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暖かな手
どうもクレイ・フォーサイトです。
アニメ映画プロメアで主人公の敵として立ちふさがる悪人兼善人の立場なんですが、今は頑張ってガロを養っています。いや、ちゃんと計画も進められるように人脈と金を得ている最中ではありますが。
ガロの家は他のバーニッシュによって燃えちゃったし、博士は反バーニッシュ過激派のせいで亡くなってしまったので……やるしかなくなりました。もうほんと悲しいし辛いし投げ出したいけどそれはそれとして。

実は映画とは異なる、かなり重要なことがあったりするのだ。
何かといえば――主人公の性別だ。
映画プロメアでは主人公は筋肉のついた元気のいい青年だった。はずなのだが。


「ガロ、調子はどうだい」
「旦那……」

大きな丸い目はうっすらと涙の膜が張っているようで痛々しい。
ベッドでシーツにくるまって丸まっている姿はミノムシのようでいて、しかし抱える痛みはよくわかる。

「痛み止めは飲んだかい」
「飲んだ……けどいてぇ」
「そうか。膝を蹲ってしまうと血流が悪くなってしまって余計辛くなるから、少し体制を変えるか」
「そうなのか……?」
「ああ。ほら、手伝うよ」

介護をするようにゆっくりとガロの身体を動かす。
持ってきたクッションを敷いて、そこに腰を下ろさせた。もう一つのクッションをお腹に持たせて、それを抱えるようにさせてやる。確か、前世ではこれが一番楽な体制だった。
いつもの様子が考えられないほど弱弱しく礼を言うガロの頭を撫でる。

そう、主人公ガロは今、絶賛生理中(重)――ここではなぜか女の子なのである。
今はまだ本編前、14歳なのだが、もう生理は始まっているので月一でこのような状態になってしまう。私はといえばそろそろ司政官に就任しそうなのだが、一番つらい日にはこうして世話ができるようにできるだけしている。ガロはまだ子供だし、何しろ生理が重いのだ。可哀想すぎる。ずっと看病しててあげたい。
絶対に副作用なしで症状を良くする画期的な薬作るからね、待っててねガロ……!

正直、主人公が女の子である故の本編との乖離は分からない。だが、私はやるべきことをやるしかない。そのあとのことはそのあと考える! ぬはは!
そして今やるべきことはガロのお世話だ。薬を飲んだから暫くすればマシになるとは思うが、即効性というわけでもない。
クッションと一緒に持ってきたトレイの上に置かれているホットミルクを手に取る。
身体が大きいから一度に色々持ってこれるのは便利だ。

「ガロ、ミルクはいるかな」
「……いる」

零さないように。と添えてガロに手渡す。火傷をしない程度に冷ましたそれを、ガロはちびちびと飲み始めた。
私も前世では女だ。生理の辛さは少しはわかる。何しろ、男になってよかったと思うのは生理が来なくなったことだからなぁ。月一で身体に不調が訪れて血が大量に出るとか、大変だし辛すぎる。
ガロが少しミルクの残ったコップを渡してくる。受け取って残りを口にして、トレイに戻した。と、戻したところで昔の癖でガロが残したものを飲んでしまったことに気付く。いやいや、ガロも年頃なんだからこういうのはやめないと。
自分を戒めつつ――今の私は成人男性なのだから――だからといって気にするのもあれだろうと何事もなかった風を装う。

「旦那」
「なんだい」
「背中、お願いしてもいいか……?」

おずおずとお願いしてきたガロに、安心させるように頷く。
背中、というのは彼女が辛い時にいつもしている背中を撫でる動作だ。体調が悪い時によくやってあげている。
断ってベッドに腰かけると、彼女がもぞもぞと隣に移動してきた。二人でベッドに腰かけて、彼女の背をゆっくり撫でる。

「……旦那にこうしてもらうと、痛いのが無くなる気がする」
「それなら私も撫でがいがある」
「なんだよそれ」

ふはっとガロが笑う。うんうん、ようやく笑みが見られた。
私もつられて笑う。やっぱりガロは笑顔がよく似合う。
この子の未来のためにも、パルナッソス計画を完成させなければ。いや、完成させちゃまずいんだけど。でもきっとガロが消火してくれるはず。無理だったら地殻内にクレイザーXで自分ごと突っ込んでやる。最強バーニッシュ舐めんなよ。でも成功するか分からないし自分は死ぬだろうから最終手段である。

暫く撫でていると、だんだんとガロの首がもたげてくる。
それに、撫でるのをやめて出来るだけ揺らさないようにベッドに横にさせた。
眠気に逆らえず、目を閉じた彼女の頬を指で軽く撫で、おやすみと声をかけてベッドから腰をあげた。

「クレイ……」
「ガロ?」
「……行っちゃ、やだ」

私の背景で火山が噴火する描写が現れなかっただろうか。
可愛すぎる……いや、ガロは辛いのだから萌えている場合ではない。
でも、最近は私が忙しいのを察して甘えてくれることが少なくなった彼女。こうして頼ってもらえるのは正直物凄く嬉しいのだ。お母さん嬉しいわ娘よ……。
勿論その場に座りなおして、ガロの手を握る。そうするとふにゃりと顔が弛緩するのだからあんまりにも可愛らしい。

「――」

ガロの口が僅かに開いて、何か言葉を形作った。ように思えたが、音は聞こえずガロはそのまま今度こそ眠りに落ちてしまった。
短い単語だったが、なんだったのだろう。水、とかだろうか。ちょっと違うような気もする。何か持ってきてほしかったのだろうか。
起きた時に改めて聞いてみようと思いつつ、可愛らしい養い子の寝顔を眺めていた。


起きた時に改めて聞いてみたら、顔を真っ赤さにされた上に「寝言だから!」と断言されて聞けなかった。
もしかして「ママ」とか言われちゃったのかなぁ。えへへ。

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bkm