- ナノ -

七歳児ですが七歳児ではありません
記憶喪失ネタ


「クレイ! 大丈夫か!」
「……え?」

いつの間にか目の前には青い髪のモヒカンヘアーの亜種みたいな髪型をした青年。
その奥には電気がついていて、どこかの建物の中であることは分かった。
と、同時に頭が混乱する。なぜだ、何故、彼がここに?
途端に痛み出した頭に思わず手を置きながら、どうにか青年に助けられながら上半身を起こす。
眼前には相変わらずのモヒカンヘアー亜種の青年。心配そうに瞳を震わせてこちらを見る彼に、内心冷汗を大量に流しながら問いを投げかけた。

「ここ、どこ?」



「バーニングレスキュー……」
「クレイ、本当に覚えてないのか?」
「……残念ながら」

眉が下がり切った青年に、思わずこちらの申し訳ない気持ちになりながら内心溜息を吐く。
どうやら私、何か分からんけど記憶が吹き飛んでしまったようです。

私の名前はクレイ・フォーサイト。年齢は七歳。はい。七歳です。
まだ初等教育中の身である。ではどうしてそんな落ち着いてるし言葉遣いが大人びているのかといえば、事実大人だからだ。というか大人だった。
前世を覚えているといえばわかりやすいか。記憶や経験を受け継いだまま生まれたのだ。あと、実はこの世界のことも生前から知っていた。『プロメア』という映画があり、その世界とほぼ同一だったのだ。
そこではクレイ・フォーサイトは黒幕?悪役?として大活躍していて、それを自分もやんなきゃいけないのか〜嫌だな〜と思っていたのだが……まさかこんなことになるとは。

話を聞くに、ここは本編後の世界らしい。
地球は主人公たち、ガロとリオにより青い炎に包まれ、完全に鎮火した。そして一万人と共に船に乗り四光年の彼方へ旅立とうとした司政官は捉えられ、裁判にかけられた。復興に忙しいプロメポリスの中で、それでもガロは必死に減刑を訴えたらしい。そして結果としては終身刑ではあるものの監視という名目で保護観察と同じような境遇になっているらしい。なんだそれ、と思ったら元フォーサイド財団の職員たちの尽力や一万人に選ばれた選民たち、更には選ばれてはいないとしてもここまでプロメポリスを作り上げた司政官を見捨てることができないものたちの尽力があったとか。最終的にはクレイ・フォーサイトも折れて、司法取引を繰り返してそのような現状になったとかなんとか。おお、随分恵まれてるな未来の私。

それで、ちょうど奉仕活動の一環としてバーニングレスキューの仕事の手伝いもしていたらしく(主にガロたちの現場の補助やロボの改良らしい)それが私が今この施設にいる理由らしい。
で、なぜ記憶が吹っ飛んだかといえば、ガロ宛に送られてきた包みが原因だった。茶色の紙に包まれて紐が巻かれたそれを、ガロが警戒心なく開けようとしたところを私が「この馬鹿が!」といいながら奪い取った瞬間に爆発したらしい。わーお。
幸いかなり小規模なもので、義手の左手で持っていたため直接的な怪我はなかったが、数メートル吹っ飛び激しく頭を打ち付けたのだそうだ。

で。今。左腕の義手は壊れてしまったため外されて、中身七歳児のクレイ・フォーサイトの出来上がりである。おいおいちょっと待てよ。マジか。

助け起こしてくれたガロに場所をきいたら、速攻で医務室に連れていかれて手当され、ルチアという少女(見たことある。バーニングレスキューで整備士をやっていた子だ)に色々質問されつつ質問仕返し、どうにか状況を理解できた。うーーーんどうしようなこれ。
いや、どうしようって言っても記憶はいずれ戻るだろう。というか戻ってもらわないと困る。なう七歳児なんで……七歳児何も知恵とか持ってないんで社会奉仕できないんで……。
まぁ、由縁のある場所とか人とかと話せばいつか思い出すということで。

「どんな状況かは分かった。戻るまでなるべく迷惑をかけないようにさせてもらおう」
「迷惑かけないようにって……なんか、すげぇ冷静だな。本当に記憶忘れてんのか、クレイ」
「ああ、君のことは知らない」
「そっか……」

少しばかり俯いた彼に、やっぱり申し訳ない気持ちになる。
うう、私が悪いわけじゃないのに。というかたぶん私、ガロ助けるために包みを奪い取ったよね。よくやったと言わざるを得ないが、そもそもガロが包みを開けようとしなければよかったのでは。いや、何をどういっても仕方がないが。
思わず慰めたくなるものの、残念ながらそれはできない。
何故かといえば、私の言動に理由がある。話を聞くに、私はガロに結構冷たいらしい。まぁ色々あったからね、素直になれないのかもしれない。あとキャラ付け的なあれもあるのかもしれない。私だったらいきなり素は出せないから本編後でもだんだんと出していくだろうし。いや恥ずかしいでしょ〜〜司政官やってた中身がこれじゃあさ〜〜〜。
先ほどの経緯でも「この馬鹿が!」とかいいながら包みを取り上げていたらしいし。つまりそういう態度なのだろう。と、するといきなりここで私が「ガロさんは悪くないよ」とか言い出したら「えっ、誰……」ってなるでしょう。いや誰おまなのはそうなんですけど。ほら、それだと記憶戻ったときの私が恥ずかしくなるでしょ。

ということで記憶は全くありませんが、私はガロ君には塩対応で行きます。あと周囲にも冷静キャラでいきます。恥は晒せん。今の私のために。

「質問内容の回答から考えるに、六歳から七歳あたりの記憶に戻ってるみたいなんだけどねぇ〜」

クリップボードに挟んだ紙をペンでコツコツ叩きながらそう言うゴーグルの少女にちょっと冷汗が垂れる。

「そうなのかクレイ?」

隣に座って、私の顔を覗き見る彼に何と応えようかと内心呻く。
素直に七歳です。なんて言ってもこの見た目だし――なんて言ったって筋骨隆々の左腕のないオールバック三十路――七歳児のノリで話すのはちょっと、いやかなり辛い。今の私もたぶん辛い。

どうしようか悩んでいたら、医務室の扉が開かれた。

「ガロ、そいつの調子はどうだ」
「特に外傷はねぇけど、やっぱり記憶が飛んでるみたいでさ」
「そうか。混乱はしてないのか?」
「ああ。すげぇ冷静」
「腐っても元司政官か。どれぐらい前の状態なんだ?」
「六、七歳ってどころよ〜」
「……は?」

バーニングレスキュー隊服に身を包む美少年が胡乱な目がこちらを向く。うわ怖い。
それにどういう顔をしていいかわからず、とりあえず仏頂面で返してみた。

「……嘘だろう」
「なによ、あたしの診断が信じられないっていうの?」
「そういうわけじゃないが……」
「ま。まだ緊張してんじゃないの? この子からしたら皆知らない人でしょ」
「そうなのか?」
「……」

またひょこっと顔を出してきたガロに、やはり何と言っていいか分からず口を噤む。
緊張は、まぁちょっと。ルチアの言う通り一応知らない人ばかりだ。だが全く知らない人というわけでもないので、変に警戒したりもしないが。

「警戒しなくてもいいというのは、なんとなくわかる」

それだけボソリと呟けば、ガロは少し嬉しそうな顔をしてそっか。といった。
ガロ君……その顔ちょっとむず痒いからやめて……。

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bkm