- ナノ -

炎の色は2
クレイさんと住み始めて暫く経ったんですが……。
なんだこのチキンレースは。
はちゃめちゃに怖い。怖いというか不安というか心配というか、なんだこれどんな感情なのかも分からんぞ。
とにかくクレイさんの心理状態がやばい。正直病院行ってほしい。
いや、確かにそうなるのはわかるのだ。
突然バーニッシュになってしまって、しかも事故とはいえ人の家を焼いてしまった。世間はバーニッシュには冷たいし、あの事故で私の両親は死んでしまったからそれがバレてしまえばもう社会復帰は、恐らくできないだろう。そのストレスは半端ないだろうし、左腕はなくなってしまったし。
更にはその事故で生き残った子供を引き取って世話をしているんだから……正常な人間だったら人格が歪むぐらいなのはなんとなくわかる。というかなんで引き取ったんだクレイさん。
……いや、それもわかる。炎を見れば。
贖罪とか、罪悪感とか、そういうのから引き取ったのだ。わかる、分かるよクレイさん。でもね。

(私を見るたびに罪悪感と同時にどす黒い感情を募らせられると胃が痛いんですけど〜〜〜!)
「どうしたんだいガロ。あまり食事が進んでないみたいだけど」
「あっ、う、ううん。なんでもない。ありがと、クレイ」

時間も経過して、クレイさんは私をガロ。私はクレイさんをクレイ。と呼ぶようになった。
けれど、心の距離は一向に縮まらない。それどころか開いていくばかりだ。

何故かといえば、このクレイさん、どんどん拗らせていっているのだ。
最初は罪悪感だけだった私への感情が、どんどんと憎たらしさとか、忌々しさとか、そういうのが付随されていっている。いや、確かに、ね。自分の犯した罪の象徴みたいだもんね。見てるの辛いよね。わかるよ。わかるけどならなんで引き取ったの! うん引き取ったときは罪悪感だけだったもんね! 見ているうちにってやつだよね! くそぅ!

もうどうすればええや。精神病院進めればいいですか。わかりません僕……。
内心ため息をつきつつパンを口に運んでいれば、クレイさんの心配そうな声。

「体調でも悪いのかい」

あ、これは本当に心配している。炎がゆらりと心配に揺らめいたからだ。
……いい人なんだよな、クレイさん。ただバーニッシュになってしまっただけで。
心配気にこちらを見やるクレイさんに、笑顔を向ける。

「ううん、大丈夫! 夕飯作ってくれてありがとう、クレイ!」

だから私はこういう事しかできない。
クレイさんは少し黙った後に、そうか。と笑ってくれた。炎はまだ少し揺らめいてはいるものの、少しは安心してくれたらしい。
その炎に、逡巡したあとに口を開く。

「クレイさ、その、家事とかもっと俺も手伝うから、クレイも無理、しないでね」

時折消え入りそうに苦しんでいる炎を見ると、どうしても心配になってしまう。
難しいかもしれないけど、無理はしないでほしい。そう思ってしまうのはだめだろうか。
チラリとクレイさんを伺えば、口を閉じて私をじっと見つめていた。
炎が視界に映り、ぎょっとする。

黒と赤と黄と青と――色々な色が集まって、見たこともない色になっていた。分裂しそうなほど別の色が反発しあいながら燃え盛っている。
よ、よくわからないが――感情がやばいのは分かった。
暫く怯えながらクレイさんの様子をうかがっていれば、クレイさんはその炎を燃やしながらにっこりとした愛想のよい笑みを浮かべた。ひえ。

「分かった。ありがとうガロ」

今にもその口から炎を吹き出すんじゃないかと思われるほどの燃え盛りっぷりに、私はただただ首を上下に動かすことしかできなかった。

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bkm