- ナノ -

動画で切り取る君の本音
腐女子です




どうも、宗方京助でっっっす。
いやあ死んだと思ったら突然生まれててビックリしましたよオドロキですわ。
驚きすぎて生まれた瞬間に泣き声が止まって死にそうになったみたいで両親からはいまだにそのことを言われます。待って待って、京助恥ずかしい。
そんでもって白い髪色と宗方京助という名前でピーンときましたよね。これダンガンロンパですやんって。そして私は直ぐに行動をおっぱじめましたよ。でないとこの世界絶望で一色になっちゃいますからね。流石にちょっと未来がそんな鬼畜ルートになるのは遠慮したかったのでね!!
まぁいろいろ行いまして登場人物たちはみんな元気に過ごしています。江ノ島さんもねー。いやぁ自分から知り合いになるのは怖かったので周囲の人間を動かして性格矯正しました。やれば出来るもんだね! この体、流石原作で超高校生級の生徒会長と言われていたこともあって超高スペックでした。プラス前世知識と原作知識って言うチートがあったためどうにかなったというか。
まぁそれはそうと、私は多忙な少年期を終えてようやく高校生です。やっとだよ!!
それまでが修羅のごとく忙しかったので普通の学生生活が出来ておらず、高校生活が初めてちゃんと行う学生生活なので、もううっきうきのどっきどきです。
当然のように希望ヶ峰学園ですし、超高校生級の生徒会長であります。祝辞やんなきゃ恥ずかしー。
勿論裏でやってるもろもろは駆逐してあります。全くもーそんなんやるからあんなことになるんです。人道的に行きましょうね^^。

そんなわけで高校生やってるわけなんですけど、原作と同じように雪染ちさちゃんと逆蔵十三君とお友達になりました。うひょー! 原作で親友になるキャラたちだーーーそして恋慕抱かれる子たちだーーー!
雪染ちゃんは超高校生級の家政婦、逆蔵君は超高校生級のボクサーだ。そして二人とも、原作では宗方君に恋をしていた。ふふふ、二人とも、ですよ……。
そう! 私は男! つまり女の雪染ちゃんはともかく、逆蔵君もということはーーー? そう!! 公式が!! やってくれました!!!
腐女子歓喜! スタンディングオベーション!! しかし悲しい事に、逆蔵君はその恋心を江ノ島に利用されてしまい、本編の中で自分の気持ちを伝えられぬまま死んでしまうのですねーー。しかも疑心暗鬼に陥った宗方に刀で刺されてしまうというもうハートフルボッコ展開。辛み。
そんな逆蔵君の境遇に腐女子は泣きました!! そして出る大量の二次創作! 歓喜! しかし本編は絶望!! でも腐女子は報われないのも好き!! 歓喜!!!
そんなわけで勿論、腐女子だった私も好きでした、宗逆。幸せになって……。生存IFでも転生パロでもいいから……。死ぬ直前まではまっていたのがそれだった。つまりこの世界に来てから自分が宗方であること、そしてダンガンロンパの世界であることを知れたのは宗逆のおかげ。やはりBLは正義だったか―――。

でも残念なことに、この世界では宗方は私のなのです。
つまり原作のように両手に花展開、雪染ちゃんが宗方に堂々と好意を寄せてその様子を切なそうに眺める逆蔵君とか、宗方に秘めたる恋をしていることを自己嫌悪に陥って静かに涙を流す逆蔵君とか、バレンタインデーに雪染ちゃんが宗方にチョコを渡しているのを見て、ひっそり買ってきたチロルチョコを渡せずに自分で食べる逆蔵君とかが見られないわけなんですわーーーー!!! 残念!!! 全腐女子落涙!!!!

