- ナノ -

どうやら我が主はかなり優秀なお方らしく、刀剣はほぼ揃っていた。
だというのに私だけがなかなか顕現せず、演習などで見るたびに気落ちしていたらしい。そうして縁のあるものを傍に置けばどうだろう。との三日月の提案で日本号が引っ張りだされてきたというわけだったようだ。
ふふ、しっかりと私と縁があるものリストに載っているとは。苛立たしくも嬉しい限りである。
どうやらこの身体、へし切長谷部の感情やら記憶やらしっかりとあるらしく、もう自分が元からへし切長谷部だったような感覚で物事を考えるようになっている。そもそも女だったころの名前も忘れてしまっているので、中々どうして自分は死んだのではないだろうかと思えてきた。

まぁそんな暗くなりそうな話題は置いておいて。私は今、主ちゃんの近侍(きんじ)としてあくせく働かせていただいている。四六時中主ちゃんと一緒だよ! 嬉しい!! 大体目の前にパソコンがあるけどね!!!
どうやらこの主ちゃん。書類仕事が苦手であり、尚且つ機械類が苦手なようでパソコンを使わずに報告書などは全て手書き、更に進みも遅いので大量の書類に苦しめられていたのだ。
ここで助けなければ刀剣の名が泣こう! 
早速私はレベル上げの関係上、隊長になっていた立場を利用し審神者部屋へと入り込みパソコンの説明書を見つけ出し、パラパラと読み、かなり機能的になったもののそれでも現代のものとさして変わらないという事実を確認。更にちょっとこれ触ってもいいでしょうか的なノリで主ちゃんの許可を得てパソコンを操作、更にこれこうやったらどうでしょう的なノリで書類をちょちょいのちょい! はっはっは! 一日の半分以上を事務仕事に費やしていた喪女を舐めんなよ!!
そうしたら主ちゃんに泣いて喜ばれ、その後からは主ちゃんの熱烈なお願いにより近侍として書類を捌くお仕事をするようになりました。

さて、今まで溜めに溜めてきた書類もそろそろ終わりを告げる時間のようだ。
ふふ、今こそ年貢の納め時――これで終わりだッッ!!

「終わったああああ!」
「お疲れ様です。主」
「わああああ長谷部さんのおかげだよおお!」
「いいえ。主が頑張られたからです」

わーん! と涙目になりながら抱き着いてくる主ちゃんの人肌を堪能する。
ああ、全てはこの時の為に……! ハァハァ主ちゃんの人肌あったかいよぅうへへへへ。
あ゛ーーー仕事の終わりのアニマルセラピー最高だわぁー……。
気付かれない程度にすんすんと匂いを嗅ぎつつ抱きしめあっていると、あっ! と何か気付いたらしい主ちゃんが顔を上げた。え、何何? 流石にこれ以上追加の仕事は私もきついかなーなんて……いや、主命とあらば!!

「そうだっ! 今日は長谷部さんお出迎えの宴会があるんだよ!」
「は……宴会ですか」
「そう! 鍛刀で来るとは思わなくて、何も用意してなかったんだけど、今日ようやく用意出来たんです!」

ふんす。と息も荒く宣言する主ちゃんに、なるほどだから書類を今日までに終わらたいと言ってきたのかと納得する。
溜めに溜められた書類は、到底今日中には終わらないように思えた。そもそも主ちゃんが審神者に就任してからの一年間分を数日で片付けようというのが無理な話なのだ。
しかし主ちゃんの並々ならぬ意気込みに、私は決意した。主の命とあらば、書類整理も数日で仕上げましょう!
それから私は寝る間も惜しんで書類を片付けた。主が寝てしまった後も、主がもう疲れたから寝ようか。といってそれぞれの部屋に帰った後もひっそりと抜け出し部屋に籠って。ああ、主ちゃん。私の為だったんだね……!

「主……」

じぃん。と感極まってそのまま主ちゃんを抱きしめる。
わっ。と驚いた声を出す主ちゃんに癒されつつ、私の意識は彼方へ飛んで行った。

流石に三日間完徹は顕現したての身体じゃあ無理だったよ……。

prev next
bkm