- ナノ -

レオの兄ちゃん(BBB・スティ?・転生トリップ)
neta血界戦線4にあるレオの兄ちゃん(全盲)


ミシェーラ、元気か? 俺の方は元気だ。
足は大丈夫か? 兄ちゃんたちは心配で仕方がない。でも、お前の事だからもしかしたら俺たちの代わりを早々に見つけてたりな! ……絶対に紹介しろよ。
俺の方は元気だ。レオと一緒にバイトに明け暮れる生活だが、中々に楽しい毎日を過ごしてる。
俺の目も見えるようになって、世界は白黒だが輝いてる。しかし容易にHLから出られなくなったのは痛かったな。まぁ機会を見て顔を見に行くからな。

俺は元気なんだが、レオが最近忙しそうでな。怪我をして帰ってきたり、挙句の果てには入院して何日も返ってこないなんてことがあったりするから兄ちゃん心配だ。まぁ前よりましな顔をしているから、悪い事じゃあないんだとは思うんだがな。ま、本当に危険なことになったら無理やりにでも手を引かせるから安心しろよ!


「こんなもんかねぇ……」

白黒に見える世界の中で、ペンの黒い線を眺める。
世界の白黒になったのはほんの少し前。家族と共にHL周辺にやってきていたら、兄弟たちと共に化け物に遭遇して、視力を失った。が、その後に俺の視力と引き換えに神々の義眼なんてものをはめられてしまった弟がHLに目を治す方法を探しに行くと言ったので(無理やり)ついていって、その先で視力がない人間でも世界を脳に映せるようになる機械を入手し、今の現状というわけだ。

俺の弟のレオは俺から視力を奪った形になったのを酷く後悔している。別に兄だし今は見えるんだし、そこまで気にする事も無いと思っているのだが、アイツは優しいからしょうがないんだろう。
そんな目元に特殊なゴーグルのような機械をはめている俺は、実は随分と前から自分の視力がなくなることを知っていた。いや、違うな。望んでいて、望んだ結果になった後の対処を考えていた。というべきか。

ここは、俺にとって漫画の世界だ。血界戦線という、この人生が始まる前に読んでいた二次元の世界。
死んだと思ったら生きていて、しかし赤子でと最初は混乱した。だが、事態を把握して弟と妹が生まれ、ここがその世界だと知った。そうしたらやることなんて決まってる。可愛い可愛い妹の視力がなくなるんて耐えられない。ただでさえ足が悪かったし、今後車椅子の生活になると知っていたのだから、視力ぐらいは残してやりたかった。
漫画の中で、それでミシェーラが苦しんでいたとか、そういう描写はなかったが、でも世界をもっと自分の目で見せてやりたい。
そこからは早かった。弟――レオナルドが神々の義眼を持つのは、ほぼ確実だ。じゃないと世界は血界の眷属に対する対抗手段が圧倒的に少なくなるし、そもそも物語も進まない。
ならば、その代償を妹から他に映してしまえばいい。そうして、出来れば弟の辛さも、少なくしたい。

『俺の目を奪え!』

恐怖はあった。しかし想定できた出来事だ。仲間外れにならなかったその場に喜びさえした。
そうして俺の目から視力は失われた。後悔はなかった。ただ、レオとミシェーラが泣いていたのがなかなか辛かったが。

そんで、結局俺の視力は白黒で、遠くの物は見えないで、ぼやっとしているが、それでも回復してる。
それもここHLの技術の賜物だ。俺だって考え無しに目を奪われたわけじゃない。魔術的な方歩で視力を失っても、見えるようになる方法を探していたのだ。HLの情報は少なく、外から探すのは骨が折れた。でも、見つけたのだ。
そうして危ないと主張するレオの言葉に耳を貸さず、レオと共にHLへやってきた。そして、予想通りそれはあった。
かなり高額で、しかも手入れを怠ってはいけないのでなかなかに面倒な生物機械なのだが、それでも見えるからいいのだ。目元へ嵌めて、そこから神経のようなものが頭に侵入してきて神経と機械とを直接つなぐ。そして機械で見た光景をそのまま神経から脳へ流すのだ。考えるだけで恐ろしいが、別に発狂も何もしてないので大丈夫だろう。
代償として、これまで貯めた全財産と、外へ出たら暴走するかもしれないからと内部へ留まる事になってしまったのは、完全なる想定外だったが。

「あーそろそろバイトの時間か」

全財産を使い切ってしまった俺は、レオと共にバイト生活に明け暮れている。
そこからミシェーラへの仕送りと、俺の機械の手入れ代。そして生活費と、なかなかに切迫してる。
レオが内容は明かさないが新たな仕事を始めてからは、少し生活も豊かになったが、贅沢が出来る程じゃない。
ま、その内容を明かさない仕事ってのも分かってるっちゃあ分かってるんだが、態々聞くほど野暮じゃない。

