- ナノ -

運命の出会い
その日、私は運命の相手に出会った。
満月の美しい日は、何故だか化け物どもが元気になって危険も顧みずに人殺しに励む。
分別のつかない化け物どもは無差別に吸血し、頭の悪い化け物を量産する。

「婦警、面倒だからお前やれ」
「ええっ! そんなこと言ってると、またウォルターさんに首切られちゃいますよ?」
「煩い。その時はその時だ」

婦警と二人でのゴミ処理任務だが、相手がグールなので気が乗らない。とても気が乗らない。
だって怖いじゃんグール。普通の吸血鬼は人間の形してるけど、こいつらめっちゃカタチ崩れてるし、帰省発しながら近づいてくるし。グロイし怖いし。私そういうの苦手なんだよ!
それにウォルターみたいな強者ならわざわざ動きもするが、基本銃での殺戮とかやる気失せる。私は別に弱い者いじめが好きなわけではないのだ。
いや、理性が働いていればそもそも強者も好きじゃないけどね。怖いし。
しかし吸血鬼の本能なのか、強い者を見ると、こう、涎が……じゃなくて、身体がうずうずしてしまうのだ。それで我慢しすぎると本能が爆発してなんでもかんでも屈服させたくなる。あれなにこれ歪んでる?

まぁ最近は(ウォルター以外には)そんなことも発生していないし、そもそも理性的には発生させたくなどないので、平穏な日々が続いている。
こうしてゴミ処理として派遣されることはあるとしても、ただの雑魚敵ばかりで一安心だ。

「おーおー、頑張ってるな」

あ、なんかセラスの理性が切れた感じがした。なぜ? なんでだろ。あれかな、血を吸ったからかな。
あの感じは私にも覚えがあるから、親近感を覚える。人間の血を自ら吸血してしまえば理性も書き換えられてしまうのだろうが、今はまだ本能に振り回されているだけだろう。
セラスは戻るかな? どうだろう。
と、思ったらグールがこっち来た。ちょ、やめろ、こっちくんな! 私はゾンビ苦手なんだってばあああ!

銃で近寄られる前に片付けて、グールを全て殺したセラスの元へ足を運ぶ。
丁度本能にかられて、グールの糞不味い血を舐めようとしていたので、ちょっと様子を見てみる。それを自らの意思で飲んでしまえば、セラスは立派な吸血鬼となるだろう。
うーん、セラスも凶暴になっちゃうのかねぇ。ちょっとあのビクビク具合が名残惜しいなぁ。

なんて思っていたらセラスの首元に剣が刺さった。
そうして続けざまに八本。胸から腹にかけて突き刺さったそれに、思わず目を瞠る。
セラスが倒れたのを合図に、周囲の壁に聖なる言葉と図が施された紙が一斉に貼り付けらる。
結界だ。化け物どもを閉じ込めてしまう便利な道具。

階段の軋む音と共に、隠れることのなくなった気配が影と共に現れる。

「我らは神の代理人。神罰の地上代行者。
 我らが使命は我が神に逆らう愚者をその肉の一片までも絶滅すること――Amen」

そこに居たのは月明かりに照らされ、銃剣を十字に交えた大男。
眼鏡を掛けた神父服の男は、聖句と共に独特の殺気をこちらへ向けた。

なんだ、なんなんだこいつは――凄い、凄い好みなんですけど。

私は今日、運命の相手に出会った。
これで生きている者の中では、インテグラ、ウォルター、セラスに次いで四人目である。

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bkm