- ナノ -

昔の貴方とこんにちは2
産まれた時もそうだが、説明というのは周囲は往々にしてくれないものだ。
だってそれが当然だと思っているから。赤子から質問は飛んでこないし、わざわざ教えることだって勿論しない。必要ないと思っているからだ。
でも、実際は必要に感じている赤子だっているのだ。必要な人間だっているのだ。
はい。私です。

えっと、確かに私はさっきまで七歳児だった。いやほんとまじでそうなんだって。
鏡でみた身体だって七歳だったし、スクールに通っていたし、同級生と頑張って交流していたし、親に頑張って甘えていたし、スクールの勉強だって簡単すぎて唸りながらも頑張っていた。
なのに、なのにだ。

どうして私は成人男性の身体になって、左腕がなくて、首に拘束具をつけられて四角い牢屋に入れられているんだ。
あの後、医者のような人々から膨大な量の質問を受けた。
最初は名前から始まり、年齢、住所、親の名前、スクールの名前、場所、etc.
途中で頭が可笑しくなりそうだった。大きいを通り越して巨大な身体、低い声、存在しない左腕、向けられる警戒心と猜疑心。ストレスでどうにかなりそうだった。

しかし、一通り質問が終わるころには、なんとなく事態は理解できていた。

これ、本編後の世界では?
今度は憑依かと思ったが、なんだか違う気もした。目が覚めた時の会話にも事態把握の糸口がある。

――投薬は完了している、目を覚ましたか
――心拍問題なし、意識は、あり

投薬、というのは何かの薬を体内に入れたのだろう。そして完了している。
何かの実験台にされていた? それか、何かの作用を期待して投薬された。
心拍問題なし。それによって死ぬ可能性は考慮されていなかった。死んだら意味がなかった。
意識を確認し、名前を尋ねる。そして確認された事項には、私が映画で知った知識があった。

そして今の私の状況。質問の内容から、ここが別惑星などではなく地球であることも把握した。
なら、ここは――本編後、消火後の世界なのではないか。と結論づけた。
そして――これは本当に憶測なのだが――私は、投薬によって記憶を消されたのでは、ないかと。
それか憑依。いや実際憑依の方が真実味がある。一度転生した身としては。

ここまでどうにか混乱しまくる頭で考察してみたが――もうほんと分からん。
誰も説明してくれないし、聞いてみても無視されるし、皆すっごい冷たいし。
牢屋に入っているし、首の拘束具痛いし、何もすることないし。ご飯はまずいし。

正直、泣きそう。産まれたてじゃないのに。
説明は絶対に、必要なんです。相手が分かっていなさそうでも。分かってたりするんです。

もうこれ受け入れるのに十年かかる。
これずっとこのままなの? 絶望しかない。辛い。
クレイ・フォーサイトの人生どうしようと苦悩していたけど、これはマジでそういうのとび越えている。辛すぎる。
牢屋の中での移動は自由のため、部屋の隅で小さく丸くなる。
床や壁は鉄というより四角で形成された室内で、映画でガロが収容されていた場所を思い起こさせる。
……そういえば、ガロってどうなっているんだろう。
本編後なら、普通に元気にリオと暮らしてるんだろうけど。
私はクレイ・フォーサイトだけど、彼と出会う前のクレイ・フォーサイトだし。

「……」

思考が途切れる。何も考えたくなくなる。
全部を放棄してしまいたい気がする。
目の前の景色が灰色に染まる。
私が一体何をしたっていうんだよ、こんちくしょー。

prev next
bkm