仕事場へ行く準備をして、オートバイにヘルメットをして跨る。
本当はあまり自分で運転する乗り物は使いたくないし、レオにも乗るなと言われているのだが、やっぱり利便性を取ってしまう。ちょいちょい白黒の視界の中で危険物を見落として危ない目にもあっているのだが、まぁ生きてるし。

「おーし、じゃあ今日も――って」

なんだろう。機械の故障か? 目の前の建造物がバターみたいに切り裂かれていくんだが――。

瞬間、先ほどまでにぎやかだった街から人々の悲鳴や地響き、衝突音やよく分からない音が響いてくる。
ああ、これ、いつもの通りか。

「って、にげねーと!!」

人々が逃げ惑う姿に、ハッとしてオートバイのエンジンをかける。
足で逃げるよりこっちの方が早い! こんな非常事態だし、レオも怒らないだろ!
そう思い走り出そうとしたときだった――ちょうど足を挫いて蹲っているお姉さんを見かけたのは。

……いや、無理だろ。助けられない、無理無理。だって今にも隣のビルが倒壊しそうだし、今駆け寄っても間に合わないでしょ。無理でしょ。いや、だから、無理だってば――

エンジンをかけたオートバイを全速力で走らせる。
そのお姉さんのいる場所へ。

「ああああ、くそォ!! お姉さん、立てる!? ほら、乗って!」
「あ、ありがとお……!」

泣きそうな顔をしている――よく見えないだけでもしかしたら恐怖でもう泣いているのかもしれない――お姉さんの手を掴みとる。ああ、もう、しょうがないだろう。俺は兄ちゃんなんだよ! 弟と妹に胸張れる生き方したいじゃねぇかよ!!
恐怖と戦いながら、お姉さんをオートバイの助手席に乗せようとする。ってか、このオートバイ二人で乗れんのか!?

「ッ、きゃああああ!」
「!? くそっ」

お姉さんがある方向を見て叫び声をあげる。耳に入る破壊音。
恐怖は振り払うしかない。そんなことをしていたらどっちも死ぬ!!
オートバイから飛び降りて、女性を背にして音の鳴る方を見た。
そこには三階建ての建物が形をボロボロにしながらこちらへ倒壊していく光景。
白黒で、まるで昔の映画のようなそれに、ぎゅっと目を瞑った。


「人助けはいいけど、それで死ぬんじゃ意味がないと思わないかい?」
「――な」

寒い。思ったことはそれだった。と、同時に真っ暗な視界。
誰だ、と思う前に生きていること、そして自分が非常にやばい事態に陥ったことが分かった。
おちょくるようなその声の人物は直ぐに消えた。声が聞こえなくなったし、足音が人間離れした速度で遠のくのが分かったからだ。
しかし、やばいな。

「い、今のうちに……!」
「お姉さん、先に逃げててくれ」
「なっ、どうして!?」
「後から追いつくから、それにそのオートバイ一人乗りなんだよ」

ほら、早く。そう急かすと女性は躊躇った後に、礼を言ってエンジンがかかっていたオートバイを運転して遠ざかって行った。
ふぅ、良かった。だが、良くない。

「(こわっ、壊れたああああ!!)」

機械が、機械が壊れたあああ!!
目を開けても、視界が映らない! 真っ黒、永遠の闇だよ!!
触ってみたが、これ、確実に壊れてる。っていうか、なんか氷みたいなのが張り付いてる。勘弁してくれ! これ精密機械なんだぞ! 暑くても冷たくても駄目なんだよ! 中の生物が壊死するんだよ!
ああああこれ修理に出せばなおっかな!?

――ドカァン!

「うおっ!」

全くの闇の中で消える物々しい音たち。
何かと戦っているのか、それとも爆発音か、それさえも分からない。
ただ闇に覆われた周囲に、なすすべがない。
足手まといもいいところなので、女性には先に逃げてもらったが、俺、どうしよう。
こんな物騒な中でぼっちでしかも視界が見えないとか。詰んでね?

「ああ、レオ、ミシェーラ、先に旅立つ俺を許してくれ」

出来れば最後にミシェーラの花嫁姿が見たかったなぁ。なんて、思っていたら。

「なんだ、死にたいのかい。君」
「っ、アンタ……!」

先程聞いた男の声が直ぐ近くで聞こえた。距離にすれば一メートルほどか。
今回はよく聞き取れたぞ、馬鹿にしたなお前。
どっかで聞いたことがあるようなないような声だと考えながら、人物がヒットしそうでヒットしない。
だが、そんなことよりも、この場所からの離脱が先決だ!

