いや、正直父が養子に入って曹氏になったところからしてなんか聞き覚えあるなぁとはなった。でも私は吉利のことはずっと吉利という幼名で読んでいたし、こんな無邪気で愛らしい子供があんなカリスマの塊みたいになるとは……なるとは思わないじゃないですかぁ!
役職を貰って上京した吉利。頭もいいし礼儀も驚くほどしっかりしているから、きっと大物になる、ただ吉利は真っ直ぐだから蹴落とそうとしてくる奴に対しては全力で叩きのめしなさい。と自分ではできないことを無茶振りして見送ったはずだった。
吉利は本当にいい子で、年を重ねても変人な私のことを兄として尊敬して敬ってくれるし、頭も良くて飲み込みもとても早かった。私なんかよりも全然賢くてできた子で絶対大物になるなぁと思っていたほどだ。だが私の言ったことは全部信じてしまうし、ちょっと注意すると重く受け止めて次から絶対にしないから危ういとも思っていたのだ。素直すぎると社会に出た時に嫌な目に合うんじゃないかと。そんないい子だったから心配ではあったが、良い報を待っているよと言って手を振ったのだ。
ちなみにその時に私も推挙されていて、何遍も吉利に一緒に参りましょうと言われたが断った。え?薄情?いいだろべつに!私は家を継ぐという使命があるんで!!継ぐも何も家にいるだけやけどな!でも一族栄えさせるから!何卒!!地位とかほんまに要らんから!!今のままで十分だから!!
あ、でも観光には行きたいからその時は迎えに来てほしいな!
というわけで青年な吉利を見送って数年後、立派に髭の生えて曹操の姿になった吉利が何故か私を迎えに来ました。なんでややめてや。
前家に戻ってきた時は髭なんてなかったじゃんか!!髭なんて剃ってしまえ!!うわーん!!
「兄様?」
「ん、ああ。なんだ?」
「どこか上の空だったようですが」
「ああ……お前も立派になったものだと思っていただけだ」
「私など兄様に比べればまだまだです」
見た目は完全に若い曹操なのに中身は吉利なのほんとどういう仕組みなの。っていうか人間ヒゲを生やしたらこんなに変わるもんなの? やっぱりヒゲを剃ろう。そうしたら吉利に戻る、戻ってくれるはず。
思わず吉利及び曹操の顎に手を伸ばす。そのまま触れた髭の感触に崩れ落ちそうになった。
……付け髭とかでもない……。
なんでや!前までは剃ってたやん!なんで伸ばしたんや!
「どうかされましたか?」
「……髭を生やすようになったのだな」
「はい。今までは剃って参りましたが、兄様が生やしておりましたので」
って私のせいかーーい。
実は私は周囲に何を言われても髭は伸ばさないでいた。いやだって不潔やん。なんで頭に毛があるのに口にも毛を生やさないといけないんですか。あと女性時代の名残です。自分の口に髭があるとちょっとうわってなるやん。
だったのだが、ちょっと前に父から「いい歳した男なんだから口ひげ生やせ」と言われて仕方なく生やした。いや不衛生であるとか色々理由をつけて剃ろうとしたんだけど「お前はこの家の長男だろう!」とか説得されちゃうとさ……。自分家守りのヒキニートなんで……。
そういえば前に家に帰ってきた時に私の顔見て驚いた顔してたな。ヒゲがない吉利の顎を触って羨んでいた日が懐かしい……。って、たしかその時、衛生面では褒められたものでは無いが短くなら良いだろう、威厳も出る的なことを吉利に言った気が……あーーーだから髭短めなんですねーーーーいやーーーびっくりだわーーーー!
「似合いませぬか?」
「いや、男前になったな」
いやそんなこと言われたら似合うっていうしかないでしょ。しかも真似してくれたわけだし。あと普通に似合ってるし。まさに曹操って感じでな!!!
ということで即答したら嬉しそうにはにかむ吉利。いや〜〜〜〜〜〜見た目完全に曹操だけどやっぱり吉利ですわ〜〜〜〜〜〜もしかしてガワだけ変わったりしてない?というかそうであってくれ。
しかし本題に入らなければ。忌々しい髭を触るのはいい加減やめて吉利に問いかける。
「それで、私を迎えに来たとは?」
「はい。この度袁紹の檄文にて董卓を討つこととなり申した。我らが軍の大将に兄様を頂戴したいのです」
……………………………………ぱーどぅん?