- ナノ -

あなたは英雄3

耐火構造素材、凍結弾。プロメテックエンジン。
研究に参加したものの、僅かな助力だけだ。全ては彼が完成させたといってもいい。
デウス・プロメス博士。本物の天才。正真正銘の奇才。研究を第一に考える、バーニッシュ対策穏健派の一人。

「君、最近雰囲気変わったね」
「そうですか?」
「うん。なんか固くなったよ」
「まぁ、色々ありましたから、少しはしっかりしたんじゃないですかね」

そういうと、プロメス博士は私の義手になった左腕を見て、そうだね。といった。
プロメス博士は手元のボタンを回す。そうすると、機械内の温度がボタンの数字に合わせて上昇していく。耐火構造素材の実験だった。
博士の見られた左腕を動かす。義手は、博士が下さった。研究に不便だろうと言って、伝手を当たって作成したものを渡された。ピッタリと嵌り、動くそれはスムーズで普通の腕と変わりないようだ。
肌色の保護シートのお陰で、旗からみれば腕を失ったとは思わないだろう。この世界は世界大炎上のせいで、そういった技術が発達していた。怪我人や四肢を失った人々への治療や機械。僕が一時期、検討していた研究内容だった。

「この温度にも耐えますか」
「うむ。いい調子だ。これなら1500度でも五時間は耐えられる」
「早く、完成させなければいけませんね」
「そう急ぐな。急いては成果も出ないぞ」
「……すみません。そうですね」

機械の小さな小窓から漏れる炎に照らされて白髪交じりの髪の色を変える博士の後姿を見つめた。

「けれど、これが実用化されれば」
「ああ。だからこそ、検証が必要だ」

どこまでも研究者な博士は、実験と結果に拘る。
成果に固執しない。実験が失敗なら、それもまた結果として発見に繋げる。
けれど、けれど――それが、実用化されていれば。

「クレイ」
「……はい」
「地殻のマグマについての調査はどうだ」
「はい。国からの調査結果からすると、やはり世界大炎上時から温度が急激に上昇しているようです。バーニッシュたちがマグマを活性化させているという推測で、研究を進めています」
「確かに二十二年前の世界大炎上の時もバーニッシュたちが火山を噴火させたことがあったな。しかし、根本の原因はそこではない」
「と、言うと?」
「マグマが活性化している理由は、もっと別にあるということだ」

振り返りこちらを見上げた博士は、その目を爛々と輝かせていた。
隠しもしない。学者としての知的好奇心からの期待と究明心に心躍っているのがよくわかった。
もっと別の『何か』を見つけたい、知りたい、考究したい。それらが透けて見えるようだ。


――きゃらきゃら――


耳元で、笑っている。
もうすぐ会えるよと、囁いている。

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bkm