- ナノ -

美味しい食事(BBB・スティーブン・チェイン♂成り代わり)
「チェイン、今日はどうする?」
「是非!」

スティーブンさんの素敵笑顔を拝みながら、尋ねられた言葉に訳知り顔で答える。
なぜならこのやり取りはちょっと前から行われていることだからだ。

「今日の夕飯はなんですか?」
「イタリア料理。嫌いじゃなかったろ?」
「勿論。寧ろスティーブンさんの作るもので嫌いなものなんて今までないですよ」
「そうか。それはよかった」

にこりと笑うスティーブンさんの笑みは、いつもの何を考えているのか分からない、よく言う腹黒い笑みだ。
それを受けながら、できるだけ自然に笑う。スティーブンさんが何を考えて私を食事に誘っていようと、嬉しいものは嬉しいのだ。

私の性別は男だ。しかし、前世と呼ばれる記憶では女だった。
そしてそもそも別の世界の人間だった。何を言っているのかという話だが、本当のことだ。
なぜそう断言できるのかといえば、私はこの世界のことを知っている。漫画という媒体で、この世界の知識を生まれる前から得ていたのだ。
だからこそ、驚いた。自分が人狼で、男で、しかもチェイン・皇という名前であることに、だ。
私の知識では、その場所にいるのは巨乳の美女で、スティーブンという男性に好意を抱いている乙女だったはずだ。
そんな彼女がいたはずの場所に、どうしたことか前世持ちで原作の知識があり、しかも男である私がいる。
最初は納得できなかったが、人狼という特殊な種族であるがゆえに、色々とあり、今ではすっかり開き直っている。それに男の人狼というのは珍しいらしく、そのせいで大変な目にもあった。もう開き直っていなければやっていられない。

そして開き直った私が行き着いた先−−それは。

「そういえば、ザップとレオは今日も夕飯一緒に食べに行くんですかね?」
「ああ。そういえばザップがレオに集ってたな」
「二人も仲良しですよねぇ」
「チェインもあいつらと一緒に食べたかったか?」
「うーん。楽しそうではありますけど、スティーブンさんからの誘いのほうが魅力的なんで」

男女の間、というものがない同性同士なので、時折レオから誘われたりもするが最近はスティーブンさんからの食事の誘いがあるので断らせてもらっている。だってタダだし、うまいし、スティーブンさん眺めてるだけで妄想がひろがりんぐだし。
それに、レオとザップという二人の邪魔をするのもあれである。二人の仲睦まじい様を眺めているのも悪くないが、スティーブンさんとの食事が終わった後に帰りに存在希釈をして二人の様子を盗み見るのが最近の日課になっているのでなかなかに涎ものである。
レオのアパートでそのまま寝ちゃうとかなにそれ朝ちゅん? 思わず二人の衣服を剥いでしまいたくなったのはご愛嬌である。
そう、私は前世、腐っていた。そりゃあもう腐っていた。そしてこの世界も勿論私の餌食になっていたのである。

「そういえば、スティーブンさんはクラウスさんと食事したりしないんですか?」
「ん? ああ、まぁ皆がいない時とかは二人で出かけたりもするかな」
「本当ですか!? ちなみにどこへ!?」
「どこって……そうだな。どっちかって言うと高めの店に行くことが多いかな」

やっぱりクラウスさんにあわせるんですね!! クラウスさん坊ちゃんだから! 貴族だからですかね!!
三男坊だから、長男気質なスティーブンさんに色々教えてもらったり甘やかされたりしてるんですね!! そうなんですね!!
ああーーーたまらんっっ!! 実際二人が付き合ってるとかはないことは存在希釈しての観察で確実だけど、それでも妄想はひろがりんぐ!!
ああッ、なんかの弾みで二人が実は互いのことを想いあっていて、両片思いみたいなことにならないかなぁ! それをじっくりじっくり凝視していたい! 進展がなかったり、俺なんか私なんかっていってじりじりする二人がみたい! 寧ろ男らしく、好きだクラウス! って言っちゃうスティーブンさんとか、愛しているのだ、スティーブン……とか恥らいながらいうクラウスさんが見たいいいいうおおおおおお!!
あ。ちなみに私はスティーブンさん総攻めです。腹黒副官スティーブンさんは圧倒的攻め。それ以外のCPならリバでもなんでもいけるが、スティーブンさんだけは前世から変わらず攻めだった。おいしいおいしい。

「チェイン、チェイン?」
「はっ! すいません、考え事を……」
「まったく、俺がいるんだから、無視しないでくれよ」
「無視なんてしませんよ! スティーブンさんを無視なんかできるわけないじゃないですか」

こんなに男前な男性(おいしい)を目の前にして、妄想の餌食−−ではなく目の保養にしない理由なんてないじゃないですか!!
背丈もちょうど同じぐらいなので、スティーブンさんのイケメンな容貌を見ながら力説する。
そうすれば、スティーブンさんは少しぽかん、という顔をして、いつもと違う笑みを浮かべた。




「あー……他人の話が出たからって嫉妬するって、僕やばいだろ……」
「ん? どうしました、スティーブンさん」
「いや、なんでもないよ」

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bkm