- ナノ -

07
三歳となり、幼稚園の子供たちは個性が段々と出てきている。
生まれながらに個性を発現させていた子達もおり、段々と個性がない子供たちの方が少なくなってきていた。
そんな中、やはり彼にも発現時がやってきた。
いつものように私が読書をしているところで邪魔にし来た――というわけではないが、本を読むのはやはり遅くなる――勝己君と一緒に本を読んでいた時。
勝己君が手をこすり始めて、首を傾げていた。それにもしやと思って本を片付けたのだ。

「なんだよ。本読まねーのか」
「読むけど、それより手、どうしたの?」
「なんかムズムズする……」

グーパーと手を動かしている勝己君の手の平から、なんとなく甘い匂いが漂ってくる。それと同時に何か焦げ臭さ。
私の予想は当たっていたらしい。これはきっと個性の発現だ。爆豪勝己の個性は爆破、手からニトロのような物質が出てきてそれで爆破させる。正直、彼の個性は自分で操作できていなかったらかなり危険な部類の個性だ。漫画では幼少期、すでに発現当初から自分の思い通りにできているようだったが、ここでもそうだとは限らない。
本が燃えてもらっても困るし、彼や私が怪我をするのも困る。なので一つ助言をする。

「もしかして『個性』じゃない?」
「おれの個性!?」
「うん。手から何か出せるんじゃない?」

そう教えれば、目を輝かせて両手を凝視し始めた勝己君。
無邪気でいいが、個人的にはもしもの為にバケツに水でも汲んできたい気分だ。今のところは経過を見ようと、隣で観察していれば、ブスブスという音が勝己君の両手から出てきた。

「わかった!」
「えっ」

ボンッ! という音と共に勝己君の両手が爆発する。
それに目が丸くなった。なるほど、この子は天才だ。満面の笑みでこちらを向いた顔、そして両手からボンボンと爆破が起きて、煙の臭いが鼻をくすぐる。
彼の個性は危険だ。だが、一つたりとも彼を傷つけはしていないし、何かを壊したりしていない。それどころか、何度も手の中で爆破されるごとによって、遊び道具のように手の中で表現を変えている。
この世界に来て『個性』アーティストというのものテレビや本で見た。そういうものに通じる器用さが彼には生まれつき備わっているとその扱いを見て思う。

「……良い『個性』だね」
「ほんとか!?」
「うん。流石だよ。かつきくん」

無邪気に笑う勝己君は、本当に嬉しそうだ。
見せつけてくるように爆破させる勝己君は、実際見せつけているのだろう。褒めてほしい、そういう顔をしていた。それに、彼が満足するぐらい褒め称えて、そして騒ぎを聞きつけてきた先生に事情を説明した。
幼稚園の先生ももちろんその個性を褒めていて、いつの間にか将来の夢がヒーローになっていた勝己君はそれに鼻を高くしていた。

「とうぜんだろ! 俺はヒーローになるんだからな!」

前に話を聞いたら、街中で偶然見たテレビでオールマイトが苦戦している中でも敵を倒したところを見たと言っていた。具体的には言葉に出していなかったが、今みたいに目が輝いていたから憧れたのだろう。
とりあえず、これで心配事はなくなったか。色々な子にも褒められたり羨ましがられたりしている勝己君を眺めつつ、椅子に置いた本を持って再び広げる。
『無個性』の私は、将来の為に知識をつけましょうかね。
文に目を通していると、本に影が出来て見づらくなる。デジャブだ。
顔を上げると、そこには輝かしい顔をした無邪気な子供。煙の臭いを漂わせながら、私に告げる。

「いずくも早く個性だせよな!」
「……そう簡単にはいかないよ」
「バカ言うな! ヒーローになるためにトックンすんだぞ!」
「……」

子供らしく可愛らしいことを言う彼に、思わず口をついて出てきそうになる。
『もし、私に個性が発現しなかったら。どうする?』言えるわけがないけれど。無個性と判明する前から虐められるのは私も嫌だ。

「楽しみだね」

周囲がどう掌を返すか、面白おかしく待ってないと怖くて震えそうだよ。

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bkm