- ナノ -

中身の独り言
(ヘタレでチキンで泣き虫バージョン。でも外には出ない。なんか女々しい。
著しくキャラ崩壊。ガッカリ不可避。ご注意。あと生々しい。)



まさかこんなことになるとは。
二十年ぶりに目を覚ましてみれば執事に強襲され、しかも欲に負けて血を啜るという失態まで犯した。
いやでも本当にあれは甘美だった。思い出しただけで涎が出てくる。あんなに美味しそうなものを前に少しでも我慢できた己が偉い。すいません嘘です。私は本能に負けてしまう下半身野郎です死にます。あ、死んでた。

しかし、あの後恐ろしいことが起きた。
本能に負けて理性でも負けて、ウォルターの首元に噛みついた。
どろどろで、童貞でもない血だった。味は濃く、雑多な色が混ざった綺麗とはいいがたい血液だった。
だというのに今まで吸ってきた何よりも口に合った。
ウォルターは吸血の感覚に耐えられなかったのか口を開けて涎を出していたが、それでも笑っていた。
壮絶で、どうすればここまで色香を出せるものかと頭が吹っ飛びそうになった。
ギリッギリ耐えて、変化していく彼を見ていた。弧を描いていた口元は体の異変に歪み、眉は引き寄せられ、びきびきと体中から音が聞こえた。
さてどうなるかと戦々恐々と見守っていると、ウォルターの顔が急に近づいた。
何事だと動けずにいれば口元にかさついた感触がした。頭が吹っ飛んだ。
それからは頭が吹っ飛んだ通りで、これ幸いと獲物に齧り付いたのだけ覚えている。
しかし目に映った、苦痛に彩られているべき目元がニヤリと細まり、直後に舌に激痛が走った。
噛まれるどころではない。噛み千切られたそれを、彼は口づけを交わしたまま口の中で転がした。大量に流れ出る血の中で。
口内に溜めきれなくなった血液が交わした隙間から漏れ出ていく。彼はごきゅりと舌ごと血液を飲み干して、顔に垂れた血を舌で辿り、舐めきって微笑んだ。

『さぁ、どうなるかな?』

その時のウォルターの顔は忘れられない。
右眼は黒ずみ右上の額から血管が浮き彫りになり血の通わなくなった部分が黒く変色し、確かにグールの形相を呈していた。
だが左眼は真っ赤な光を放ち、人間でないことを知らしめる。
笑みを描くその口元は確かに吸血鬼のものであろう犬歯が覗く。皺があった顔は張りを取り戻し、若かりし頃がそのまま再現されていた。
ちびるかと思った。色んな意味で。

ウォルターはそのまま苦しみの中で朝を迎えた。
どうなるかハラハラしながら見守っていたが(別に変なことはしていない。いやだからしてない!)苦しみから解放された彼の姿は、若かりし頃のそのままとなっていた。彼が人間最強と呼ばれ、絶頂期であったその頃のままだ。
まさか本当に彼が言っていたことがそのまま現実となるとは。確かにこれはグールとは呼べまい。しかし、吸血鬼とも違う。

その後何が起こったかといえば、突撃してきた身体に異常はないかと服を捲った私を起きたらしいヘルシング嬢が目撃して銃撃された。酷い!私は何もやってないのに! いや、吸血しちゃったな……。
幼いインテグラは戸惑いや困惑、信頼していた執事が疲労で伏せっているのに動揺しつつも、それを悟らせないように必至で銃を向けながら説明を正してきた。勿論執事を庇うように。
その光景は、本当に胸が高鳴った。どうしてこうもこの主従は私の心を弄ぶのが得意なのだろうか。監禁でもなんでもして一生閉じ込めておきたい。いや、そんなことをしたら彼女らの生きざまが見れない。だが、きっとそんな状況でも希望を絶対に捨てずに歯向かってくるのだろうだから堪らな――ハッ、違う違う。こんなんだからミナの時も失敗したんだろう学習しろ私!!

とりあえず、己が分かる事だけ説明し、後は主従に任せてしまった。
そこにいたらいつ襲ってしまうか分かった者ではないからだ。本当に私の本能を突くの止めてくださいお願いします。
というかインテグラ嬢に嫌われたなぁと思って涙がちょちょぎれた。

それから数十年後。
私は新しいセラスという子を吸血鬼として迎えた。いや、本人は望んでいなかったんだけど、不可抗力というか。インテグラ嬢にめっちゃ怒られたけど。でも仕方がないじゃん! そうしないとこの子死んでたし、似非神父吸血鬼野郎殺せなかったし!! アイツホント糞だわああいうのがいるから私とかの肩身が狭くなるんだよ私の為に死ね。というか殺す。

ちなみに、ウォルターは普通にゴミ処理係兼有能執事として働いている。
時折私を殺しに来るが、まぁそれもゴミ処理の時に限るから別にいいんだけど。でもセラスが怖がるんだよな。しかしセラスも吸血鬼になってるのに本能に抗ってるのが凄い。その鉄壁の理性私にもくれ。

とりあえず、また面白い人間も見つかって、本能的に日々が充実している。いや、理性的に充実したいんだけどさ。
新しいセラスという仲間も加わって、インテグラも鉄仮面へと成長し、アンデルセンという好戦的な本能を全力で揺さぶってくるカトリックも敵として出てきて、日々が血みどろにきらめいているのだ。
……まぁ普通にセラスたちと話せるの楽しいからいいけど。
ああ、時折アンデルセンの事を(本能で勝手に)考えているとウォルターが拷問をかけてくるのをどうにかしてほしいぐらいで。吸血鬼に痛覚ないと思ってるの? 普通に痛いんだからな馬鹿!!
でも、やっぱり充実していることは確かなので。

このままずっと平穏な日々が続けばいいのになぁ。


(まぁそんなこと有り得るはずもなく、戦闘狂どもが戦争を仕掛けてきたんですが)


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bkm