あ、でも奇跡は起きて二人は私の友達になりました。やったね。
予定調和のように生徒会長になった私と、その職務を生徒会の人間ではないのに手伝ってくれる二人。今日も今日とて放課後に書類整理が残ってしまい、それを二人に手伝ってもらっている最中ですたい。

書類に目を通しながら、紙の隙間から前の机に座り、書類を分けてくれたり付箋を付けてくれたりしている二人を見る。なんというか、

「二人と友人になれてよかった」
「えっ、何言ってるの京助! 驚いちゃったじゃない!」
「そうだぞ。いきなりどうした?」

まるで突然触れられた小動物のように顔を上げた二人に笑みが零れてしまう。
いやだってそうだろう。私、中身宗方じゃないのに、二人と仲良くなれたとか、奇跡だと思うよまじで。

「俺は正直この才能がなかったらただのダメ人間だからな……。そんな俺と二人が友人であるという事実に今更ながら感動していたんだ」
「京助がダメ人間だったら私たちどうなっちゃうのよー」
「おう。チリかゴミだぞ?」
「ちょ、それは言い過ぎ!」

チリかゴミなんて言い出した逆蔵に、まとめられた雪染がそれはないと抗議をしている。
それを逆蔵が適当にいなしていて、その姿が微笑ましくて涙が出そうになる。
ああ、本当に少年期に頑張ってよかった。青春捨ててよかった。この二人のこんな姿を見られるだけで、私生きててよかったと思えるよ……。
思わずスマホを取り出して二人を激写していた。カメラ音に気付いた二人の首がぐるんとこちらへ回り、その挙動に思わずびくつく。

「ちょっと京助! また無断で撮って!」
「俺たちなんか撮ってなにが面白いんだお前は」
「いや……すまん。なんかこう、猫がじゃれてるみたいで可愛くて……」

二人には言っていないが二人専用の秘密フォルダがあったりする。二人の可愛い姿を納めたフォルダで、時折見ては癒されている。ああ、天使かこいつらかわいい鼻血でるわ。

「もー京助ばっかりずるい! 私にも京助撮らせて!!」
「俺を撮っても意味ないだろ。もうちょっと二人で喋ってていいぞ、撮るから」
「そんなこと言われて喋ってられるか!」

ああんそんなノリが悪い! いいさ、次から動画にするから。
ピロン、という音を発して動画がスタートされる。それに写真だと思ったらしい二人が一斉に顔を隠したり下を向いたりしたが、ふん、残念動画だ。

「分かった分かった。もう写真は撮らないから」
「……もーほんと? 女の子はね、決め顔以外撮られるのを嫌がるのよ」
「雪染以外の女子は別に撮らないし、その知識は要らないな」
「も、もぉ!! 何言ってるのよ京助!」

顔を赤く染めながらぷんすかと怒る雪染はすこぶる愛らしい。
もう可愛い。ほんと可愛い。動画でずーーーっと撮影し続ける。ほんと可愛い。
というか、ここまで来ると分かると思うが、なぜか私は雪染に恋慕染みた感情を向けられているようなのである。これで勘違いだったら爆発ものだが、バレンタインデーには本命だろうこれ、という丁重なお菓子を赤面した顔でいただくし、結構アピールとかをされている。デートに行こうとお誘いを受けることもあるし、外見がいいのは自覚しているが中身がこれなのにいいのか? というのが正直なところであったりする。

逆に勘違いだったら傷ついたりもしなくていいんじゃないかなーと思いつつ、動画の行き先を逆蔵君に向ける。
もーーー彼は本当に出会った時から運命というか『リアル逆蔵君キターーーーー!!』という感じで所見から鼻血が出そうだった。だって逆蔵君やないかーーーい。マジ天使か。筋肉質の天使か。
もう未来編見てたらそう思うしかないだろほんと辛い。
生きて動いているのが尊くてしょうがない。尊い。いやそれ言ったら雪染もなんだけどね?
とりあえず生きているのが尊い。やばい死ぬ。
と、確認でチラ見した画面に映った逆蔵君が何処か憂いた顔をしていたハッとしてしまった。
目を細めて雪染ちゃんと見ていて、僅かに上がった口角とそれに比例するように下がった眉が彼らしくない。いつもは仏頂面で、笑う時も悔しがる時もしっかりと感情が外ににじみ出ていて、身体の動き、顔の表情に直結する彼にしては珍しい表情だ。

……でも、実はこの表情、時折私は見ている。
といっても発見してしまっているといった方が正しいのだが、私と雪染ちゃんが話している時とか、私と二人きりでいる時とか、きっと私が気付いていないと思っているのだろう。そんなときにこんな表情になっている。本人も気付いていないのかもしれない。誰も見ていないと思って隙が生まれてしまっているのかもしれない。
それは――その表情はまるで――

