- ナノ -

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「――い、ずく?」

腕の中から、勝己君の声がした。
体中が痛い。あちこちが擦り切れて、血が出ていると分かった。頭は縁石にぶつけたし、もしかしたら縫う羽目になるかもしれない。汗が滑り落ちるように生暖かい何かが頭から流れている感触がする。

トラックが迫っているのを見て、その場から飛び跳ねて勝己君を抱きしめた。そのままゴロゴロと勝己君を抱きしめたまま公園とは反対側の縁石まで勢いに任せて転がっていったのだ。
体中が痛い、痛い。つまり――生きている。

それが分かって、どっと冷や汗が全身から噴き出てきた。
生きている。生きている。良かった、本当に良かった――自分が生きていて、本当に良かった。
死んだかと思った。また死んでしまったかと思った、しかも同じ死因だ。また轢死するところだった。
腕の中から私を見てくる小さな子供。彼も擦り傷があるが、そこまで大きな怪我はない。
それを見て、頭の中が爆発したかと思った。

「このクソガキ、いきなり飛び出して――」
「飛び出して! 死ぬつもりかお前は!!!」

大人の男の罵声のようなものが聞こえたが、そんなもの自分の感じている怒りの前では意味をなさなかった。
腕にいるこの子供は、死にに行ったんだ。自分から、それで、私は巻き添えで死にかけた。

「道路を渡るときは左右を確認するって、先生から教わっただろ!!」

目を合わせながら怒鳴りつける。相手が涙目になっているとか、怯えているとか、そういうのはどうでもよかった。
頭が悪いわけじゃない。道路の危なさをわかっていないわけじゃない。だってのに、なんで、どうして飛び出したんだよ。現に死にかけて、バカじゃないのか。
慣れない大声で叫んで、喉が痛んだ。ゲホゲホと咳き込んで、ポロポロ涙を流し始めた勝己君を見て、自分の痛む体を想って、どちらも生きていると再確認した。
疲労がどっときて、膝たちもつらくなり、そのまま勝己君を抱きしめて体重を預けた。

「心配、かけさせないでよ……」

チクショウ、最悪だ。クソ。なんで私はまたこういうバカなことをしてしまってるんだよ。
生きててよかった。怪我しなくてよかった。勝己君が、無事でよかった。

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bkm