落ち着いたらソファに座らせて食事を楽しもう。早くしないとせっかくの食事が覚めてしまうだろうし。
ガロの年々おかしくなる行動も、こうして考えると甘えたいのが空回りしてるだけなのだろうか。いやそれでもなんかおかしいなと思いながら、空いた左手で小皿に乗った七面鳥を食べつつ、右手を左右に動かし続けた。

prev next
bkm