宗逆の二次創作で見る切ない受け逆蔵きゅんの表情に酷似していて正直心のち○こを刺激しまくっててやばいんですけどおおおおおおお!!!!
うおおおおおおさかくらきゅん!!!!! がわいい!!!! ぎゃんがわ!!!! ひいいがわいい!!!! 死ぬ!!!! 死んじゃう!!!! なんでそんな切な可愛い顔するんですか!!! 何でですか!!! 私宗方だけど宗方じゃないんですけど!!!!!

「あーもう。私ちょっとお花摘みに行ってくるね」
「ああ。分かった」

お花を摘みに行ってくるという雪染ちゃんは乙女である。流石である。前世の私だったら好きな男子の前でも普通にトイレって言っちゃうわ。
雪染ちゃんを見送った後は、教室で二人きりになる。別段珍しい事ではない。雪染ちゃんが女友達に呼ばれたりしたら大体私と逆蔵君の二人きりになる。他に友達がいないわけではないが、そもそも希望ヶ峰学園は定員が少ないので共に行動するメンバーは固まることが多いのである。

「逆蔵、お前も撮られるのは嫌いか?」
「あ? 嫌いっつーか、好きではないな」
「そうなのか? いつもボクシングの試合では写真を撮られてるだろう?」

超高校生級のボクサーである高校生にしてチャンピョンベルトを何個も会得しているボクサー選手である。その強さは筋金入りで一人で何十人と戦っても勝利を収めることが出来るだろう。
まぁそんな逆蔵君は、私たち三人の中で一番の有名人だったりする。外に出たらサイン求められたりとかよくするし、こっそり写真を撮られたりすることだって日常茶飯事。それを威嚇するところまでがいつもの流れなのだが、それでも勝利したときはフラッシュの嵐だろうし、スポーツ雑誌でもよく取り上げられているのを見る。勿論欠かさず買ってるよふふふふふふふふ。

逆蔵君は片眉を上げた後に口を開く。

「そりゃあ仕事だからな。断れるもんじゃねーし」
「……そうだな、それに嬉しそうな顔をしている」
「なっ、なんだよ。見たことあんのか……」
「そりゃあ友人の活躍が載っている雑誌があったら買うぞ」
「ッ、そうかよ……」

しおしお、と反論の言葉を少なくして言ってしまった逆蔵。
出会った当初はもっと反抗的というか、結構噛みついてきていたりしていた。
雪染ちゃんと逆蔵君との会話は最初に出会った時からあまり変わっておらず、男友達と女友達、という感じで対等に見える。
が、私との会話は最初の男子高校生同士と言った会話から何故か主導権がこちらにあるような話し方になっていってしまっている……気がする。
別に、仲が悪くなっているわけではないし、変わらず笑ったり言い合ったりということもあるのだが、どうにも距離が離れてしまった感が否めない。
それを意識するたびに、私の心の中のち○こは暴れまわっているわけなのだが……。
でも、私がいくら宗方といってもそれは外見だけであって、中身はそうではないのだ。
だから逆蔵きゅんが私に恋をしているわけはない。いや、でもワンチャン逆蔵きゅんが宗方の外見に恋をしていたら――ってんなわけあるかい! 逆蔵きゅんは宗方が希望だから恋をしたんだ!! でも宗方の外見も好きだと思うよ逆蔵君は!!! ふへへ!!!

恥ずかしそうに目を逸らしている逆蔵きゅんが激シコなわけだが、ここで一つお願いをしてみる。

「それで、俺のカメラにも映ってもらいたいんだが、どうだ?」
「結局そっちに話が行くのかよ……」
「ああ。雪染と逆蔵の写真はいくらあっても足りないぐらいだからな」
「……雪染は分かるとして、なんで俺の写真なんか」
「そりゃあ――」

