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推しカプは最高だな!(死)
私の名前はリオ・フォーティア。聞き覚えのある人もいるかもしれない。そう、アニメ映画『プロメア』でマッドバーニッシュのボスとして活躍し、主人公と共に世界を救ったキャラクターだ。
色々と説明は省くが、私はリオ・フォーティアとして生まれた。つい最近までその自覚はなかったのだが、なんとなく違和感はずっと感じていた。何か自分が知っているかのような。その感覚に突き動かされ、マッドバーニッシュのボスにまでなったが、不完全燃焼のプロメアを完全燃焼させ世界を救った後にその感覚の正体に気付いた。前世の記憶がよみがえったのだ。全てが終わった後に思い出すというのはなんだか意図的なものを感じてしまうが、ハッピーエンドに終わったのだから深く考えるのはよそう。

そんな私だが、今とても不味い状況にある。

「リオ、お願いだッ、この通り!」
「何度頭を下げても駄目だ! 絶対に許さないぞ!」
「それを、この通り〜〜〜!」

深々と頭を下げて、青いトサカをこちらへ向けて両手で合わせるガロに、溜息が出る。
このやり取り、夜の七時からやっているから、もう一時間経つ。
私はあの後、ガロのアパートに仮住まいをさせてもらっている。ゲーラとメイスは一緒に住んでいて、最初はそちらで暮らさせてもらおうと思ったら三人だと狭いだろうからとガロに引き取られたのだ。
それから数か月経ったが、なんだかんだとガロとの共同生活はうまくいっていた。今この時までは。

「この通りだ! 俺とリオが監督になればクレイも普通の家で過ごせるってとこまでようやくこぎ着けたんだよぉ!」
「だから! どうしてそこに僕が入ってくる! 監督役ならガロだけで十分だろ!」
「そこはほら、元マッドバーニッシュで世界を救ったリオにって……あと俺だと一応は身内だから一人じゃ信用ならねぇって……」

下げていた頭を上げて、いじいじと指を突き合わせ始めたガロに頭を抱える。
どうしてそこまであいつを牢屋から出したいなどというのか。クレイ・フォーサイト、バーニッシュたちを実験台にし多くの犠牲を出してきた。村をも破壊し、更には自分の師匠であったデウス博士まで殺した男だ。今は大罪人として牢屋に収監されているが、プロメポリスを作ったのはあの男であるといっても過言ではなく、政府は男の処遇を決めかねているようだった。
そんな中で動いたのがガロだった。ガロはあの男に普通の生活を過ごさせてやりたいらしい。

「そもそも僕に頼むなんてどうかしてる。一緒にいたらあいつを殺しかねないぞ」
「リオはそんなことするやつじゃねぇ」

ガロが真っ直ぐに、青い虹彩の中に赤い炎が灯った瞳を向ける。すごい、断言されたぞ。
背の高いガロを睨みつけ返してみれば、続けてガロが口を開く。

「それに、クレイとこのままちゃんと話し合えないまま終わるなんて嫌なんだ。昔みたいに一緒に暮らして、本当のクレイのこと知りてぇんだ」

少しだけ苦しそうな面持ちに、思わず目を細める。
ガロは真剣だ。あんな酷い仕打ちをされて、それでもクレイ・フォーサイトを正面から見ようとしている。これまでの英雄としてではなく、対等な人間として。
私は、手を握りしめた。そうしないと振りかぶってしまいそうだったからだ。
ガロ、私と地球と、あの男を助けると断言した青年。
私は、前世で映画プロメアが大好きだった。それは、この青年の焼き付くような光があったからだ。素晴らしい物語、そこに輝く主人公。しかし、もう一つ惹かれたものがあった。それはまるで遅効性の毒のように後から私を引き付けて、そして魅了した。
クレイ・フォーサイト。決して映画の中で本音を口にしなかった男。したとしても、その感情は読み取れず本来の想いを自らも察せていない疑惑のあるキャラクター。真っ白な司政官の服に身を包み、しかしその中には燃え盛るプロメアの炎と薄暗い過去がある。
だが、そのクレイを、彼自ら世話した主人公、ガロが助け出す。二発の拳は深い想いとこれからの希望。野望が消えた男はやっと背けてきた光と向き合うだろう、そう、それが贖罪なのだから。

うっ――尊い、ガロクレ尊い……死にそう……。

「そんなに、そんなにあいつと一緒にいたいのか……」
「ああ! 今まではクレイのことなんも分かってなかった。ちゃんと向き合いてぇんだ」
「あんな、酷い仕打ちを、受けたのにか……」
「そりゃあ、思うところがねぇって言ったら嘘になる。けど、ようやくちゃんとした本音が聞けたんだ。でもそれで終わりにしたくねぇ」
「ガロは……ガロは、あいつのことを、どう思ってるんだ……?」

今までの話の中でも心臓にダイレクトアタックをかまされること幾多。正直ヒットポイントがマイナスに入りかけているが、それでも聞かねばならない。
ガロ・ティモスは、クレイ・フォーサイトのことを、どう思っているのか。
ガロは僅かに目を伏せた後に、光る瞳で告げた。

「……尊敬してる。この都市をここまで育て上げたのはクレイだ。……あの人が、俺をここまで育ててくれたのはホントのことだ。確かにわりぃことはしたが、しっかり償って、次に歩き出してほしいんだ。そんで、できればその姿をすぐ近くで見てられりゃあ、最高だな!」

太陽のように笑うガロに、私はなんと答えればいいのか。
ああ、プロメアよ。この一瞬だけ戻ってきてはくれまいか。今、心臓が破裂して四肢が断裂して死にそうなんだ。死因は尊死になるだろう。
ガロは笑顔のまま、更に言う。

「そこに、リオもいてくれればそれ以上嬉しいことなんてねぇ」
「(うああああああああああああ私だって間近でガロクレ見てたいけどそんなことしたら命がいくつあっても足りないから拒否してんのにガロお前ってやつはあああああああああ!!!)〜〜〜〜〜ッッ、わ、かった。ただし、僕は僕の好きにするから、な」
「本当か!? 流石リオ、三人で新生活頑張ろうぜ!!」

その場で飛び上がったガロと、言ってしまった口に手を当てて後悔する私。
だが、目の前で文字通り飛び上がって喜んでいるガロを見ていると、これで良かったのかもしれないとも思う。が、同時にほわんほわんりおりおで思い浮かんだガロクレに心臓が鷲掴みされたような尊さで死にかけた。

くそ、私の明日はどっちだ!?

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bkm