刃と刃が打ち合い、火花が散る。
目線は確実に相手の急所を追い、そして獲物は敵を殺そうと迫る。
流石将軍というべきか。その所作全てに殺気が籠っている。
そして――そして。
「(なんでそれが俺に向けられてるのおおおおお!)」
髪を掠めた朴刀を、槍で打ち払う。
っていうかなんで!? なんで俺、惇に殺されそうになってるの!? なんで惇!? 惇なんで!?
もうなんかやばい。絶望しかない。俺、惇にそんなに嫌われてたのかな。
だってこれ訓練なのに惇本気だよ。うう惇。なんでだ惇。惇惇惇惇とーん!
しかし、こうも殺気を出されて殺されにかかると、こっちも本気を出さざるを得ない。
刃を打ち返し、こちらからも追撃する。槍の切っ先が夏候惇へ迫り、その衣服の数センチを掠めていく。
血は出ていなかった。
そこへ視線が集中していれば、そこに隙が生まれ刃が肩を切ろうと迫る。
咄嗟に回避し、そのままの動作で流れるように槍をその心臓へ――
「終わりだ」
心臓――その正面へ槍の切っ先を指示したまま、夏候惇の手首を掴んだ。
「……」
丁度左側にいる俺の姿は、夏候惇には見えていない。左目部分には眼帯があるだけだ。
何も返答がない、ということは肯定だろう。
手を離し、その場から歩き出した。部屋に帰ろう。訓練はもう十分だ。
「おい、待て」
「……」
背へとかけられた言葉に足を止める。
でも俺は早く部屋に帰りたい。
「なんだ」
出来るだけ早く用事を済ませてくれと願いながら声を出せば、夏候惇は少し沈黙した後に言った。
「なぜ、昔のように振る舞わない」
「……分かり切ったことだろう」
寧ろ、どうしてそんなことを聞くのかと聞き返したいぐらいだった。
それだけならとまた足を進めれば、後ろから声。
「生江! ……明日も、来い」
来い、というのは訓練場へということだろうか。
なんだろう。惇は俺に殺気を向けるくせに、また来いっていうのか。
「あぁ」
でも嬉しいのでそう返しておく。
少し怖いけれど、勝手に人の急所を狙う癖さえどうにかすれば、きっと大丈夫だ。
それに、俺に倒される程弱くない。弱くないけど。
「(腕、震えてるし)」
怖いって。
また俺が原因でどっかが使えなくなったら、俺たぶんその場で目覚めようとしちゃうって。