- ナノ -

あの人を探して
更にキャラ崩壊が進む主。
そして突然の幼女化。



こちらアーカード、現在伊太利に居ますオーバー。
誰に対して伝えるわけでもないが、脳内で独り言を言う。ぶっちゃけ体の中には何万人もの命の記録があるからそいつらに語り掛ければ返事は帰ってくるが、死人と話す趣味はないので基本しない。
一対一とかなら相棒的な感じでいいんだろうが、何万もいると邪魔でしかない。体の中に一つの国が出来上がっているイメージである。そんなのいらん。作ったの私だけど。

そして、なぜイタリアにいるのかといえば、そりゃあ勿論運命の人に会いに来たんです。
ゴミ処理係が嫌になったとかそういうわけではない。そもそも本体の方はイギリスに置いて来たし。
ヘルシングの従僕として契約を果たしてから、私の自由は実質無くなった。だが、時折好き勝手に国々を回りたくなる時がある。勿論そんなことをしてはいけないと分かってはいるのだが、ずっと化け物どもを殺しまくる生活に精神的に限界が来る時があるのだ。嘘だけど。
しかしウォルターやインテグラを襲うギリギリのところになったりするところはある。えっ、どういう意味で襲うのかって? いやぁ、それは……。まぁ理性が聞いている内は許容できないことですよはい。
というわけで、憂さ晴らしに仕方なく外出をする時があるのだ。
幾つも魂が入っている本体はヘルシング邸に、今の私は幼い少女である。
黒髪に白い肌。白い暖かそうな古いロシア系の服を着て、辺りをきょろきょろしながら太陽の下を闊歩中である。
帽子もあるし、素肌も顔以外は隠れているから痛くも痒くもない。

しかし、海外の中でも吸血鬼の天敵の本拠地があるイタリア。
なかなか潜入をするのは大変だったが、何回か死にながら漸くたどり着いた。
まぁ私が来たことは悟られはしないだろう。インテグラやウォルターでさえ気づいていないのだから。セラスなんて尚更だろう。

さて、目的である運命の人だが……名前はアンデルセンというらしい。
うん。いい名前。見た目も好みだ。というか私の好みは本能的なもので、要するに強ければいいのだが割愛する。
こんなストーカーじみたことをして人間として恥ずかしくないのかという話だが、私はそもそも人間じゃなかった。いや、しかし人格を疑われる行為ではある。しょうがない。ストレス発散の為なのだ。インテグラやウォルターを襲うよりいい。

「ふふふ、ここかな?」

彼が居るという情報がある孤児院の門から中を覗く。
柵が広げられる仕組みになっているが、今は日中なので誰でも入れるように門は空いている。
うはは、吸血鬼がこんなところにいるというのに随分と不用心ではないか!
おっとキャラ崩壊しかけた。だってこんな純粋なワクワク感久しぶりなのだ。闘争でもない殺戮でもない。ああ、なんと人間的なのだろうか。理性が正常に働いている感じがビンビンする。
その割にはストーカーだけど。

「さーて、アンデルセンは……」
「私がどうかしましたか?」
「えっ」

背後に、ずうっと大きな影が出来る。丁度私を囲い込むように出来たその影は、私が運命の人と銘打った人の輪郭に瓜二つだった。
というか。

「ひえっ」

本人じゃねぇかああああ!!!
アンデルセンの眼鏡が逆光で意味深げに光ったのを見て(可笑しいなぁ太陽はアンデルセンの後ろにあるはずなのになぁ!)咄嗟に駆けだした。怖い怖い! 好きですけどこの好きは遠くから眺めていたいの好きでしたすいません出直します!!

「おっと、人の顔を見て逃げるなんて教育がなっていませんね」
「きゃあああ!」

思わず幼女らしい、高い声で舌足らずに叫んでしまうほど驚いた。
首元を掴まれ宙ぶらりんになった身体は頼りなく、無駄に手足をばたつかせてもびくともしない。
やばいやばいやばい殺される殺される。折角ここまで来たのに殺される。嫌だもっとアンデルセンをストーカーしてたい! 今度は遠くからストーカーするから許してぇ!