「瓦礫が降ってくるけど、避けないのか?」
「なぁっ!?」

って思った傍からそれかよ!! っていうか、降ってくるってどこへ!? 頭上!? それとも足元!?
迷いが躊躇を産み、身体は碌に動かない。これで直感とかで動いて生き残れるんだったらいいんだけど、そこまで運よくないんだよな俺!!
どうしていいか分からない。最終手段だ。両手で頭を抱えて、その場で座り込む。どうにか、どうにか当たっても致命傷にはなりませんように……!

「………あれ」

しかし、いつまで経っても身体に衝撃は来ないし、瓦礫が落ちる衝突音も間近でしない。
なんだったんだ。もしかして男の嘘だったのかと顔を上げてみれば、ひやりとした感覚。
そしてピキピキと聞こえる氷が鳴らす音。

氷、この声。そしてこの騒動の中平然としている。
そこまで考えて、どうして思い至らなかったのかと自分で驚いた。ひやりとした時点で気づくべきだろ。
しかし、もっと重大な事に俺は気づいた。

「アンタか……」
「あぁ、っていうか、君――」
「アンタの氷のせいで機械が壊れちまったじゃねぇかぁああああ!!」
「はぁ?」

俺の目を見えるようにしていてくれていた機械は、氷の冷たさのせいでぶっ壊れてしまった。
修理に出して直るか分からないし、もしかしたら買い直しかもしれない。
そんなことになったら俺とレオの生活は困窮を極める。ミシェーラに元気とか嘘でも言えなくなってしまう。今でも豊かと言えないのに、HLに来たばっかりの生活に逆戻り、それより悪いかもしれない。だってこれめっちゃ高いし、もしかしたら借金抱えるはめになるかも。
勢いよく立ちあが――ろうとして氷にぶつかった。どうやら頭上に瓦礫がやってきていたらしい、これで命が救われてたのかもしれない。だが、そもそも機械が壊れなきゃ逃げられたのだ。
痛む頭を押さえて悶絶し、声のした方へ思いっきり手を伸ばした。その手が男の腕の部分にぶつかって、それを思いっきり引いてやる。恐らくだが、目の前にきた男に対して、目元から機械を取り、閉じていた目をガッと広げた。

「目が視えねぇんだよ! 機械がないと、なんにも!」

実際に、この目を俺が直接見たことはない。
白黒で見える世界は目元を機械で覆わないと見えないし、どうにも見る手段がないのだ。
だが、この目が人を絶句させるのは知っている。俺の目を見てきた奴らは大体そうであったし、レオなどは――まぁ見せない方がいいなと思った。

「――なるほどな」

しかし、目の前の男は驚くほど早く言葉を返してきた。言葉に詰まったのも一瞬だ。
流石、ライブラの副官。などと思いつつ、口にも顔にもださない。
ちょっと一泡吹かせてやりたかっただけだ。命を助けてもらったのは感謝の一言だが、それでも、それでも、生活が懸かってるほどの大事な機械だったんだ……!

「じゃ、ちょっと付き合ってもらうよ」
「えっ――ちょっ!?」

ひょい、とまるで猫でも抱えるように、身体が宙に浮いた。
見えない。見えないから状況が良く分からないが、たぶんこれ、横抱き――お姫様抱っこされてる。
なんで!? っていうか力持ちだなアンタ!! 

「っていうかやっぱなんで!?」
「まだ相手もいるんでね。ここにいられると邪魔だし、だからといって目の見えない君を置いてはいけないし」
「えっ、だからってなんでお姫様抱っこ!?」
「僕は足を使うんでね。じゃあ――」

俺の必死の言葉もまるで意に介さずに、最後の言葉が合図のように、浮遊感。
一気になくなった重力とか、頬を撫ぜる風とかに、人間離れした脚力で跳んでいるのだと気づいた。

「うああああ!?」
「煩いな」

仕方がないだろうが! こんなの初めてだよ兄ちゃんは!
レオ助けて!! 兄ちゃん、お前の職場の上司に苛められてる!!


結局何故かそのまま戦いにお姫様抱っこのまま巻き込まれた。なんで。


「生江!? どうしてここに!?」
「レ〜オ〜、色々言いたいことあるけど、そんなことより機械壊れた〜」
「ええええ!? ってかホント色々聞きたいことあるけど! 壊れたの!?」
「よくわからん気障ったらしい足がすげぇ氷の野郎に壊された〜」
「酷いな。僕は助けてあげただけなのに」
「わっ、スティーブンさん!」
「にしても、彼が行ってた兄か。目を開くと似てるね。道理で似てると思ったよ」
「驚いてたんじゃないんかい!」

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bkm