好きだから。
といったら、流石に引くだろうか。
好き好きアピールをしてきていると思われる雪染ちゃん。アピールをされて私は悪い気はしていない。だって雪染ちゃん可愛いし、家政婦で気が利くし、正直理想の彼女だろう。
そんな彼女からアピールをされたら世の男は誰だって嬉しいだろうが、私は前世と違って男だ。顔は宗方京助なのでよろしいが、それでも面と向かって男友達に好きだから、なんて言ったら流石にあれではないだろうか。
なんとなく私という宗方に恋をしている確率が高い逆蔵きゅんだが、確定しているわけでもないし、ただたんに憧れとかそういう有り難い感情なだけなのかもしれない。
ここで勘違いしてしまっていたら恥ずかしいにもほどがあって穴にも入りたくなるから深く考えないようにしているわけで、ここで自分の欲のままに本心を告げるのはよろしくないだろう。

逆蔵をじっと見つめる。絡み合った視線の先で、瞳がどこか不安そうに揺れているのが見えて、ああ、好きだなぁとしみじみ感じた。

「可愛いからだよ」

男に対してこれもどうなのか、と言った後に思った。
ここはかっこいいからとかにすべきだった。やっちまった。でも中身が私だからしょうがないよな――。なんてことを考えながら逆蔵君の反応を待っていた。
数秒経って私の言った言葉の内容をかみ砕いたのか、驚いたように目を見開いた逆蔵君。
それから小さく口を開けて眉を顰めたのをみて、おっと怒られるかな? と焦ったら、だんだんとその顔が赤らんできてハッとした。

ああ、この子は。
この子は私に恋をしているな、と。


「ば、馬鹿かよ、何言ってんだッ……!」
「……ああ、すまん」

それはあまりにも一瞬で、逆蔵君は次の瞬間には書類で顔を隠してしまっていた。
紙の向こう側にいる逆蔵君の顔は窺えない。
一言謝ると、紙の向こうから声がした。

「……別に、謝ることじゃねーけどよ。そういうのは雪染に言ってやれよ」

先ほどとは打って変わって落ち着いた声は、本当の逆蔵なのかと疑ってしまうほど数秒前の動揺した声色と異なっていた。
ともすれば、さっきまでのは勘違いだったかと思うほどの豹変ぶりに、少し恐ろしさを感じた。

そうやって、あの世界も、今までも隠し通してきたのかと。
私はダンガンロンパを知っているから、逆蔵君が宗方にどんな想いを抱いてきたか知っている。だからこそ私と関わる中での微細な表情の変化にいちいち反応をしたり妄想したり悶えたりしていたが、知らない人間にとっては全く持って気にならないというか、気付かないことだろう。
それは家政婦という能力を持っている雪染さえも分からなかった気持ち。

「そうだな」

逆蔵君の言葉にとりあえずは同意しておいて、書類の向こうの彼を眺める。
何も言わずに書類を読んでいるように見える彼からすれば、もうこの話題は終わりということなのだろう。紙の向こう側で、もしかしたら、顔を歪ませているのかもしれないと思いながら。

ピロン、と音を立てる。
それに逆蔵君が持つ紙が揺れて、やっと顔がお目見えする。

「おいっ、さっき話したばっかりだろ。何やってんだ」
「ふふ、すまない。やはりやめられそうにない」
「ったく、それに書類しか映ってねーだろ」

書類から姿を現した逆蔵君は呆れた顔をしていてどう見てもいつも通りの表情だった。
それに笑って返事をして、書類しか映っていないと逆蔵君が思っている動画の画面を眺める。

「いいや、そんなことないさ」
「ただいまー。書類進んだー?」
「いや、話してて全く進んでないぞ」
「もー、じゃあちゃっちゃと進めて終わらせちゃいましょ!」

逆蔵君が訝し気な顔をするが、丁度雪染ちゃんがトイレから戻ってきて席につく。
それを合図に会話は終了して、また書類整理が開始された。逆蔵君も書類に目を通し始めて私はひっそりと動画に間違っても消してしまわないように鍵をかけて置く。

あまりにも赤裸々な決定的瞬間を納めた貴重映像だ。間違ってもなくせるわけがない。
今後どうしていこうかと書類を整理しながら考えていれば、いつの間にかよだれが出そうになっていて慌てて口を拭った。

ああ、やっぱり宗逆って最高だよね!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


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bkm