- ナノ -

18,「久方ぶりだ。俺とやれ」
あ、あ、あ……危なかったぁぁぁぁ!!!!
思わずうなずいてしまう所だったぁあああ!!
くそ、郭嘉にそんなこと言われたら一二もなくいくいく絶対行くって言っちゃうに決まってんじゃんかああああ! 
でもまだ仕事残ってるんだよ!! 曹操が真面目に仕事してないのに、今までちゃんと仕事してた俺までふざけたら仕事辛くなるのお前らなんだからなぁあああ!!

あーもう郭嘉好きだー昔みたいにぎゃーぎゃー言いながら遊びてぇなぁ。郭嘉は叱るでもなく呆れるでもなく、一緒に楽しんでくれるんだよな。俺が郭嘉に伝わらないこといっても、いつの間にか意味理解してたし。

さっさと仕事終わらせよう。それで訓練でもしよう。
またいつ戦が起こるか分かんないしな……俺が助けた命も、もしかしたら反乱とか……考えたくない。けど、もしかしたら、そういうことも――。

「……終わった」

考え事してたら結構早く書類整理が終わった。
書簡をまとめて、ちょうど通りかかった文官に頼んで賈クたちの元へ運んでもらうように頼む。
そういえば徐庶は軍師たちが集まっていた部屋にいなかったけど、自分の部屋で策でも練ってたのかな。
いや、でももう戦もないし、策とかじゃなくて、政策かな。頭よさそうだし、なんでも出来るんだろうな。うらやま。

訓練所に行って郭嘉の誘いを断って溜まった鬱憤を晴らそうと、当初考えていた通り武器を持って外へ出る。
今回は槍である。どの武器でも使えるので、適当に選んだだけだ。が、やっぱ趙雲かっこいいよね。
でも関羽の青龍偃月刀も槍っぽ……いやあれ大刀か。

そんなわけで訓練場に来てみれば、噂をすればなんとやら。

「徐庶か」
「ッ、生江、将軍」
「折角だ。付き合わせてもらおうか」
「えっ、あっ、わ、分かりました」

うーん、小役人じゃない徐庶だから、もっとこう、堂々としてていいと思うんだけど。
なんか俺に対してすごくびくついてないか? なんで? というか、動揺してる?

徐庶もちょうど訓練中だったらしく、自前の武器を振るっていた。
あ、これは覚えてる。あの小刀の方が腹にぐさっと来たんだよなぁぐさっと! あはははあれ痛かったな!
あの時は旋棍だったなぁ。懐かしい。

「準備はいいか」
「……いいですよ」
「まず最初に――その小刀の紐から切ろうか」
「!」

目を見開いた徐庶は、そんなことを言われるとは思っていなかったようだ。
これでも覚えているものは覚えているのだ。覚えてないのも多いけどな!

驚いている内にスタートを切らせてもらう。咄嗟に動き出したが、それでもテンポが遅い――この勝負勝った!!



「――夏候惇」
「何も武器を壊すことはないだろう」
「……そうかもしれないな。すまんな徐庶。少し昔を思い出し熱くなったようだ」
「い、いえ……」

驚きも露わにしている徐庶に、それはそうだろうなと思う。俺も驚きすぎて通り越して真顔だ。
だっていざ勝負!ってところで夏候惇が間に入ってくるとは思わないだろう。流石に。流石に。
それに綺麗に俺の武器を夏候惇の朴刀で抑えてるし。こ、こいつ……できる!

武器を下せばこちらを残った右目で見る夏候惇。
うーーーん。やっぱり、夢じゃない、かぁ。
そう思うと、あーーーーうーーーーん。目がなぁぁぁぁぁ。俺のせいなんだよなぁぁあぁぁあぁ。
じーーーーっと見つめていれば、夏候惇が朴刀の切っ先を向けてくる。え、え、なになになに。ご乱心!?

「久方ぶりだ。俺とやれ」
「……そうだな。夏候惇とも久しく刃を交えていない」

というか。目の事があってから基本俺は夏候惇とあんまり交流を持っていなかった気がする。
それどころじゃなかったってのもあるし、夏候惇だって忙しかったし。訓練だって他の相手だってごろごろいた。
夏候惇も――なんとなく、俺の事避けてた? 喋った覚えがあんまりない。私的なこと話しても直ぐに会話途切れたし。うわ俺たちもしかして仲良くない―――!!?? えっ嘘だろ俺たち親友だよな、な、な!?

戦々恐々としつつ、槍を握る手に力を籠める。
だ、大丈夫だ。それはきっと今この場ではっきりする。
というか、あれじゃん。惇ちゃん俺にこっぱずかしい事言ってくれたじゃん。大切な仲間って!
そうだよ大丈夫だよ惇ちゃん俺の事大好きだってうん。

……も、もしかして誰にでも言ってる!? う、嘘だろ!? う、浮気者ー!!

「すまないな徐庶。また後にしていいか」
「それは、勿論。邪魔する気はありません」
「すまんな」

徐庶と夏候惇の目線が合う。
そして二人とも謎の頷き。

……え? 何それ? え? 俺たちアイコンタクトで通じてますよー的な?
な、ななななな、何それぇ!! 俺にはそういうのなかったよね!? 全然伝わってきてないよ!? 何話してるの何を目線で通じ合ってるの!!??

酷い! 俺だけ仲間外れだ!! こんなのってないよ!! 曹操に言いつけてやる! しないけど!!

「やるか」
「あぁ」

夏候惇が朴刀を構える。俺もそれに合わせ、槍を構えた。
もうこうなったら実力行使だ。訓練で、俺たちの仲が谷底よりも深い事を証明してやる……!!
泣いてなんかない! 泣きそうでも、俺の十数年培ってきたポーカーフェイスは崩れない!!

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bkm