「迷子ですか? 親はどうしたんです」
「ま、迷子?」
「違うのですか?」

終始敬語で話すアンデルセンに慣れないながらも言葉を繰り返す。
うわ、うわわ。いまアンデルセンと挑発以外で話し合ってるよ! うわ、嬉しい。
紳士的な態度を崩さない神父服を着た彼は(首元を掴まれてはいるが)とても新鮮でカッコいい。
神父服を着ていると本当にただの神父様のように思えるし、顔にある古傷も、眼鏡を掛けて穏やかな顔をしているととても戦いでついたものだとは思えない。戦闘時は銃剣を掴む大きな手も化け物を抹殺するためではなく子供たちの為に開かれているのだ。化け物が跋扈する夜ではなく、太陽の光を背負って人々を導く神父の禁欲的な姿を見ていると、全てを暴いて血を存分に吸って犯しつくしたくな――って違うッッ!!

「う、うう……」
「どうしましたか?」

こんな真昼間から理性が吹っ飛びそうになる衝動を抑える為に目を瞑って呻くと、アンデルセンが怪訝そうな声をかけてくる。しかしそれも柔らかで、少しだけ落ちた声のトーンに心配しているのだということが知れて、その口に手を突っ込んで舌を引っ張って驚きそして疑念から殺意に瞳の色が変わるその瞬間をじぃっと凝視したい衝動に駆られ――あああああ、もう!

「し、神父様」
「はい」

柔和に微笑むアンデルセンにノックアウト寸前である。理性が。

「お、降ろして……」

こんなに近いと飛びついて首元にかみついてしまいそうなのだ。
貴方の身体の安全のためにも距離を離させてくださいお願いします。早々噛みつかれないとは思うけど。
衝動を抑える辛さに若干涙目になっていると、アンデルセンの眉が下がった。
何故だろうと疑問が頭をかすめたその時、すとんと地面に降ろされる。

「ありが」
「ご両親はどうされたんですか?」

再び同じ質問を繰り返されるが、それよりも全身に走った寒気というか悪寒としいうか鳥肌がヤバかった。
あの、あのアンデルセンが、私の頬に手を添えているのだ。
えっ、えっ、なに、これどういう状況?
暖かな手の平が、手袋越しではあるが温度を肌に伝えてくる。
えっ、えっ? た、食べていいの? 遠回しに首筋に歯を立てていって言ってくれてるの?

「い、ない、です」

ってそんなわけあるかい!!
自重しろ私。これはとても美味しい展開だ。この展開を壊していいはずがない。
というかここでアンデルセンにアーカードだとバレてしまったらヘルシングの立場がない。色々国際問題が過ぎる。
だから自重しろ私。美味しそうだとか思うな私!! だってアンデルセンは神父だから童貞だしとってもいい匂いがするんだよおおおお!!

私の理性と本能の天秤などいざ知らず、アンデルセンは柔らかく笑いかけてくる。
だから! その! 笑顔があああ!

「一人でここまで来たのですか?」

はい。ヘルシング邸から一人で来ました。イギリスで三回。フランスで一回。イタリアで五回死にました。

「私を探しにここまで?」

はい。戦いの日々に嫌気がさしたので癒しを求めに来ました。貴方目当ての何物でもありません。

「そうですか」

ずっとこくこくと首を上下に揺らしていたら、アンデルセンが一瞬だけ悲しそうな顔をした。
どうした体調でも悪いのかと驚いて目を瞬けば、ポロリと涙がこぼれ出た。
驚いた拍子に溜まっていた涙が一筋流れ出たらしい。
頬にその涙のくせに暖かくない感触を感じている内に、ひょいと両脇を抱えられ持ち上げられた。

「ひょわ!?」

再びの宙。しかも両脇にはアンデルセンの大きな手。
目の前にはニッコリ笑顔のアンデルセン――あ、これは――死んだな。

短い休暇だった。諦観を含めてアンデルセンを眺めていると、困り顔でそんな顔をしないでください。と言われる。
アンデルセンは意外と化け物にも最後には優しい顔をして見せるタイプだったか。そういうの悪趣味っていうんだよ。

「さぁ、中に入りましょう」
「……へ?」
「はは、今日から貴方も神の庇護下に入るのですよ」

えっ。

い、いいんですかアンデルセン様ああああ!!!



―――――

謎展開。

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